「アップル・クレアーナ・パイシート。そして、我が息子、ブライツ・ロード・アルシュバーンよ。此度の活躍、誠に大義であった」
「身に余る御言葉、感謝致します」
アルシュバーン国の現国王――エドワルド・
今回の件、アルシュバーン国南西に位置するメルキュア領にあるカンターメン村にて
マロン司祭は今回実質被害者でもある訳で、国王へ報告する必要はあるものの、そのまま彼が黒幕と伝えてしまっては、前回同様わたしもコキュードスを操っていた黒幕だと偽情報を流され、再び追放され兼ねない訳で。司祭は一旦グレイスの執事であるフォメットが拘束しており、国王へはタイミングを見計らって報告する予定だ。神殿内では内緒の話になっている。
そして、隠している理由はもうひとつあって……。
それは、元凶となった魔導具――
謁見という形で呼び出されたわたし・アップルとその隣にはブライツ王子。向かい合う形で玉座に座る現国王エドワルド。そしてその右隣には、ブライツ王子の兄にあたる第一王子――アルバート・ロード・アルシュバーンの姿があった。
あのクーデターを起こしたアデリーンの父、バルトス侯爵を裏から操っていた可能性があるアルバートが、何も知らない訳がない。だが今回、コキュードスが撃破されるや否や、わたしとブライツを英雄として讃えるべきだと自ら国王へ進言したらしい。
深い海のように
「聖女アップルよ。我々は、一時は国家の反逆者として
「はい、今神殿もコキュードスからの猛攻を受け、復旧には暫く時間を要する模様です。民を不安にさせないためにも、是非わたし自ら神殿へ帰還したいと考えております」
「そうか、それはよかった。のぅ、ブライツ?」
「はっ!? 何故俺……私へ振るのですか、父上」
突然国王が話題を振った事により、それまで下を向いていたブライツが驚いて顔をあげた。あー、エドワルド国王とアルバート王子まで笑顔なんですが。そうね、アデリーンが追放されちゃった今、国王としてはわたしとブライツの関係性が気になるといったところなんだろう。
「その、その件は父上。また改めて報告致します故」
「そうか。では嬉しい報告となるよう、楽しみにしておるぞ」
「さて、アップルよ。今回活躍したそなたには褒美を取らせようと思うのだが、何でも言ってみよ」
「褒美……ですか?」
一瞬脳裏に世界中の美味しいスイーツの映像が浮かんだので、蝋燭の灯を吹き消すように息を吹き掛けて妄想を飛ばしておいた。
まぁ、この展開はある程度予想してあった。そして、何を言うべきかもわたしは既に準備していた。
「では今回のコキュードス侵攻により、壊れてしまった民の家屋、街の建造物。神殿の復興に助力をいただきたいです」
「いいだろう、騎士団の者が今被害の状況を調査しておる。民の安全を最優先に動くとしよう」
「ありがとうございます。それともうひとつございまして」
「ほう、言ってみよ」
「その件に関しては、そちらにおりますアルバート王子と
「お、おい、アップル!」
わたしの発言を予想していなかったのだろう。横に居たブライツが思わずわたしの名前を大声で呼ぶものだから、彼に向かって小声で『だいじょうぶよ、考えがあるの』と言っておいた。
そして、それまで国王とわたし達の様子を黙って静観していたアルバート王子が遂に口を開いた。
「国王の前だよ? 私と二人きりでないと話せないような重大なお話なのかな?」
「ええ。アルシュバーンの
わたしは敢えて両手を前に握り、懇願するような仕草でアルバート王子を見つめる。そして、目があった瞬間、『あなたもわたしに直接話したいことがあるでしょう?』と目で訴えかけた。
そして、アルバート王子を敢えて
「おお、そういうことであったか! アルバート。アップル殿は、お前に大事なお話があるらしい。この後時間を作ってやるとよい。兄として、いいアドバイスをするのだぞ?」
「はい、心得ました。アップル。後ほど私の部屋へ来てくれ。侍女へ紅茶とクッキーも用意させよう」
「ありがとうございます」
アルバートにはわたしの意図はどうやら伝わったらしい。彼の燃える
こうして、一人不安な表情をしていたブライツ王子の心は置き去りにしつつ、国王との謁見を終える事になる。そして、わたしはその足でアルバート王子の部屋へと出向き、重厚な扉をノックした。
「失礼します」
「どうぞ。気を楽にしてもらって構わないよ。紅茶も淹れてある。そこへ座ってくれたまえ」
「ありがとうございます」
ふかふかのソファーへと腰掛け、透明な硝子で出来たテーブルに置かれたカップを手に取る。心を落ち着かせる紅茶の香りが鼻腔を
そして、わたしが
「嗚呼、先に言っておくよ。今は私と君の二人きり。この部屋は誰にも
「ありがとうございます」
わたしと王子が同時に紅茶のカップをソーサーへ置く音が鳴る。それが開戦の
「さぁ、何から話そうか? アップル。君は私がアップルとブライツを
密閉された無風の部屋で、アルバート王子の緋色の髪がそっと