目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第5話「立ち上がれプロレタリアート」

「なんか最近、忙しすぎやしないかしら……?」


 ある日のラストオーダー後。疲労困憊のカリンが呟いた。


「そうだねー……」


 苦笑いを浮かべるアオイ。どうやら彼女も同意見のようだ。


 コルボの席数は50席ほど。中型ファミレスくらいの規模はあり、店員4名のみで回すには中々ハードだ。


「まあ仕方ないんじゃない? まさか客に来るなって言う訳いかないし……」


「そうよね……」


 ノアの諦めたような呟きに、カリンも頭を抱える。


「店員の募集とかってしてないのかしら……? オープニング以来私たち以外の誰も入ってないけど……」


「ん~、どうだろう? 面接してるとことかも見たことないしねぇ……」


「さすがにずっとこのままの状態は身が持たないわ……。ちょっと店長に直談判してくるわね」


「え? あ、カリンちゃん待って~!」


 突然歩き出してしまったカリンを、慌ててアオイが追いかける。


「まあうちにそんな人件費出す余裕なさそうだけどね……」


 先日のゴキブリ騒ぎの残骸の一つである、焦げたカーテンを見ながら呟いたノアの言葉は、すでにカリンの耳には入っていないようだった。


 ***


「あ? 店員の募集をかけて欲しいだぁ?」


 事務所で居眠りしていた店長は、突然現れたカリンに叩き起こされると面倒くさそうに頭をかいた。


「そうよ! ちょっと最近ハード過ぎるし、そろそろ店員増やしてほしいんだけど!?」


「あはは……。店長さんごめんなさい」


 疲労から気が立っているカリンと、その後ろで苦笑いを浮かべたアオイの両者を見比べ、店長は何かを察したようにため息をついた。


「まあ、お前らだけじゃパフォーマンスのネタもマンネリだしな……。面倒くさいが、また募集かけてみるか……」


 あまり気乗りしない様子で、ボリボリと頭を掻いている店長。


「またって、面接してるとこなんか見たことないけど……?」


「しばらく止めてたからな……。まあ、あんまり期待すんなよ? お前ら三人雇うのだってやっとのことだったんだからな……」


 店長は何故か遠い目をしながら、釘を刺すようにそう言った。


 ***


「で、どうだったの?」


 やっと戻ってきた二人に対し、ノアが尋ねる。


「それがね、聞いてよノア!? 店長に言ったら募集かけてくれるって!?」


 興奮気味のカリンが、待ってましたと言わんばかりに、ノアにそう告げる。


「へー。よかったじゃん」


「でも、店長さんあまり乗り気じゃなさそうだったね? 『お前ら三人雇うのだけでもやっとだった』って遠い目だったし……?」


 見るからに乗り気ではなさそうだった店長の様子を、アオイが振り返る。


「まあ魔法使いなんて絶滅危惧種だしね。どうせ募集かけてもこないだろうから、やるのが面倒くさいんじゃない?」


「まあとにかく、後は店長の手腕に任せましょ? 疲れたから早く帰って寝たいわ……」


「あはは……。私も」


 疲労困憊の三人は急いで帰り支度をし、それぞれの帰路についたのであった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?