「うぷっ……。ゴ、ゴトウめ……。そろそろくたばったらどうだ……うぷっ」
「おぇ。ぬかせ……。サカイよ……。貴様こそ早く仲間の元へ逝ってやったらどうだ……おぇ」
戻しそうになりながらも、凍ったままの唐揚げを貪り続ける両者。
「さあ、試合はもうクライマックスでしょうか? 意地と意地のぶつかり合い。制するのはいったいどちらでしょうか?」
「なんか見ている方が辛くなってきましたぞ……。もうみんな仲良く一等賞でいいんじゃないですかな……?」
両者の皿からほぼ同時に唐揚げがなくなる。
「「おかわり」」
二人とも内心もう唐揚げなんて見たくもないだろう。ただここまで来て今更負けるわけにはいかない。その意地とプライドだけが彼らを突き動かしていた。
***
「店長さーん。カリンちゃーん。唐揚げを……って気を失ってます!?」
アオイが唐揚げを取りにいったが、店長とカリンが気を失い、厨房はその機能を停止していた……。
「そこの置き土産の唐揚げ持ってけば?」
「え、でも……。温めてからじゃないと……」
「別にいいんじゃない? さっきのだって凍ったままだったし」
「ええ!?」
話し合いの結果、結局凍ったまま出すことになった。
「あ、そうだ。店長さんからノアちゃんにこれをって」
アオイがふと、店長から今際の際で、ノアに渡してくれと託された物の存在を思い出す。
「え……これ……本当に大丈夫……?」
その正体を見て、普段ポーカーフェイスを崩さないノアにも若干の動揺が見えた。
「まあ、やるしかないか……」
ノアは厨房で気を失っている店長とカリンを見て、他に打つ手もないしと覚悟を決めたようだ。
一緒に渡されたガスマスクを装着し、戦場へと戻るノア。その手には赤い果実が二つ握られていた。
***
「さて。厨房ではなにやら一悶着あった様子ですが、今ノアさんが戻ってきました。ですが、なぜガスマスクをつけているのでしょうか……?」
「手に持っているアレは……ま、まさか!?」
唐突なガスマスク女の登場に、にわかにざわめきだす会場。その手にあるものの存在の危険に気づいた者の中からは、慌てて会場から逃げ出そうとする者もいた。
「ちょっと!? お客さん!? お会計まだですよ!? 行かないでくださいーーー!?」
食い逃げ客の対応などでパニックに陥る会場。
しかし、リバースしないよう堪えるのが精一杯な二選手には、そんなことを気にしている余裕もなかった。
そんな二人の傍らに、ガスマスク女が現れる。
「あ、姐御? どうしてガスマスクなんか……?」
「その手にあるのは……まさか? ま、待ってくれい!? ソイツは洒落になら……」
その手にあるものを見て、これから起こる事態を察した二人。決死の命乞いも、ガスマスクに遮られたのか、或いは……。赤い果実は重力球内へと容赦なく投げ込まれ、爆発四散した。
「「ぎゃあああああ!!! 目が、目が、灼けるぅううううう!!!」」
レモンやシークワーサーとは比べ物にならないほどの刺激性をもつその欠片は、たちまち両者の目を焼き尽くさんばかりのダメージを与えた。
「ハバネロ爆弾の炸裂です! 厨房がもう機能停止したからなのか、本気でノックアウトさせにきましたね……」
「良い子の皆さんは真似しちゃダメですぞ」
目を開けることもできず、断末魔とともに倒れ臥す両者。元より胃は限界を迎えており、ここからさらに立ち上がろうという気力は、どこにも残されていなかった。
「両選手ここでノックアウトです。長い長い激戦は、なんと引き分けでの幕引きとなりました……」
***
「えっと唐揚げプレート50個入りが10皿で40,000円。牛サイコロステーキの素揚げ50個入りが4皿で49,680円。ブロッコリーの素揚げ50個入りが4
皿で17,600円。冷凍唐揚げ50個入りが4皿で6,288円。レモンが14個で1,456円。シークワーサーが4個で150円。ハバネロが2個で580円……」
とてつもない長さの伝票を見ながら、淡々とレジ打ちをするノア。
「お会計115,174円ね」
やっと合計金額の算出がされ、その数字を前にして顔を見合わせるサカイとゴトウ。
「なあ、ゴトウよ……」
「ああ、サカイよ……」
不倶戴天の両者ではあるが、今ばかりは同じことを考えているようだ。死んだ魚のような目でボロボロの天井を見上げ、どちらからともなく同じことを呟いた。
「「戦争とは、金ばかりかかって虚しいものだな……」」