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五十.ついにアデリーン令嬢歓迎会が始まるようです!

 テレワークがお休みのこの日、〝サンクチュアリ〟アプリ内でアデリーン令嬢歓迎会が開催される事となった。

 尚、今回わたしは現実の姿をそのままMRマジカルリアリティーへ投影して参加する事にした。ゲーム内のユーザー=オレンジの格好だとアデリーン令嬢がわたしだとすぐに認識出来ないからだ。


 現実の姿と同じ格好で参加するのはレヴェッカライムわたしオレンジクランベリークランはアデリーン令嬢を誘う役なため、アプリ上の格好のまま参加予定だ。


 そういえばチェリーちゃんも誘ったのだが、今回別のグループ・・・・・・と集まる予定があるらしく、参加出来ないんだそう。恋する乙女であるチェリーちゃんとアデリーン令嬢は話が合いそうだと思ったんだが仕方ない。


 レヴェッカライムが予め予約していたプライベートビーチへ皆が集まる。今日はわたし達の貸切だ。中央にある小屋では、持ち寄ったお肉を焼いてバーベキューをしたり、トロピカルフルーツを使った飲物を飲んだりも出来る。


「はっ! 聖女のお胸に輝く聖なる林檎が二つ!? これは……どのくらいしっかり実っているか私が視聴者代表として確かめ……」

「いやいや確かめなくていいから!? てか、そんなに見られると恥ずかしいから……まさか現実の姿で水着を着ることになるとは……」


 レヴェッカに思い切り突っ込みを入れつつ、自身の赤いビキニ姿改めて見つめ、思わず二つの果実を隠してしまうわたし。自身で撒いた種とは言え、この格好は慣れるまで時間がかかりそう。


 それにしてもレヴェッカは、紺色の身体を覆った水着を着ている。アプリ内でゲットした、どこかの国の学園指定のスクール水着という代物らしい。彼女曰く、『これはこれである筋に需要があるのよ』なんだそう。


「ほほぅ、流石だな、アップルオレンジ。現実の姿でも見事に似合っている。世の男は皆、お前のその妖艶な姿に首を垂れるに違いない」

アップルオレンジ様、本日はお招きいただき、ありがとうございました」


 わたしへ声を掛けて来たのは、ベルさん。まぁ、つまりは魔王グレイスなんですけどね。流石にグレイスは実在の格好とは違う姿になっている。……が、その鍛え抜かれた肉体はそのままで、身につけているのは下半身の水着のみ。その肉体に思わず魅入ってしまう。今回、魔王様には魅了のスキルや道具を使う事を禁じている。そんな事をしたら、アデリーン令嬢が主役の回が滅茶苦茶になってしまうからだ。


 ベルさんの横に居るモノクルを身につけた白髪執事のお爺さん。ナナシの執事さんというアプリ内のお友達であるが、その正体は、グレイス直属の執事であるフォメット。普段羊頭の彼も、今日は人間のお爺さん姿だ。佇まいから明らかに有能執事というオーラが漂っている。


「なっ、アップル!? 何よ、このイケメン!? アプリ内でどんな知り合い作ってる訳」

「いや、偶然よ偶然。まぁ、男性の数も多い方がいいかと思ってね」

「グッジョブよ、アップル! これは楽しくなりそうな予感がするわ」


 なんだかレヴェッカの瞳が燃えているような気もするが、そっとしておこう。


「ははは、なんだ、もう皆、揃っているのか? どうやら主役はまだのようだな」

「凄いですね、アップル様。普段絶対観る事の出来ない挑戦的な格好ですな」


ブリリアントブライツ、ジーク、協力ありがとう。あと格好の事は言わないで」


 そういうブライツ王子もジークも水着姿。つまりは鍛え抜かれた肉体を剥き出しにしている。彼等の場合、アデリーンと話す必要があるため、現実の姿を投影している……つまりはこの胸筋も上腕二頭筋も腹筋も、現実と同一という事になる訳で。


「おいおいジーク、アップルに惚れてもお前には渡さんからな?」

「心配するな。俺にとって聖女様は〝慈愛の象徴〟だ。騎士として御守りする事はあっても、お前から奪うことはしないさ」


「いやいや待って。いつからわたしが王子のものだと錯覚している訳?」


 ブリリアントとジークのやり取りに思わず突っ込みを入れるわたし。三人で話しているところへレヴェッカが現れて……。


「騎士団長に王子にイケメン……何この逆ハーレム状態……ちょっとアップルの林檎で落ち着いてもいい?」

「いや、レヴェッカ。何か心の落ち着かせ方間違ってるから」


 ちょっとレヴェッカ! 涎を垂らしてわたしの果実へ両手を伸ばそうとするの止めなさい! この調子でアデリーン令嬢が登場して、果たして当初の目的である歓迎会を無事最後まで終える事が出来るのであろうか? 嗚呼……先が思いやられる。


「フォッフォッフォ……アップル様。なんだか大変な役回りですな」

「あ、ナナシの執事さん。分かります?」


 唯一、その場を観察して状況判断出来る執事さんが有能すぎた。グレイスもたまにぶっ飛んだ事をする可能性があるため、油断出来ないからな。


 そんな事を考えていると、ビーチの向こう、遠くから女子二人の姿が見えて来た。短髪黒髪の狩人ハンタークランは肩の後ろでリボンを結ぶタイプの黒い水着だ。そして、その隣、白いフリルのついた可愛らしいドレスを着た……あれ? あの桃色ツインテールはチェリーちゃん? チェリーちゃんは他のグループに誘われて来れないと言っていた筈。わたしとレヴェッカが顔を見合わせる中、クランとチェリーちゃんが近づいて来る。そして、わたしの姿を見るや否や、両手で鼻を押さえるクラン。


「くっ……事前に想像して予行演習をしていたのにも関わらず、なんという世界的衝撃ワールドインパクトなアップル様の御姿。駄目よ……クラン。今日は任務完了まで昇天しては……あ、アップル様! お待たせしました! 主役を・・・連れて参りましたよ」

「心の声……漏れてるわよ、クラン。あれ、チェリーちゃんは他のグループに誘われてたんじゃなかったの? あと主役って、アデリーンはどこ?」


 クランとチェリーちゃんへ同時に質問するわたし。すると、普段お淑やかで大人しいチェリーちゃんが下を向き、何やらこみ上げる笑いを肩で押さえているような様子を見せる。


「ふふふ。もう、此処ではありのままの姿を見せても良いのですね。オレンジさん……いや、アップル・クレアーナ・パイシート!」

「え? チェリーちゃん?」


 チェリーちゃんがそう告げた瞬間、MRマジカルリアリティー機能を解いたのだろう。桃色ツインテール姿だったチェリーちゃんが、現実の姿へと変化する。そこにはドリル型の金髪ツインテールを携えた、わたし達のよく知る人物の姿が……。


「うっそー!?」

「まさか……チェリーちゃんがアデリーン令嬢!?」


「オーホッホッホ! 見事に騙されましたわね! わたくしがアデリーン・チェリーナ・ロレーヌですわ!」


 サンクチュアリアプリ内、プライベートビーチエリアへアデリーン令嬢の高嗤いが木霊するのであった。


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