「なんか最近、忙しすぎやしないかしら……?」
ある日のラストオーダー後。疲労困憊のカリンが呟いた。
「そうだねー……」
苦笑いを浮かべるアオイ。どうやら彼女も同意見のようだ。
コルボの席数は50席ほど。中型ファミレスくらいの規模はあり、店員4名のみで回すには中々ハードだ。
「まあ仕方ないんじゃない? まさか客に来るなって言う訳いかないし……」
「そうよね……」
ノアの諦めたような呟きに、カリンも頭を抱える。
「店員の募集とかってしてないのかしら……? オープニング以来私たち以外の誰も入ってないけど……」
「ん~、どうだろう? 面接してるとことかも見たことないしねぇ……」
「さすがにずっとこのままの状態は身が持たないわ……。ちょっと店長に直談判してくるわね」
「え? あ、カリンちゃん待って~!」
突然歩き出してしまったカリンを、慌ててアオイが追いかける。
「まあうちにそんな人件費出す余裕なさそうだけどね……」
先日のゴキブリ騒ぎの残骸の一つである、焦げたカーテンを見ながら呟いたノアの言葉は、すでにカリンの耳には入っていないようだった。
***
「あ? 店員の募集をかけて欲しいだぁ?」
事務所で居眠りしていた店長は、突然現れたカリンに叩き起こされると面倒くさそうに頭をかいた。
「そうよ! ちょっと最近ハード過ぎるし、そろそろ店員増やしてほしいんだけど!?」
「あはは……。店長さんごめんなさい」
疲労から気が立っているカリンと、その後ろで苦笑いを浮かべたアオイの両者を見比べ、店長は何かを察したようにため息をついた。
「まあ、お前らだけじゃパフォーマンスのネタもマンネリだしな……。面倒くさいが、また募集かけてみるか……」
あまり気乗りしない様子で、ボリボリと頭を掻いている店長。
「またって、面接してるとこなんか見たことないけど……?」
「しばらく止めてたからな……。まあ、あんまり期待すんなよ? お前ら三人雇うのだってやっとのことだったんだからな……」
店長は何故か遠い目をしながら、釘を刺すようにそう言った。
***
「で、どうだったの?」
やっと戻ってきた二人に対し、ノアが尋ねる。
「それがね、聞いてよノア!? 店長に言ったら募集かけてくれるって!?」
興奮気味のカリンが、待ってましたと言わんばかりに、ノアにそう告げる。
「へー。よかったじゃん」
「でも、店長さんあまり乗り気じゃなさそうだったね? 『お前ら三人雇うのだけでもやっとだった』って遠い目だったし……?」
見るからに乗り気ではなさそうだった店長の様子を、アオイが振り返る。
「まあ魔法使いなんて絶滅危惧種だしね。どうせ募集かけてもこないだろうから、やるのが面倒くさいんじゃない?」
「まあとにかく、後は店長の手腕に任せましょ? 疲れたから早く帰って寝たいわ……」
「あはは……。私も」
疲労困憊の三人は急いで帰り支度をし、それぞれの帰路についたのであった。