そして、それは緊急事態を終え、国家の危機を乗り越えた後でも変わらない。
「アップル! どうして王宮へ入ってもまだ
「え? じゃあ王子との生活を
「そ、それは遠慮しておこう。よし! テレワーク! 大歓迎だ。うむ、無理はするなよ!」
「はいはい。
お城に用意されたわたしのお部屋。天蓋のあるベッドやふかふかのソファーがある広いお部屋はまだ慣れないけれど、わたしの力を使わなくても安定した魔法結界が張られている
そう、ブライツと正式にお付き合いするということは、王宮へ入るという事になる。王太子妃候補ならば元々やっていたお仕事を辞職し、宮廷で生活をする事が通例……なのだが、わたしは聖女であり、神殿と国家の安寧を司る存在。王家へ身を置くとしても聖女を辞めるなんて事は考えられないのだ。
王宮と神殿を
いつものように机横に
「アップル様ぁあああ~~おはようございますぅううう! 今日も素敵なご尊顔を拝む事が出来て、一日を生きる活力が漲って来ますぅううううう!」
「おはよう、クランベリー。神殿の様子はどう?」
「あれから半年、ようやく実務に支障ない形で復興して参りました。これもルージュ様の侍女部隊をグレイス様が派遣してくれたお陰ですね」
「そうね。こうして国交を結んだ事で魔族の子達も身分を隠して忍び込む必要が無くなった訳だしね。グレイスとルージュにも今度お礼しなくちゃね。あ、そうだ。今度サンクチュアリでまた女子会でもどう? レヴェッカともこの間話していたのよ。ルージュも誘ってくれない?」
「いいですねアップル様! それならアデリーン様もお誘いしてみます。先日サンクチュアリでジーク様とデートを終えた報告を受けたばかりですので」
「何ですって。それは詳しく聞きたいわね」
「ええ詳しく聞きましょう」
女子トークへ軽く華を咲かせたところで公務に戻るわたし。今日の
「ほわぁ~~これじゃぁああ~~これなんじゃああ~~天国へ
きっとドリアンお爺さんは長生きするでしょうね。滋養強壮にも良いわたしの魔力をほぼ毎日浴びているしね。
お陰さまで神殿の懺悔室にはクレアーナ教信者の列が絶えない。こうして公務を続けていられるのも、クランベリーや神殿、王宮の方々の協力や民の信仰心あっての事。日々の生活に感謝しなくちゃいけないわね。
公務の合間でメッセージのチェック。
グレイスからは魔国へ続く街道建設の計画書のデータに第二
世界中のみんなが安心してアップルパイを食べられる世界――
わたしの理想郷にはまだまだ道のりは長いけれど、その魔国シルヴァ・サターナとの国交樹立はその第一歩であると信じたい。
他には、レヴェッカから女子会の件と、地方の教会からの報告書。あと目新しいメッセージは……世界クレアーナ教信仰協会から聖地巡礼のお誘いか。嗚呼、五年に一度行われるあれね。以前行われた聖地巡礼で、メロンタウンの
と、色々確認をしていたところにコンコンと部屋の扉を叩く音が鳴った。王宮でわたしの担当になった侍女の子の一人だ。
「アップル様、午前中の公務が終わりましたらアルバート・ロード・アルシュバーン第一王子がお呼びです」
「え? 忙しいって断れない?」
「ええ……と、無理だと思います」
「じゃあメッセージのチェックが終わったら行くわ」
アルバート・ロード・アルシュバーン第一王子。わたしは誰にでも公平でありたいと願うけれど、狡猾で野心家のアルバート王子だけはどうしても好きになれない。自らは手を下さす、玉座からの高見の見物で、わたしとブライツが戦いで死ぬよう誘導し、自身の地位を確固たるものにしようと目論んでいた黒幕。自身の栄華と国家の繁栄のためなら手段を選ばない。魔族よりも質が悪い。
彼の部屋を訪ねると、アルバート王子も公務中だったようで、
部屋を入り口に立って待っていると、ソファーへ座るよう促された。手を止めたアルバート王子は少し微笑んだ後、テーブル向かいのソファーへ深々と座り、片脚を組んだまま話しかけて来た。傲岸不遜な態度を崩すつもりはないらしい。
「アップルよ。王宮には慣れたか?」
「ええ。お陰様で」
「国のために神殿の公務を継続する姿勢、私は買っているんだ。不憫な点があればすぐ、専属の侍女へ言うといい」
「ありがとうございます」
用が無ければこれにて、とそっと席を立とうとする仕草をしたところ、『まぁ、待て』と止められた。彼は手に持っていた
「五年に一度の聖地巡礼。参加するのか?」
「お耳が早いですね。今回は王宮へ入ったばかりの身ですので、スケジュール次第ですね」
「そうか。聖地巡礼ついでに
「お断りします」
彼が言い終わる前にわたしは拒否する。だって厄介ごとの香りしかしないもの。でも、アルバート王子は表情を変える事なく、無言で
成程、聖地巡礼ついでに調査して来いって話ね。なんとも都合のいい話である。アルシュバーン国にとっての不穏分子は早めに消しておきたいというアルバート王子らしい考えだ。
「わたしにとって何のメリットが?」
「むしろ、せっかく復興した国に何かあっては聖女にとっても不都合だろう?」
「アルバート、魔族の国エビルスクエアとの繋がりがあるんなら、早めに言っておいた方があなたにとっても損はないわよ?」
「魔王と繋がっている聖女を敵に回す莫迦がどこに居る?」
「まぁ、それもそうね」
いま、アルバートも敵対する意思はないという事ね。
「聖地巡礼にはメロンタウンの神官レヴェッカ、護衛として弟の
「はぁ~、どうして参加する予定になっているのかしらね」
どうやら世界クレアーナ教信仰協会へ既にアルバート王子から根回ししているっぽい。まぁ、わたしが留守の間は魔王直轄の侍女部隊、ルージュが見張ってくれるだろうし、問題はないのかもしれないけれど。
わたしはお部屋でゆっくり紅茶を飲んで、アップルパイを食べる生活が送りたいだけなんだけどな。
普段から一緒に居るのに、聖地巡礼までブライツと一緒じゃなくても……ねぇ?
「聖地巡礼は一ヶ月後、それまでゆっくり準備をしておくといい」
「検討しておきます」
聖地巡礼の間のテレワークはどうしよう? って、聖地巡礼する前提の考えはいけないわね。何かいい方法がないか考えないと。
「おい、アップル! 聖地巡礼の遠征ってどういう事だ!? 兄上から護衛を頼まれたぞ?」
「はいはいブライツ、後で晩御飯の時間にでも話すわね」
平穏な日々を送りたいわたし、聖女アップルの激動な日々はまだまだ続いていくみたい。
まぁ、ブライツと一緒の旅も……悪くはないか。