この世界には魔力を己の力へ還元する事で行使出来るスキルというものが存在する。
魔物と同じくランク付けされるスキルも、その威力と有効範囲に応じて初級、下級、中級、上級、超級に分けられるのであるが、稀に女神様からの神託により、超級の上に値するEXスキルが発現する事がある。
魔人は神殿を取り囲む外壁を壊し、敷地内へと侵入している。一歩一歩、魔人がゆっくり歩を進める度、大地が揺れている。いつの間にか神殿の周囲は厚い雲に覆われていた。
「キュォオオオオオ!」
神殿に居る人間を威嚇するかのように大きな顎門を開け、咆哮する魔人。刹那、禍々しい
「あの風は不味いわね」
魔人が放つ闇の咆哮は上級スキル並の威力を誇っていた。闇に対する耐性を持たない生身の人間があの風を浴びてしまったなら、一瞬にして実体を保てず、肉体は朽ち、溶けてしまうだろう。
『た……たすけて!』
神殿の正面入口付近、逃げ遅れたシスターを見つけた魔人が、闇の咆哮を放つ。
「させないわ!」
すぐさまわたしは
『シスターミリア! 無事でよかった! はやく地下へ避難して下さい』
『は、はい! クランベリー!』
シスターを見つけたクランベリーが彼女を抱き抱えるようにして避難させていく。
そのままわたしは魔法端末の映像視点を神殿側へ切り替える。クランベリーは神官達と共に神殿に居る者たちを避難させていた。
魔人は先程わたしが発動した防御結界に虚を突かれ、戸惑っている様子だ。これで神殿の人達が巻き込まれる心配はない。
「キュォオオオオオオオオ!」
猛る魔人が腕を振るい、白く透明な壁に罅が入る。段々と亀裂が入り、壊されていく結界。しかし、結界が壊される事は想定済。両手を握りしめ、わたしは祈りを捧げる。
「女神クレアーナの加護を受け、聖女アップルは示す。彼の地へ慈愛の恵みを。救世の祈りを。罪人は悔い改め、魔の者は地へと還る。天より導く言霊は、希望を告げる神託の
強力な魔法を展開するには時間がかかる。それが
そして、目を見開いた瞬間、わたしは言葉を紡ぐ――
――今、顕現せよ。
神殿の上空に光輝く雲が顕現し、魔人へ光の雨が降り注ぐ。
遠隔で放たれた光の雨は、わたしの聖女としての魔力を籠めた超級聖属性魔法。
魔人の咆哮が神殿へ響き渡り、黒光りする体躯が光に包まれる。
やがて、光の雨に打たれた魔人の身体が溶けていき、紫色の蒸気が天へと昇っていく。上級レベルの魔物は、わたしの
いつの間にか神殿を覆っていた厚い雲も消滅し、空には虹がかかっている。
『ま、魔人が……消滅しただと……!?』
『め、女神様の神託か?』
『いや……この光は……聖女様のものだ!』
やがて、魔人が消滅した事に神殿から歓声があがる。
こうして神殿の危機は去ったのだった。
「ふぅ~。
脱力感が凄い。普段は垂れ流すほどの聖属性の魔力を持っているわたしだが、EXスキルを駆使しつつの超級魔法は流石に疲れる。お陰で持っている魔力の
「まぁ、一日寝たら魔力は全快するし、なんとかなるか」
聖女の回復力を舐めて貰っては困るのだ。まぁ、この膨大な魔力を維持するため、
「――アップル様、――アップル様! ありがとうございます! やはりあなたは聖女様です」
魔法端末から聞こえるクランベリーの声。
「あ、クランベリー。みんな無事でよかったわ。疲れたから今日は寝るわね」
「アップル様、今度お礼をさせてください」
「じゃあ、カスタードで住む場所が決まったら教えるから、クランベリーパイを送ってくれる?」
「クランベリーパイでもラズベリーパイでも幾らでも送ります!」
この二週間後、カスタード国のメロンタウン――レヴェッカ邸へ最近流行りの