紫色の光を放つ魔力弾が
続けてクランベリーは懐より数本のダガーを投げつつ、わたしとの距離を詰めようとする。が、ダガーは宙を舞い、手に持つダガーも結界へ傷ひとつつけることはない。当然だ。魔王グレイスすらわたしのこの結界を打ち破る事は出来ないのだ。闇に呑まれた今の彼女の姿では、わたしへ近づく事すら許されない。
「無駄よ、クランベリー。早く元の姿へ戻って。このままだと、わたしへ近づく事すら叶わないわ」
「アップル様ぁあ? ワタクシを誰だと思っているんですかぁ? あなた様へずっとお仕えしていたダークチェリーですよぉおお?
彼女はそう言うと、何やら懐より瓶を取り出し、手に持つダガーへ中身の液体を振り撒く。それはわたしが神殿へ送っていたわたしの魔力の籠もった聖水。続けて彼女はダガーへと自身の魔力を籠める。それは紫色の禍々しい光……ではなく、淡い桃色の光を放っていた。
「いきますよ、アップル様♡ワタクシの愛、受け取ってください!
高く飛び上がったクランベリーが空中から無数のダガーを放つ。
そう、彼女が放ったダガーには闇の魔力が籠もっておらず、わたし特製の聖水による聖なる魔力が籠められていたのだ。
しかし、庭園の地面へと着地した瞬間、後ろから何者かの両腕がわたしの背中から
「アップル様、つ・か・ま・え・た♡」
「あなた、どうやって!?」
信じられない事だった。闇の魔力を持つ者が
今のクランベリーの姿は
背後からわたしを強く抱き締める
「……やめっ!?」
「嗚呼、アップル様の味ぃい♡」
瞬間、背筋に悪寒が走る。こんなのわたしが知ってるクランベリーじゃない! わたしの肢体を確かめるように聖衣ごしに指先を滑らせる彼女。彼女を無理矢理引き剥がそうとするも、力を籠めた彼女の腕から抜け出せない。
彼女の内部には確かに最初相対した時に感じた闇の魔力を感じる。でも彼女を覆っているものは……え、聖の魔力!? 本来クランベリーが持っている聖の魔力よりも圧倒的に多い魔力量を感じる。いや、この魔力は、わたしがよく知っている聖の魔力だ。だって……これは……。
「クランベリー、そういう事ね。
「流石、アップル様♡そうですよ、今のワタクシは全身アップル様に包まれているのです。つまり無敵♡という事ですよ」
「でも普通、そんな事をしたら今の闇に覆われた肉体では耐えられない筈よ?」
わたしの魔力で創った聖水を素に創った化粧水や乳液。全てクランベリーへ以前より贈っていたものだ。幾ら以前より愛用していたとはいえ、悪魔化してしまったダークチェリーの肉体で耐えられるものではない。でも、今の彼女は闇の魔力を内部へ秘めつつも、聖の魔力で肉体を覆っているのだ。
「愛の力ですよ♡」
舌舐めずりするダークチェリーは、わたしの身体を堪能しつつ耳元で囁く。仕方ない。このままでは埒があかないので、強制的に彼女を引き剥がすしかない。わたしは目を閉じ、ダークチェリーを覆っているわたしの魔力とわたしの持つ魔力とを呼応させる。
元々あの
わたしとダークチェリーの外側にある
わたしを包み込んでいたダークチェリーの腕も肉体も弾かれ、強制的に
「流石、ワタクシのアップル様ぁ♡この状況でワタクシを引き剥がすなんて。それでこそ、ワタクシのお慕いするアップル様ですわ」
「あなた、さっきから様子がおかしいわよ。わたしが知っているクランベリーじゃないわ」
「おかしくなんてないですよ。これが本来のワタクシです。ワタクシはアップル様の事をずっとずーーっと愛していましたもの♡」
「クランベリー……あなた……そう」
クランベリーの想い……こんな形で聞きたくはなかった。それだけこの子はわたしの事を思ってくれていた。今まで気づかなかったわたしも馬鹿だ。
ずっとわたしの傍で仕えてくれていた彼女。今までもこれからも大切な存在であることは間違いない。だからこそこんな姿ではなく、いつものシスター姿の彼女から直接想いを聞いてあげたかった。
――そう、あなたはずっと悩んでいたのね。
「マロン司祭のスキル……理解したわ。クランベリー、いけない。欲望に支配されては身を滅ぼしてしまう」
彼女の内部で渦巻いているものを解析し、ようやく理解した。マロン司祭のスキル、恐らく対象の理性を抑える力を開放し、欲望を
欲望に支配された人間は姿まで魔族のように変え、マロン司祭の操り人形になってしまう。……今のダークチェリーのように。
「ふふふ、マロン様は、今迄ワタクシが奥底に秘めていた想いに素直になるよう、スキルで後押ししてくださったに過ぎません。だって、素直になれるんですもの。ワタクシは自らマロン様の御力を受け容れたんですよ?」
「そうね、でなければ、わたしの魔力たっぷりの化粧水と乳液をいつもつけているあなたは護られてる筈だものね」
そもそも闇の魔力を弾くわたし特製の乳液をつけている彼女が闇に堕ちるなど、到底考えられないのだ。つまりクランベリーは、マロン司祭のスキルを自らの意思で受け容れてしまった。だからこそ、わたしの乳液や化粧水をつけた状態で、あの姿を維持出来るんだ。
今まで彼女の想いに気づいてやれなかったわたしの失態。やはり彼女を救えるのは、わたししか居ない。
「いいわ、
「まぁアップル様♡遂にその名前で呼んで下さるのですね。では、此処からはワタクシの
そう言うと、彼女の下半身から植物の根と蔓のようなものが生え始める。腰のあたりは華の蕾のようなものに覆われ、上半身はそのままに植物の魔物と化した彼女はは掌を前に出す。
「アップル様、ワタクシの全て、受け止めてくださいね♡」
刹那、無数の蔓が触手のようにわたしへ向かって伸びて来た――