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六十.どうやら王子なりに対策を講じていたみたいです

 氷の像と化した王子が動く気配はない。すぐに手を翳し、治癒魔法、解呪魔法を試みるも、わたしの力を持ってしても、氷は溶けてくれない。


 普段わたしが見せる事のない焦燥の表情にルージュも気づいたのだろう。わたしの顔を覗き込むようにして話しかけて来た。


「アップル様、もしかしてお知り合いですか?」

「ええ、アルシュバーン国の王子よ。わたしの幼馴染なの」

「それは……心中お察しします。きっと何か策はある筈です」

「ええ、勿論。術を解く方法は想像ついているわ」


 解呪の魔法でも解けない呪いを解く方法。その場に留まる呪いであれば、呪いの原因となった恨みなどの事象を浄化してあげたなら術は解ける。しかし、今回の場合はきっとそうではない。


 永きに亘り封印されていた氷魔神コキュードスの強い怒りと恨み。きっと、簡単に怒りを鎮めることは不可能だろう。ならば、もうひとつの方法、コキュードスを倒し、瘴気と魔力そのものを消滅させるしかないのだ。


「王子、だいじょうぶよ。わたしが必ず助けてあげるから」


 閉ざされた氷の奥より感じる王子の生命力。どうやら氷の中で王子はまだ生きているのだ。きっと、氷の中へ閉じ込め、少しずつ対象の生命力を蝕み、時間をかけて死に至らしめるような仕組みなんだろう。


 ただ滅ぼすだけなら面白くないと思っているタイプの相手が使う嫌らしい手段ね。


「コキュードスが垂れ流している魔力の残滓を追いましょう。事態は一刻を争うわ」

「アップル様、畏まりました」


 とりあえず王子を何処か安全なところへ運びたいところだけど……。王子を移動させる方法を考えていたその時……。何やら聞き覚えのある鳴き声と共に、小さな何かがこちらへやって来る様子が視界に入った。


『わんわんわん!』


「え? ホワイト!? どうしてここに?」


 尻尾を全力で振りつつ駆け寄って来る子犬のような姿の獣。そう、それはサンクチュアリでわたしが飼っているペット――ホワイトだった。見た目はモフモフな子犬だけど、その正体は伝説の聖獣グリフォンであり、こちらの世界へ召喚した際は、王子と一緒に黒竜を倒し、大活躍したのだ。


『わんわんわんわん!』

「どうやらついて来てって言ってるみたい」


 尻尾を振りつつ村の奥地へ向かって駆け出すホワイト。やがて、村の中で一番大きなお家の前へ到着すると、軽く飛び跳ねつつ、家の扉の前でくるくる回り始めた。どうやらこの中へ入れってことらしい。


「アップル様、突然どうなされたのですか?」


 突然走り出したわたしを追って、ルージュと侍女三名がやって来た。わたしはホワイトがわたしのペットであることを伝え、家の中へと入った。


「貴女は確か……アルシュバーンの聖女、アップル様?」


 老若男女、全身を震わせつつ肩を寄せ合う人々。中には幼い子供達も居る。正面に居た初老の男性が立ち上がり、わたしの名前を呼ぶ。どうやらこの人が村長さんらしい。


「ええ、わたしが来たからにはもう大丈夫です。状況を説明していただけますか?」

「はい、巨大な氷の竜が村を氷漬けにしようとしたのですが、ブライツ王子様が助けて下さいまして、村の者たちをここへ避難させて下さったのです」


『わんわんわん!』


「わんわんが家の前でぼくらを守ってくれたんだ!」

「わんわん凄いの! おっきくなったの!」


「そう、ホワイト。よくがんばったわね」

『わんわんわん!』


「嗚呼、もしかしてこの犬はアップル様が飼っている犬ですか?」

「ええ、そんなところです」


「そうだったのですか。聖女様は儂らを見捨てたとばかり思っておりましたが、どうやら儂らの勘違いだったようですな」


 そう言うと何故か村長はわたしへ向かって深々と頭を下げた。どうして村長が頭を下げる必要があったのか疑問だけど、ともかく村の人々が無事でよかった。


「ねぇねぇ、王子様はどこ!?」

「助けてくれたお礼を言わなくちゃ!」


「待って。王子様はね、まだドラゴンの魔物と闘ってるの。みんなはもうしばらく此処に居てくれる?」


「そっかぁー。じゃあここで応援する」

「するする!」


 まだコキュードスが何処に居るか分からない以上、村の人々を外へ出すのは危険だ。きっと王子は此処へ村人達を避難させたあと、家の前でホワイトに護らせて、自分は単身でコキュードスと闘っていたのだろう。


 相変わらず無鉄砲で無茶をする王子。でも村の人達は誰一人命を落としていないのだ。ブライツ、あなたはこの村の、いえ、この国の英雄になれるわよ、きっと。


「ふふ、だから嫌いにはなれないのよ」

「アップル様、何かおっしゃいましたか?」

「いえ、何でもありません」


 小声で呟いた言葉にルージュが反応したところで、わたしは次の戦闘に備えて準備をする。


「村長さん、今お伝えした通りです。もう暫く此処に居て下さい。わたしがこの家へ結界を張っておきます故、ご安心下さい。わたしは魔物を追います」

「そうですか、聖女様ご武運を」


 村長へ一礼し、ホワイトと一緒に外へ出る。そして家の周りを取り囲むように結界を構築する。


「ルージュ、闇の魔力を少し貸してもらえる? わたしの結界だけでは心許ないわ」

「御意」


 神殿を覆っていた結界に、ルージュの闇の魔力までトッピングした特別製だ。これならコキュードスが来てもきっと問題はないだろう。


 あとは氷漬けの王子をどうするかだけど。ホワイトを引き連れ広場へと戻るわたしたち。白い大地に佇む王子はその場から動くことなく……あれ? 王子は確か村の入口側を向いて居た筈。どうしてこっちを向いて……。


「遅いぞ、アップル。わたしを放置したまま何処へ行ってたんだ!?」


「ブ、ブライツ!?」

「わんわんわん!」


 いえ、王子は確かに凍っている。だけどこちらを向いており、氷漬けの状態でどういう訳か話し掛けて来た。ホワイトは王子が生きていたことが嬉しいのか、時折凍った脚にスリスリしつつ、王子の周りをくるくる廻っている。


「ふふふ、アップルよ。俺がそう簡単にくたばると思うか?」

「いやいやいや、ブライツ。完全に凍ってるじゃないの? それに一体どうやって話してるのよ?」

「ふははははは! よくぞ聞いてくれたアップルよ! それはな、これだよ」

「あ!」


 凍りついたブライツの胸元で、わたしが王子に渡した聖なる魔水晶ホーリークリスタルが煌めきを放っていた。


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