「バルトス・ムーア・ロレーヌ及び、ロレーヌ家の者を国家反逆の罪で国外追放とする! バルトス所有の領地や財産に対する処遇及び分配は、後日改めて申し渡す! 以上」
アルシュバーン国、現国王の決定を下を向いたまま重々しく受け止めるバルトス侯爵。そして、その隣には、焦点が合っていないような虚ろな表情で現実を直視出来ない金髪の侯爵令嬢――アデリーン・チェリーヌ・ロレーヌの姿があった。
あの日、グレイスとフォメットによるまるで洗脳とも言える拷問によって骨抜きにされた元魔王直轄四天王のルーイン。元と言うのは、グレイスにより、四天王の力を剥奪されたためだ。
アデリーンを含むロレーヌ侯爵家は国外追放。ロレーヌ家が持っていた領地などは、後日周辺の貴族へ分配されるんだそう。
と、同時にわたし、国外追放されていた聖女アップルの冤罪も晴れる事となる。まぁ、追放されていたとは言え、
中には貴族の令嬢が他国に売られ、奴隷として飼われるなんて例もある訳で、わたしは周囲の仲間にも恵まれていたし、運がよかったのかもしれない。
「アップル、お前の言うとおりになったぞ。バルトスは失脚だ」
「まぁ、普通に考えて、そう言う流れになるでしょうね……」
謁見の間でバルトス及びロレーヌ家への処遇を、ブライツを始め、王家の者達も皆一緒に聞いていたらしい。
ひと段落したところで、いつものように神殿へやって来たブライツが、クランベリーの
「しかし、アップル。未だに信じられんのだが、このあいだの報告は間違いないのだな?」
「ええ。確かな
「それはそうだな。なぁ、アップル。それが事実として、俺はどう立ち振る舞えばいいと思う?」
「今まで通りでいいんじゃないかしら? ブライツのその純粋で真っ直ぐな姿が眩しくて、疎まれるという事もあるんだと思うわ」
いつも快活な姿ばかりわたしの前で見せているブライツだが、先日わたしがブライツへ告げた真実は彼に
元魔王直轄四天王――
そう、彼はあくまで実行犯。クーデターを引き起こした犯人を聖女であるわたしへ仕向け、あの黒竜との戦いにより、アルシュバーン国第ニ王子――ブライツ・ロード・アルシュバーンが戦死することを狙っていた人物が他に居るのだ。
「よし、俺が直接話しに……」
「そんなことしたら、あなた一瞬で追放されるか暗殺されるわよ?」
「はっはっは! 俺はそう簡単にくたばらんぞ!」
「いやいや、ホワイト召喚してなかったらあなたピンチになっていたじゃない?」
「ははは、そんなこともある!」
「はいはい……。でもダメよ。話をしたところで証拠がある訳じゃないし、どうせ
「そういう戦略的なところはどうも苦手なんだよな……」
「まぁ、そこはわたしがついているから安心しなさい」
相手が相手だけに、これで終わりとはいかないだろうとわたしは考えている。ならば、相手が動き出す前にわたしも今から準備をしておこうと思う。わたしは今日王よりわたし宛へ届いた書状を画面ごしに王子へ見せる。
「おぉ! アップル! それってもしかして……!」
「ええ。簡単に言えば、国家反逆罪は
「そうか! じゃあ神殿へようやく還って来るんだな。いやぁ、久し振りにアップルの顔が直接見れるんだなぁ~」
「え? まだ神殿には戻らないわよ?」
「え?」
「え?」
「誰が神殿へ戻るって言った? だいたいわたしが戻って来たなら、色々相手も仕掛けて来るでしょう? 当面は
「いやいやいや! もう罪も晴れて、緊急事態でもないんだ。テレワークする意味がないだろう! 今すぐ還って来い!」
「お断りします」
王子からの申し出へ丁重に断りを入れるわたし。わたしにはまだまだやるべき事があるのだ。神殿へ戻るのはそれが終わってからだ。ただし、今までは世間に内緒でテレワークをしていたわたしだったが、今後は正式に神殿へ所属する聖女として、テレワークに務める事が出来るのだ。この立場を利用して、そう簡単に相手の思うようにはさせないわ。そう誓うわたしなのである。
「アップルの言い分は分かった。俺もアップルからのアドバイス通り、当面は相手の思惑は知らない
「ええ。よろしくお願いするわ」
今回の事件に黒幕が居るという話。魔王グレイスやフォメットは勿論知っているが、わたしたち人間側で知っているのは、この回線を盗聴されないよう監視してくれているクランベリーとブライツ王子くらいだ。あと話しても良さそうな相手はジークくらいだろう。
理由は、どこに黒幕である
王子との
肩までかかる
「アルシュバーン国第一王子――アルバート・ロード・アルシュバーン」
画面上で嗤うその人物の姿を見つめつつ、わたしは静かにその名を呟くのでした――