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第19話「争いの果てに」

「うぷっ……。ゴ、ゴトウめ……。そろそろくたばったらどうだ……うぷっ」


「おぇ。ぬかせ……。サカイよ……。貴様こそ早く仲間の元へ逝ってやったらどうだ……おぇ」


 戻しそうになりながらも、凍ったままの唐揚げを貪り続ける両者。


「さあ、試合はもうクライマックスでしょうか? 意地と意地のぶつかり合い。制するのはいったいどちらでしょうか?」


「なんか見ている方が辛くなってきましたぞ……。もうみんな仲良く一等賞でいいんじゃないですかな……?」


 両者の皿からほぼ同時に唐揚げがなくなる。


「「おかわり」」


 二人とも内心もう唐揚げなんて見たくもないだろう。ただここまで来て今更負けるわけにはいかない。その意地とプライドだけが彼らを突き動かしていた。


 ***


「店長さーん。カリンちゃーん。唐揚げを……って気を失ってます!?」


 アオイが唐揚げを取りにいったが、店長とカリンが気を失い、厨房はその機能を停止していた……。


「そこの置き土産の唐揚げ持ってけば?」


「え、でも……。温めてからじゃないと……」


「別にいいんじゃない? さっきのだって凍ったままだったし」


「ええ!?」


 話し合いの結果、結局凍ったまま出すことになった。


「あ、そうだ。店長さんからノアちゃんにこれをって」


 アオイがふと、店長から今際の際で、ノアに渡してくれと託された物の存在を思い出す。


「え……これ……本当に大丈夫……?」


 その正体を見て、普段ポーカーフェイスを崩さないノアにも若干の動揺が見えた。


「まあ、やるしかないか……」


 ノアは厨房で気を失っている店長とカリンを見て、他に打つ手もないしと覚悟を決めたようだ。


 一緒に渡されたガスマスクを装着し、戦場へと戻るノア。その手には赤い果実が二つ握られていた。


 ***


「さて。厨房ではなにやら一悶着あった様子ですが、今ノアさんが戻ってきました。ですが、なぜガスマスクをつけているのでしょうか……?」


「手に持っているアレは……ま、まさか!?」


 唐突なガスマスク女の登場に、にわかにざわめきだす会場。その手にあるものの存在の危険に気づいた者の中からは、慌てて会場から逃げ出そうとする者もいた。


「ちょっと!? お客さん!? お会計まだですよ!? 行かないでくださいーーー!?」


 食い逃げ客の対応などでパニックに陥る会場。


 しかし、リバースしないよう堪えるのが精一杯な二選手には、そんなことを気にしている余裕もなかった。


 そんな二人の傍らに、ガスマスク女が現れる。


「あ、姐御? どうしてガスマスクなんか……?」


「その手にあるのは……まさか? ま、待ってくれい!? ソイツは洒落になら……」


 その手にあるものを見て、これから起こる事態を察した二人。決死の命乞いも、ガスマスクに遮られたのか、或いは……。赤い果実は重力球内へと容赦なく投げ込まれ、爆発四散した。


「「ぎゃあああああ!!! 目が、目が、灼けるぅううううう!!!」」


 レモンやシークワーサーとは比べ物にならないほどの刺激性をもつその欠片は、たちまち両者の目を焼き尽くさんばかりのダメージを与えた。


「ハバネロ爆弾の炸裂です! 厨房がもう機能停止したからなのか、本気でノックアウトさせにきましたね……」


「良い子の皆さんは真似しちゃダメですぞ」


 目を開けることもできず、断末魔とともに倒れ臥す両者。元より胃は限界を迎えており、ここからさらに立ち上がろうという気力は、どこにも残されていなかった。


「両選手ここでノックアウトです。長い長い激戦は、なんと引き分けでの幕引きとなりました……」


 ***


「えっと唐揚げプレート50個入りが10皿で40,000円。牛サイコロステーキの素揚げ50個入りが4皿で49,680円。ブロッコリーの素揚げ50個入りが4

皿で17,600円。冷凍唐揚げ50個入りが4皿で6,288円。レモンが14個で1,456円。シークワーサーが4個で150円。ハバネロが2個で580円……」


 とてつもない長さの伝票を見ながら、淡々とレジ打ちをするノア。


「お会計115,174円ね」


 やっと合計金額の算出がされ、その数字を前にして顔を見合わせるサカイとゴトウ。


「なあ、ゴトウよ……」


「ああ、サカイよ……」


 不倶戴天の両者ではあるが、今ばかりは同じことを考えているようだ。死んだ魚のような目でボロボロの天井を見上げ、どちらからともなく同じことを呟いた。


「「戦争とは、金ばかりかかって虚しいものだな……」」

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