ある街の片隅。
路地裏の掃き溜め。
かつて少女だったものが、静かに、そしてかろうじて残された息を引き取ろうとしていた。
その双眸には何も映らない。
降りしきる雨が彼女の体を打ちつけているはずだが、その冷たさすら…もう感じることはできなかった。
ただ一つ、彼女をこの瞬間まで生かし続けたものがある。
それは、自らの身に降りかかった不幸への深い恨み。
それだけが、彼女のか細い呼吸を微かながらも、続けさせていたのだった。
妬ましい。悔しい。辛い――。
そんな感情は、もう涙と共にとうに枯れ果てたと思っていた。
だが、死を目前にした今、その感情は再び静かに、
しかし確かに彼女の胸の奥からふつふつと湧き上がってきた。
それは不条理への怒り、無力さへの絶望、そして何より、この世の全てに対する深い恨みだった。
(願ったって叶わない。祈ったって変わらない。)
どうしようもなく打ちのめされる中、皆が必死に縋るように祈りを捧げているのを横目にただそう思っていた。
救いなどなく神父に売り飛ばされ、狂った目をした大人に、その後汚され、絶望の淵にあって祈りを捧げている子達を沢山見てきた。
そして、自分はそれをどこか達観したような、諦観したような気持ちで見ていたのだ。
しかし、この時を迎えて、祈らずにはいられなかった。願わずにはいられなかった。
指先一つ動かない中で、出来ることはもうそれだけだったのだ。
今まで見てきた少女達とは違った形で、少女は祈った。祈ってしまった。
ああ…世界よ、天上に踏ん反り返っている神よ。
こんな道端の虫のように死にゆく姿は、あなたの目には映らぬのだろう。
私という存在が消え去っていくのは、もうどうしようもなく避けられないのはわかる。
だが、この胸に渦巻く恨みは、それだけは消えることはないだろう。
たとえ私が塵となっても、この心の奥底に燃え続けるこの思いだけは…永遠に燃え続ける憎悪の炎だ。
神よ。貴方に初めて祈ろう。
神よ。最期に祈ろう。
永劫の禍を。
どうか貴方と世界に不幸あれーーー