緊急メンテは地獄だ。改修してメンテが終わるまで帰れない。
だから緊急メンテがあった時期は、余裕で月残業が100時間を超す。
この前のパズルゲームもそう。あの時は2日連続でオールをして、やっとメンテを終えることができた。
当然、緊急メンテばかりやっているわけではなくて、新しくリリースする予定のゲーム開発も行っている。だから遅くまで残業に追われる日々。
深夜残業。
土日出勤、祝日出勤。
ずっと、それの繰り返し。
一体、私の自由な時間はどこにあるのだろうか。
大好きなプログラミングなのに。
やりたかった、プログラマーの仕事なのに。
私はプログラミングに、殺されそうになっていた。
◇
ある日、総務部から1通の手紙が手元に届いた。
【産業医面接の希望調査】
「……産業医?」
中身は封筒に書かれている通り、産業医との面接の希望調査をするものだった。
月残業時間が100時間超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申し出を受けて、医師の面接指導を行わなければいけないらしい。
うちの産業医は、近くの総合病院に勤務している精神科医、
名前は知っていた。
なんせ、社内では有名人だったから。
日比野先生は精神科医なのに、冷たくて思いやりがないことで有名。
辛くて苦しくて病んでいた元同僚がいた。その人はとっくの昔に退職したのだが、退職前に日比野先生の面接を受けて大泣きをしていた。
『生きるのが辛い、消えても良い』
同僚がそう伝えると、日比野先生は
『そう。じゃあ生きるのを止めたら?』
と答えたらしい。
社内では、超有名な話だ。
日比野先生。別称、冷酷な産業医。ゆえに、望んで面接を受けようとする社員はほとんどいない。
しかし、これまでも月100時間を超すことなんて何度もあった。だけど総務部からこのような手紙が来るのは初めてだ。
「……あれかな。総務部から見て、私に疲労の蓄積が認められなかったのかな」
真相は分からないけれど。私はその手紙を机の引き出しに放り込んで見なかったことにした。
面接はいらないでしょう。
私より大変な人なんてたくさんいるのだから。私はまだ、面接を受けるほどではない思う。
それもまぁ……分からないけれど。
そう考えながら、再びパソコンの画面に向き合った。