「はぁ~。今日も慈愛に満ちたその微笑みでワタクシを癒してくださいませ」
懺悔室の近くへ用意された管理室にある
ええ、こうしてアップル様の聖女としてのお仕事をしっかり見届けるのもワタクシ、シスタークランベリーの務めなのです。
嗚呼、アップル様が懺悔室の常連、ドリアンお爺さんの腰へ向け、聖女の暖かな魔力を放出していらっしゃいます。
はぁあああ~~その触れるだけで今にも昇天してしまいそうな聖なる光をワタクシも全身で浴びたい、浴び続けたい、脳が蕩けてしまうまで浴びていたい。
そう、アップル様は女神様がお創りになられた回復の泉なのです。沸き上がる聖なる魔力に浸かってしまったが最後、どんな凶悪な魔族でも、きっとアップル様の慈愛に包まれて、昇天してしまう。
日々の疲れも日常の辛い出来事も、アップル様の光に触れるだけで忘れることが出来る。民の象徴的な存在であるアップル様は、ワタクシにとっての太陽のような存在……あ、そろそろ
五つある
「リリン様ーー、リリン・ローズマリー様、懺悔室三番へお入りください」
あの子は確か一度だけ、懺悔室へ訪れた事のある女の子だった筈。友達の好きな男の子を好きになってしまい、どうすればよいかという相談だった筈。
アップル様はあのとき、『ご自身の気持ちを押し殺して後悔するくらいなら、自分の気持ちに素直になるといいです』とアドバイスをしていた記憶がありますが、どうされたのでしょうか?
「女神様、聖女様! うちは以前、友達の好きな男の子を好きになってしまったと相談した者です。って、流石に覚えていらっしゃいませんよね?」
「いえ、覚えていますよ? あれから自分の気持ちへ素直になれましたか?」
アップル様は営業スマイルのような事はされないお人。きっとこの子の相談を本当に覚えておられるのかもしれませんね。
「お、覚えてて下さったんですか!? ありがとうございます! 今日はひとことお礼が言いたくて、ここへ来たんです。聖女様のお蔭で自分の気持ちへ素直になれました! ありがとうございます!」
「そうですか、それはよかったです」
という事は、この子は友人の女の子ともうまく話せたのでしょうか? 男の子とはどちらが付き合うことになったのか、気になるところですが、ワタクシ達は相談を受ける立場であり、迷える子羊のプライベートを詮索することは出来ません。ここは様子を見る事にしましょう。
「あのあと、お友達のドロップと話したんです。そして、気づいたんです。わたし、ジミーよりもドロップを失いたくないって」
ドロップは友人の女の子、そして、ジミーは男の子の事なんでしょう。リリンは続けます。
「そしたら、ドロップがこう言ったんです。ジミーの事よりもわたしの事が好きだって」
「え?」
「え?」
コホン、思わずアップル様と共鳴してしまいました。これはまさか、もしかして……。
「ええ、こうして、わたしリリン・ローズマリーは、ドロップ・ブルーサファイアと恋人になりました」
この管理室は懺悔室同様、魔法結界も張られ、防音機能もしっかりしております。つまり、魔法水晶を通じて通信を繋がなければ、ワタクシの声がどこかへ届くこともありません。
と、言うわけで……。
ちょっと叫んでもよろしいでしょうか?
あ、クランベリー教へ入信したいという同志の皆様はご一緒にお願いします。
いきますよ?
せーのっ!
「キマシタワーーーーーーーー!」
そう、愛とは自由。愛に形などないのです。女神クレアーナ様もきっと、リリンさんとドロップさんの健やかなる未来を見守っている事でしょう。
アップル様もリリンの幸せそうな表情を見て、微笑んでいらっしゃいます。今リリンはドロップと一緒に住む家を探しているんだとか?
あの子にはあとでこっそり、ワタクシ、クランベリー一押しの、ホワイトリリィ通りの住宅街をご紹介してあげる事にしましょう。
ええ、ワタクシ、クランベリーは、アップル様のお傍へ仕える事が出来て、本当に幸せです。
『クランベリー様ーー! クランベリー様ーー!』
どうやら待合室で信者の皆様を誘導しているシスターミリアがワタクシを呼んでいるようです。
「あら、シスターミリア。どうしたの?」
「い、いえ……むしろ、大丈夫ですか?」
「え? 何が?」
「何がって、今キマシタワーーってクランベリー様の叫び声が……」
ミリアにそう言われてワタクシは気づいてしまいました。待合室と繋いでいた
「オホホホ、ちょっと、
「なんでもないならいいのですが、待合室がどよめきましたよ」
「なら、いいのですが……」
「ほら、次の信者の子を呼ぶわよ。準備して」
「はい、わかりました」
次の信者の子の名前を呼び、通信を切るワタクシ。
次からは悶える時と叫ぶときは、ちゃんと周囲の状況を確認してからすることにしよう、そう心に誓うワタクシ、クランベリーなのでした。
――アップル様、いつも見てますよ♡