「唐揚げプレート。50個入りで」
「レモンは？」
「コルボ」店内、テーブル席の一角。無表情で淡々と接客をするノアと、強面で屈強な男性客の団体とのやり取りが行われている。特に変わったことは無いはずなのだが、ノアが唐揚げにレモンをつけるかどうかの確認をしようとすると、屈強な男達はなぜか皆いっせいに固唾を飲んだ。
「お願いします……」
「了解」
男たちのリーダーが覚悟を決めたかのように声を絞り出す。ノアはそれに塩対応で返すと、そのまま厨房へと戻っていった。
「はい、唐揚げプレート50個入り。今レモン持ってくるね」
10分ほどが経ち、唐揚げプレートを持ってきたノアは、テーブルの真ん中に無造作にそれを置いた。
レモンを取りにノアが踵を返すと、厳つい男たちに走る緊張感もピークに達する。
「お待たせ。レモン持ってきたよ」
戻ってきたノアの手には、そのままでは果汁を絞るには不向きであろう、切られてすらいないそのまんまのレモンが握られていた。
「じゃあ、行くよ」
そう言うとノアはパチンと指を鳴らした。すると、プレートの真上、男たちの目線の高さくらいに青紫色の小さな重力球が展開される。山頂の唐揚げが少しだけ浮き上がる。
男たちはその重力球を固唾を飲んで見つめている。するとノアは、そこ目掛けてレモンが唐突に投げ入れた。
全方位の圧力を受けたレモンは空中で破裂し、ブシャーとその果汁を四方八方へと撒き散らす。
「ぐわあぁぁぁ～！！！」
「目が！ 目があぁぁぁ～！！！」
レモン汁の噴射をもろに顔面で受けた男たちは、各々もの凄い形相で悶え苦しみ、店の床でのたうち回る。
しばらくして男たちがようやく鎮まると、リーダーの年長の男がよろよろと立ち上がり、ノアの方へと向き直る。
一連の光景は一見異様なものであったが、慣れた客にとっては日常茶飯事なようで、あまり気にしている者はいないようだ。
「ノアの姐御！！！ 本日もありがとうございやしたあぁぁぁ！！！」
店内で出すには迷惑な音量でそう叫ぶと、その男はノアに向かって深々と頭を下げた。
「これで若い衆にも気合いが入ったと思いやす！！！ おい、お前ら！！！ それ食ったら
「「「押忍！！！」」」
そう号令がかかると、男たちは50個の唐揚げをあっという間に平らげ、勢いのままにそのまま騒がしく店を出ていった。
＊＊＊
「アンタね……。初見のお客様がビビるから、アレやめさせなさいよ……」
男たちが店を出てカチコミに向かったのち、カリンはノアをたしなめるように言った。
「別に私がやらせてるわけじゃないんだけどね……。まあ私の魔法は正直パフォーマンス向けでもないし、売上的にもお得意様だからいいんじゃない？」
悪びれるわけでもなく平然と答えるノア。
「まあ確かにそうだけれども……。まあいいわ。でも、あの声量だけはなんとかならないかしらね……。今もちょっと頭が痛いわ……」
カリンが頭を抱えながらそう言うと、ノアは静かにクスッと笑ってみせた。
「まあ売上になるならなんでもいいぞ。ただし、そこの飛び散ってるレモン。全部片付けて掃除しとけよ」
たまたま通りすがった店長がノアに向かってそう言うと、ノアは掃除用具を取りにトボトボと倉庫へと向かったのだった。
＊＊＊
ノアの得意魔法は「重力展開」。ピンポン玉ほどの大きさの重力球を展開する。重力球は周囲のものを吸い寄せ、中央のものに全方位から圧力を加えることができる。しかし、吸引力は人間の鼻呼吸程度の微々たるもので、かかる圧力も握力程度である。
「コルボ」では、主に果汁を絞ったり食材を潰したりに使われているが、性質上四方八方に飛び散ってしまうため、あまりパフォーマンスには向いていない。……と思われていたが、ふとしたきっかけで例の団体の御用達となり、売り上げを支えてくれているのだとか。
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とあるお客様へのアンケートより。
「あっしはサカイのアニキに連れられて来たんですが、そこで見た光景は衝撃の一言でした。『
