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2.面接案内



 緊急メンテは地獄だ。改修してメンテが終わるまで帰れない。

 だから緊急メンテがあった時期は、余裕で月残業が100時間を超す。


 この前のパズルゲームもそう。あの時は2日連続でオールをして、やっとメンテを終えることができた。


 当然、緊急メンテばかりやっているわけではなくて、新しくリリースする予定のゲーム開発も行っている。だから遅くまで残業に追われる日々。



 深夜残業。

 土日出勤、祝日出勤。


 ずっと、それの繰り返し。


 一体、私の自由な時間はどこにあるのだろうか。





 大好きなプログラミングなのに。

 やりたかった、プログラマーの仕事なのに。


 私はプログラミングに、殺されそうになっていた。







 ある日、総務部から1通の手紙が手元に届いた。


 【産業医面接の希望調査】



「……産業医?」



 中身は封筒に書かれている通り、産業医との面接の希望調査をするものだった。


 月残業時間が100時間超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申し出を受けて、医師の面接指導を行わなければいけないらしい。

 うちの産業医は、近くの総合病院に勤務している精神科医、日比野ひびの玲司れいじという。


 名前は知っていた。

 なんせ、社内では有名人だったから。



 日比野先生は精神科医なのに、冷たくて思いやりがないことで有名。


 辛くて苦しくて病んでいた元同僚がいた。その人はとっくの昔に退職したのだが、退職前に日比野先生の面接を受けて大泣きをしていた。



『生きるのが辛い、消えても良い』


 同僚がそう伝えると、日比野先生は


『そう。じゃあ生きるのを止めたら?』


 と答えたらしい。



 社内では、超有名な話だ。


 日比野先生。別称、冷酷な産業医。ゆえに、望んで面接を受けようとする社員はほとんどいない。






 しかし、これまでも月100時間を超すことなんて何度もあった。だけど総務部からこのような手紙が来るのは初めてだ。



「……あれかな。総務部から見て、私に疲労の蓄積が認められなかったのかな」



 真相は分からないけれど。私はその手紙を机の引き出しに放り込んで見なかったことにした。


 面接はいらないでしょう。

 私より大変な人なんてたくさんいるのだから。私はまだ、面接を受けるほどではない思う。



 それもまぁ……分からないけれど。

 そう考えながら、再びパソコンの画面に向き合った。






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