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四十.どうやら思わぬ黒幕が隠れていたようです

「バルトス・ムーア・ロレーヌ及び、ロレーヌ家の者を国家反逆の罪で国外追放とする! バルトス所有の領地や財産に対する処遇及び分配は、後日改めて申し渡す! 以上」


 アルシュバーン国、現国王の決定を下を向いたまま重々しく受け止めるバルトス侯爵。そして、その隣には、焦点が合っていないような虚ろな表情で現実を直視出来ない金髪の侯爵令嬢――アデリーン・チェリーヌ・ロレーヌの姿があった。


 あの日、グレイスとフォメットによるまるで洗脳とも言える拷問によって骨抜きにされた元魔王直轄四天王のルーイン。元と言うのは、グレイスにより、四天王の力を剥奪されたためだ。


 ルーインの証言を元に、後日、魔法結晶マナクリスタル魔法端末タブレットに残った魔力の残滓ざんしなどを解析。秘匿回線の通信記録などを復元、密かにクーデターを企てていた映像や音声を洗い出した事で、バルトス侯爵が魔物を手引きしていた証拠が見つかったという訳だ。


 アデリーンを含むロレーヌ侯爵家は国外追放。ロレーヌ家が持っていた領地などは、後日周辺の貴族へ分配されるんだそう。


 と、同時にわたし、国外追放されていた聖女アップルの冤罪も晴れる事となる。まぁ、追放されていたとは言え、魔法転送術式マジカルテレポートを利用して自宅に居ながらお仕事ワーク=テレワークをしていた訳だし、遠隔操作で色々とやっていたので、あまり本当に追放していたのか分からないような状況ではあるんだけどね。


 中には貴族の令嬢が他国に売られ、奴隷として飼われるなんて例もある訳で、わたしは周囲の仲間にも恵まれていたし、運がよかったのかもしれない。


「アップル、お前の言うとおりになったぞ。バルトスは失脚だ」

「まぁ、普通に考えて、そう言う流れになるでしょうね……」


 謁見の間でバルトス及びロレーヌ家への処遇を、ブライツを始め、王家の者達も皆一緒に聞いていたらしい。


 ひと段落したところで、いつものように神殿へやって来たブライツが、クランベリーの魔法端末タブレットを通じて報告に来たという訳。


「しかし、アップル。未だに信じられんのだが、このあいだの報告は間違いないのだな?」

「ええ。確かなからの情報よ。ブライツに隠してもいつか分かる事だし、わたしが嘘をつかない事はブライツが一番よく分かっているでしょう?」


「それはそうだな。なぁ、アップル。それが事実として、俺はどう立ち振る舞えばいいと思う?」

「今まで通りでいいんじゃないかしら? ブライツのその純粋で真っ直ぐな姿が眩しくて、疎まれるという事もあるんだと思うわ」


 いつも快活な姿ばかりわたしの前で見せているブライツだが、先日わたしがブライツへ告げた真実は彼にこくだったらしい。それはそうだ。これまでの一連の魔物侵攻と未遂に終わったクーデター、単に貴族間の権力争いだけが全てではなかったのだ。


 元魔王直轄四天王――アーテルのルーイン。あのときわたしへ彼が告げた名前は、国の警護情報や、わたしが追放された情報などをルーインへ横流しし、クーデターを起こして名声をあげようと考えていたバルトス侯爵……ではなかった・・・・・・のだ。


 そう、彼はあくまで実行犯。クーデターを引き起こした犯人を聖女であるわたしへ仕向け、あの黒竜との戦いにより、アルシュバーン国第ニ王子――ブライツ・ロード・アルシュバーンが戦死することを狙っていた人物が他に居るのだ。


「よし、俺が直接話しに……」

「そんなことしたら、あなた一瞬で追放されるか暗殺されるわよ?」


「はっはっは! 俺はそう簡単にくたばらんぞ!」

「いやいや、ホワイト召喚してなかったらあなたピンチになっていたじゃない?」


「ははは、そんなこともある!」

「はいはい……。でもダメよ。話をしたところで証拠がある訳じゃないし、どうせ派閥・・もあるんでしょう? やるなら周囲から固めてじっくりやらないと」


「そういう戦略的なところはどうも苦手なんだよな……」

「まぁ、そこはわたしがついているから安心しなさい」


 相手が相手だけに、これで終わりとはいかないだろうとわたしは考えている。ならば、相手が動き出す前にわたしも今から準備をしておこうと思う。わたしは今日王よりわたし宛へ届いた書状を画面ごしに王子へ見せる。


「おぉ! アップル! それってもしかして……!」

「ええ。簡単に言えば、国家反逆罪は冤罪でしたすいません・・・・・・・・・・の書状よ。これで晴れて神殿へ仕事復帰出来るという訳。聖女が復活という御触れ・・・を出すだけでも効果は絶大でしょうね」


「そうか! じゃあ神殿へようやく還って来るんだな。いやぁ、久し振りにアップルの顔が直接見れるんだなぁ~」

「え? まだ神殿には戻らないわよ?」


「え?」

「え?」


「誰が神殿へ戻るって言った? だいたいわたしが戻って来たなら、色々相手も仕掛けて来るでしょう? 当面はテレワーク・・・・・を維持しつつ、相手の裏をかく。これこそわたしってもんでしょう?」

「いやいやいや! もう罪も晴れて、緊急事態でもないんだ。テレワークする意味がないだろう! 今すぐ還って来い!」

「お断りします」


 王子からの申し出へ丁重に断りを入れるわたし。わたしにはまだまだやるべき事があるのだ。神殿へ戻るのはそれが終わってからだ。ただし、今までは世間に内緒でテレワークをしていたわたしだったが、今後は正式に神殿へ所属する聖女として、テレワークに務める事が出来るのだ。この立場を利用して、そう簡単に相手の思うようにはさせないわ。そう誓うわたしなのである。


「アップルの言い分は分かった。俺もアップルからのアドバイス通り、当面は相手の思惑は知らないていで、立ち振る舞う事にするよ」

「ええ。よろしくお願いするわ」


 今回の事件に黒幕が居るという話。魔王グレイスやフォメットは勿論知っているが、わたしたち人間側で知っているのは、この回線を盗聴されないよう監視してくれているクランベリーとブライツ王子くらいだ。あと話しても良さそうな相手はジークくらいだろう。


 理由は、どこに黒幕であるの派閥が潜んでいるか分からないから。

 王子との魔法端末タブレットの通信回線を切ったわたしは、そのまま人物検索で彼の名前を入力する。


 肩までかかる緋色ひいろ髪と瞳は彼の内に秘めた野心の象徴。容姿端麗。知的で狡猾。自国の利益を第一に考え、その知略と革新的な政策で国の未来を任される人物。


「アルシュバーン国第一王子――アルバート・ロード・アルシュバーン」


 画面上で嗤うその人物の姿を見つめつつ、わたしは静かにその名を呟くのでした――


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