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003.ジーク 語られなかった物語 前編

 魔の森を蒼白い閃光が駆け抜ける。地をはしいかずちは、光と共に木々の間をすり抜ける。


 雷瞬トールフォース――自身の身体へ雷の魔力を溜め、更に脚先に籠めたいかずちで地面を弾く事で、まるで稲妻のように目で捉える事の出来ない移動速度を実現する。


 雷属性の魔力を纏わせるわたしのスキルは、かつてこの地を救ったとされる英雄ヤマトから引き継がれたものらしい。


 だが、そんなことは取るに足らない事だった。それよりも重要なのは今であり、この先、英雄より引き継がれたこのスキルをどう扱うかなのだ。


「頼む……間に合ってくれ」


 不覚にも、上級魔族――黒のルーインの攻撃により、一度わたしは命を落としかけたのだ。その場にブライツが駆けつけていなければ、そして、聖女アップル様の治療がなければわたしの命は尽きていたのだ。


 一度救ってもらったこの命。民のために使わずして何に使おう。魔の森を抜け、草原を超え、街道へと出る。もうすぐ街の入口が見えて来る。


 禍々しい瘴気しょうきを街の中央より感じる。一度手を合わせたから分かる。間違いなくあの超竜騎兵ドラゴンナイトサーガだ。


 街の至るところに魔物の気配を感じるが、サーガ以外のドラゴンナイトならば、王宮騎士団のメンバー達だけでもなんとかなるだろう。


 そして、街の神殿には魔を寄せつけない結界も展開されている。前回魔人の侵攻をゆるしてしまったあと、聖女様が神殿の四方へ用意した魔法結晶マナクリスタルへ自身の魔力を籠めて強力な結界を創り直したのだ。


 わたしへ施してくれた治療もそうだが、アップル様の遠隔操作リモートは、本当女神様に匹敵する力なのではないかと思う。


 避難をしている最中の住民が見える。そして、遥か遠く、竜の硬い鱗に包まれたサーガの姿を捉える。奴は誰かに剣を向け、斬りつけようとしている。あれは……まさか、アデリーン!?


 脚先へ籠めていたいかずちが音を鳴らし、地面を弾いたわたしは須臾しゅゆの間に奴の前まで跳んでいた。


 サーガが振り下ろす剣をわたしの剣が受け止め、激しい火花と共に金属音が響き渡る。わたしの纏う蒼白い光に、どうやらサーガも剣を受け止めた相手がわたしだと認識したようだ。


「……どうやら間に合ったようだな」

「え……嘘……。ジーク?」


 腰から崩れ落ちた侯爵令嬢幼なじみに、いつもの余裕や威厳は一切ない。まるで捨てられた仔猫のように全身を震わせていた彼女は、瞳に雫を溜めたままこちらを見上げていた。


幼馴染ヒロインのピンチに駆けつけられないようじゃ、英雄ヒーローとは言えないだろ?」

「……ジーク、あなた……」


 わたしが来たからにはもう大丈夫だと言わんばかりに、アデリーンへ優しく微笑む。相手がわたしだと認識した超竜騎兵ドラゴンナイトは、一旦距離を取り、剣を構え直す。


「オ前、先刻殺シ損ネタ」

「あんたとは因縁があるからな。ここで決着をつけさせて貰う!」


 アデリーンの前に立ち、雷刃らいじんを纏わせたまま軽く剣を払う。サーガは真っ直ぐ剣を掲げ、紅蓮の炎を纏わせている。


「ジーク様、来て下さったのですね!」 

「クランベリーさんか」


「はい。アデリーン様はワタクシに任せて下さい! アデリーン様、こちらへ」

「嗚呼、頼む」


 住民を神殿へ避難誘導をしていたのだろう。神殿のシスターであるクランベリーさんがこちらの様子に気づいて来てくれたようだ。これで、周囲へ気遣う事なく、戦いへ集中出来そうだ。


「待って……ジークが……」

「ジーク様は心配要りません。ここは危険です、さぁ、早く!」

「ジーク……ジーク! 絶対……死ぬんじゃないわよ!」


 離れ際、わたしへ向かって言い放ったアデリーンの言葉。その言葉に蒼白い光がより強い光となる。


「――その言葉があるだけで充分だよ。ありがとうアデリーン」


「イクゾ、ニンゲンノ騎士ヨ!」

「アルシュバーン国、王宮騎士団、騎士団長――ジーク・ヤマト・グランフォードだ」

「ルーイン様直属、超竜騎兵ドラゴンナイトサーガ。参ル!」


 あかあお。二つの刃がぶつかり合うと同時、炎と雷が地面へ流れ、周囲の空気が熱を帯びる。


 目にも止まらぬ速さで繰り出される剣戟けんげき。サーガの剣技には一切の無駄がなく、返しにわたしが放つ雷刃も見事に受け止め、纏わせた炎でわたしの腕を、全身を焼き斬ろうとする。


 サーガの剣が振り下ろされた瞬間にバックステップで後退し、わたしは地面を弾いて真っ直ぐ突きを繰り出す。雷刃を纏わせたこの剣による突きならば、硬い竜の鱗も貫く事が出来るのだ。


 しかし、サーガも繰り出される突きを上体反らしでかわし、わたしの刀身を蹴り上げ、そのまま一回転しつつ、腕を伸ばした状態でがら空きの脇腹目掛けて炎の刃を繰り出す。


 わたしは無理矢理、地に突いた脚へ魔力を籠め、高く飛び上がる。そして、空中へ浮かんだまま態勢を立て直し、サーガへ向かって雷撃を落とす。


「穿て――雷神の鉄槌トールハンマー!」

「――竜焔撃ドラゴフレイム


 紅蓮の炎と激しい雷撃が空中でぶつかり合う! 全身を覆った魔力により、炎による攻撃を和らげ、わたしは地面へ着地する。雷を受けたサーガも、全身を焦がしたまま倒れる事なく剣を構えている。


 やはり、そう簡単に倒れてくれる相手ではなさそうだ。あちらさんも何やら何かをしようとしているみたいだし、街の中でこれは使いたくなかったんだが、仕方がない。


「ジークとやら、ソロソロ行クゾ! 闇竜闘気ヘイロンフォース・解放」

「――雷瞬トールフォース反撃の構えリベンジフォーム


 刹那、わたしと超竜騎兵、二人の纏う空気が変わった。


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