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第44話 麗子様はブランド戦略に挑む。

 どや顔でお母様に宣言してから一ヶ月。

 雲一つないからりと晴れたバザー日和びより


 梅雨も明けたばかりの、まだ本格的な暑さはこれからという季節だが既に十分暑い。


「太陽がいっぱいだ……ですわ」


 くそっ、照りつける太陽がジリジリと肌を焼きやがる。そのくせ梅雨の残り香にじっとりして不愉快指数MAXだ。


 くっ、クーラーのガンガン効いた部屋で涼てぇ。そして、お兄様にひっつき虫したい。


 だが、私には悪の転売ヤーどもから子供達の夢と希望を守るという使命がある。この一ヶ月、そのために私は入念な用意をしてきたのだ。


 見ていろ転売ヤーども、お前らに付け入る隙は与えん!

 この清涼院麗子が無垢な子供達の笑顔を守って見せる!


 準備万端、この清涼院麗子に抜かりはないわ!


 強い決意を胸に正義の心を燃やして向かったバザー会場。緑豊かな市民公園を借りての意外と大きなイベントのようね。


 既に多くの人が訪れており、所狭しとゴザや簡易テーブルに商品を並べていた。


 かんかん照りの太陽の下、こんなうだるような暑さの中、みんなよーくるわ。あちー。もう帰りてぇ。


 強い決意と燃える正義の心はどこいったって?

 そんなもん猛暑の前に溶けて無くなったわよ。


 あー、だりぃー。


「さて、さっそく設営しましょう」

「力仕事は我らにお任せくださいや」


 炎天下の中、テキパキと準備を進める手際の良い飯田さん。キビキビと動き回る肉体派の宇喜田さん。


 付き添いの飯田さんと宇喜田さんが今日も元気だ。この二人、どうして子供の私より元気なの?


「お店の準備が整いましたぜ」

「さあさあ、売り場はお嬢様の担当ですよ」


 えー、やんなきゃダメー?

 こんなに暑いのにヤダー!


 まあ、にっこり笑って嫌々なのはおくびにも顔に出さないけど。


「ありがとうございます」


 飯田さんも宇喜田さんも休日に付き合わされてるんだもん。言い出しっぺの私が投げ出すわけにはいかないわよねぇ。


「張り切って売り切ってしまいましょう」


 むんっと可愛く両拳を胸の前で握って気合いを入れれば、飯田さんも宇喜田さんもほっこり。うんうん、私ってカワイかろー。


 これくらいの愛嬌を振り撒くのもサービス、サービス。


 あゝ、私ってなんて出来たお嬢様なんでしょ。


 それに比べてお母様なんて私に丸投げよ。今頃クーラーの効いた部屋で涼んでんじゃない?


「そうですね、今日中に完売を目指しましょう」

「まあ、これらは日持ちしませんからねぇ」


 ガラスケースの中に並べられた商品。それはクッキーやチョコレート、ケーキなどのお菓子の数々。しかも、ただの甘味ではない。


 そう、全て超絶美少女清涼院麗子様お手製の高級スイーツじゃ……デザインは飯田さんの手を借りてるけど。


 くっ、時代がまだ私の先進的なセンスに追いついていないのが悔やまれる。


 だが、ほとんど私の手で作ったのは間違いない。超絶美少女で超お嬢様な私が手ずから作ったスイーツというのがポイント。誰しもむさいおっさんより無垢な美少女の手作りに価値を見いだすわよね。これプレミアムものよね。


 だけど素人の色物商品と思うなかれ。絶対味覚の私が作ったスイーツは人気高級店にも負けていないわ。材料もいいのを揃えたしね。食育としても子供達に本物を食べさせるのはいいことだ。


 しかも、『当日中にお召し上がり下さい』の表記があるこれらは転売不可能。


 消え物サイキョー!


 それに高級スイーツだから客単価も申し分なし。完売できれば寄付金はかなりの額になるのよね。


 オラァ、転売ヤーども、かかってこいやー!


「さあ、パティスリーレイコバザー出張店の開店ですわ!」


 ……と意気込んでたのに、予想に反して客の足が鈍い。たまに美少女の私に目を止めてくれる人もいたけど、ショーケースの中を見て去っていく。


「どうしてですの!?」


 バザーには思ってたより人が多かった。なのに、我がパティスリーレイコの周囲だけ閑古鳥がカッコウカッコウと鳴いていやがる。


「やっぱり値段設定が強気すぎましたかね?」

「どのお菓子も町のケーキ屋と値段が変わりゃしませんからねぇ」


 何を言うの二人とも!


「材料費から考えて、これでもかなり値段は抑えておりますわよ?」

「他の店を見てきたんですが、うちより格安でしたぜ」


 宇喜田さん、待って待って。私が売ってる商品の味と品質は、どんな高級店にも負けていないのよ。むしろ割安なくらいなのよ。


「低価格帯の商品とは住み分けできると思いましたのに」

「確かにお嬢様の作ったものは素晴らしいのですが、やはり高品質すぎてバザー向きではなかったのでしょう」


 ぬぅ、飯田さん、それは最初に言って欲しかった。


「お嬢様の作ったスイーツがリーズナブルだと分かれば売れる可能性もあるのですが……」

「食品は見ただけでは判別できませんからねぇ」


 シット!


 ブランド戦略は知名度が命。先にパティスリーレイコを出店して知名度を上げておかなきゃダメだった。


 麗子一生の不覚!


「困りましたわ」


 うちは裕福だから別に赤字でも構わないのだが、あれだけお母様に啖呵を切った手前、売れ残りの山を抱えて帰るのは私の矜持が許さない。


 むぅ、なんとかできぬものか。


「試食コーナーでもやりますか?」


 飯田さんの提案は考えなかったわけでもない。だけど、高級スイーツは試食だけで満足されてしまいかねないのよねぇ。お土産に買って帰れるなら良いんだけど、消費期限を本日中にしちゃったからなぁ。


「いっちょ俺がサクラを呼んできましょうか?」


 むぅ、それしかないか。


 楓ちゃんや椿ちゃん、後はお兄様に協力してもらおうかしら。見栄えの良いサクラはお客の誘引になりそうだし。


 それじゃさっそくSNSで連絡を……


「おかしな格好している奴がいると思ったら清涼院じゃないか」


 清く正しく美しい私の前に颯爽と登場した救世主メシア


「こんにちは清涼院さん、奇遇だね」


 手を差し伸べてくれたのはイケメン王子か心優しき天使か。


「まさか清涼院さんがバザーに出店しているなんて思わなかったよ」

「ふんっ、また何か良からぬことを企んでいるんじゃないのか?」


 それは優しくにっこり笑う眼鏡の美少年とブスッとむくれた威圧的な美少年。


「これはこれは滝川様に早見様、ご機嫌麗しゅう」


 恐怖の大王アンゴルモア腹黒堕天使アザゼルじゃねぇかよ!

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