目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
五十一.彼女も歓迎会を喜んでくれたようです

 チェリーちゃんはアデリーン侯爵令嬢だった。そんな衝撃の事実を皮切りに、彼女の歓迎会が開始される事となる。


 一体どんな魔法を使ったのか? あれほどわたしと敵対していた筈のアデリーン令嬢が、普通にわたし達の前へ姿を現したのだ。本来ならば、わたしに関して言えば、ここで互いの正体を明かしてサプライズという予定だったのだが。


「ねぇ……クランベリークラン。いつからチェリーちゃんがアデリーン令嬢って気づいていたの?」

「気づいたのは結構前ですよ? 最初は気づいてませんでしたが、アプリ内で彼女の恋愛相談を受けている内に確信しまして。それでこないだ正体を明かしてうまく彼女の心を繋ぎ止めておきました」


 クランベリーがこの間、アデリーン令嬢を説得しておいたと話していたのは、そういう事だったのかと納得するわたし。彼女はやはり信頼出来る有能なシスターだ。


「そうだったの。陰で色々動いてくれてありがとう、クランベリークラン

「ぶはっ……アップルオレンジ様。みんな近くに居るこの場で……しかも水着姿でそれは駄目です。ワタクシの鼻から出血大サービスしてしまいますからっ!」


 あらら、鼻をおさえて海の家の裏手へ移動するクランベリー。何やら呻き声や叫び声が聞こえたあと、何事もなく戻って来た。彼女の呼吸がまだ荒いところはそっとしておいてあげようと思う。



「アデリーン令嬢の未来と、わたし達の出逢いと未来に……乾杯!」

「「「「乾杯」」」」


 こうして無事、〝サンクチュアリ〟アプリ内、プライベートビーチエリアにて、アデリーン令嬢歓迎会が始まった。


 今回、魔族サイド・・・・・・のお二人以外はMRマジカルリアリティー機能を解除しているため、現実姿のままでアプリ内に居る事となる。


 プライベートビーチに設置された海の家にて開催されるバーベキュー。食材なんかもわたしオレンジクランベリークランレヴェッカライムで調達済だ。


「バーベキューをするとの事でしたので、某共二人で、ヘルブラックエリア・・・・・・・・・で採れたレッドドラゴンのお肉を調達して参りました」

「あら、ナナシの執事さん、ベル、ありがとう」


 ナナシの執事さんがアプリのアイテムボックスを操作したのだろう。丁寧に捌かれ、巨大なお皿に盛られた巨大なレッドドラゴンのお肉の山が鎮座した。


「なっ、なんだとっ!? おい、アップル! レッドドラゴンと言えば、超級クラスの魔物じゃないか! サンクチュアリアプリにはそんな魔物の肉まであるのか⁉」

「これは……わたしもさばかれたレッドドラゴンのお肉なんて初めてみました」


 王子と騎士団長の二人が突然現れた超級クラスのお肉に驚きつつ興味を示す。


 そりゃあ、レッドドラゴンなんて現実で出て来たら大変ですものね。それこそ厄災レベルだ。なんか、グレイスベルの事だ。自国で調達して来た肉を空間転移か何かで持って来たんじゃあないだろうか?


 ナナシの執事フォメットさんが有能なので、そこはサンクチュアリアプリ内の闇エリアであるヘルブラックエリアで調達して来たとうまく言ってくれてるので、怪しまれる事はないんだろうけど。


ブリリアントブライツ。まぁ、サンクチュアリアプリはある意味なんでもありだからねぇー。ドラゴンのお肉のひとつやふたつあってもおかしくはないわよ?」 


「そうか……なんか常識が覆されたみたいだよ。なぁ、ジーク」

「そうだな。これは現実で闘うとなると大変な事になりそうだからな」


 感心した様子のブリリアント王子ジーク騎士団長。王子は常識がと言っているけど、大丈夫、現実世界でもこちらにいらっしゃるグレイスベルさんに常識という常識は通用しないから。


 お肉を焼く係のレヴェッカライムがサーロイン、ロース、ヒレ、イチボ、ランプとドラゴンのお肉を部位毎に何やら仕分けしているみたい。って、凄いな、見ただけでどれがどれか分かるのか。


「ふっ、アップルオレンジ。伊達にバーベキューマイスターを名乗ってはいないわよ? どんなお肉も私の観察眼と火加減にかかってはイチコロよ?」

「じゃあレヴェッカライム。焼く係はお願いするわね」


 だんだんとお肉が焼けるいい香りが漂って来た。これは食欲をそそる香りね。アデリーンチェリーちゃんがお肉の焼ける様子を指を咥えながらじっと見ている。そういえば彼女、以前女子会のとき、女王闘牛エリザベスカウの霜降り肉を食べた時もひとり悶えていた事を思い出した。


「なっ……なんですの……この極上な霜降りのお肉は……いえ、こっ、このくらいのお肉程度じゃあわたくしの心は動かされませんのよっ!」


 はい、アデリーン御令嬢チェリーちゃん。口から涎という液体が大量に出てますよー?


「はい、アデリーン令嬢チェリーちゃん。レッドドラゴンのお肉、焼けたわよ。たんと召し上がれ」


 ごくりと生唾を呑み込んだあと、アデリーン令嬢チェリーちゃんのお口にレッドドラゴンのお肉が滑り込まれていく。そして、彼女が肉厚のあるお肉を噛み締めた瞬間。レッドドラゴンは大きな翼を広げ、アデリーン令嬢の脳内に舞い上がったのだった。


「はあぁぁああっ、ダメよ、この姿のわたくしを蹂躪じゅうりんしようなんて、はぅっ、口の中にお肉が溶けてぇえええ、あぁぁあああああ、わたくし、わたくし……トンでしまいますわぁあああああ!」


 暫く恍惚な表情のアデリーン令嬢チェリーちゃんはそっとしておきましょう。まぁ、彼女が幸せなら、わたしも歓迎会を開いてよかったと言える訳だしここは良しとしよう。


 引き締まったレッドドラゴンのお肉は、しっかりした肉厚があり、口に含むと溢れる肉汁と極上の旨味成分が広がったあと、口の中で溶けていくのだ。今迄食べたどのお肉よりも極上の味。これはアデリーン令嬢チェリーちゃんの反応も頷ける。


「普段は余が魔法で丸焼きにするんだがな。こうやって捌いたあと部位毎にいただくのも乙なものだな」

ベルグレイス……こんな極上肉を丸焼きにするのは勿体ない気がするわよ?」


 アップルパイも一瞬にして真っ黒くろ●け黒い塊にしてしまっていたベルグレイスの事だ。普段料理とは無縁の生活をしていたんだろう。


アップルオレンジ様……」

「なに、クランベリークラン

「デザートに極上のアップルを堪能してもよろしいですか……」

「堪能せんでよろしいっ!」


 こうして、各人バーベキューを堪能し、(クランベリーはアップルを堪能し)、みんなでビーチへ移動する。わたしは日焼けが気になるので、ビーチに用意されたベンチへ横になる。


 アデリーン令嬢チェリーちゃんクランベリークランの手を引き、ブリリアントとジークの四名で海ではしゃいでいる。


 ちなみにレヴェッカライムはバーベキューの残りのお肉を食べつつ、ベルの横をしっかりキープしてお酒を飲んでいるわね。


 平穏なひと時。最近緊急事態や有事が続いたため、こんなゆっくりとした時間を過ごす事もなかった。たまにはお仕事の事も忘れて、こうした時間を過ごす事も大切だなと思うわたしである。


 ブリリアントブライツやジークと水を掛け合っているアデリーン令嬢チェリーちゃんは心から楽しんでいる様子に見えた。少しは心を開いてくれたみたいでひと安心だ。


 暫くしてクランベリークランが、一人横になって休んでいたわたしを見つけてこちらへやって来た。


「ふぅ……ようやく解放されました」

「お疲れ様クランベリークランアデリーンチェリーちゃんは?」


「何やらブリリアントブライツ様と騎士団長ジーク様とあちらの岩場へ向かいましたよ。何やら大切な話があるみたいで」

「え、それってもしかして?」


 二人きりではなく、三人という点は気になったが、クランベリークランを置いて三人で大切な話となると、もうあれ・・しかない訳で。


 うーん、聖女としての立場はあるし、覗きはあまりよくないとは思うのだけど、アデリーンチェリーちゃんのことも放っておけない気もするし……。彼女の恋路を応援する立場としてはやはり見届けておいた方がいい気もするし……。


「どうしますか? 参りますか?」

クランベリークラン、参りましょう」


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?