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第43話 麗子様は慈善活動に目覚める。

 ――兵どもが夢の跡


 儚く消えようとしていた小さな生命を救うべく奮闘した一ヶ月。清涼院家にはマダラのために様々な猫グッズが揃えられた。それもほとんが必要なくなり家政婦の藍田さんの手によってお蔵入り。


 今でも健在なのはマダラお気に入りの猫用トイレ、爪研ぎポール、猫用ベッドくらいか。


 他にも(私だけ)使えなくなったグルーミング用品が、過去の戦いの残滓として虚しく残っている。


 それを見るにつけて思う……私の野望はついえたのだと。


 学園から帰宅するとみんながマダラに夢中となっていた。その姿を横目に見ながら私は自室へと戻る。


 パタンっと静かに扉を閉めると私はバフンッとベットにうっつぶして手足をジタバタさせた。


「私の何がいけないんですのぉ!」


 くっそぉ、あれだけ頑張って愛情を注いだのに、どうしてなのマダラさん!


 いや、愚痴はよそう。きっとマダラは反抗期なのだ。一番近しい者ほど照れて素直になれないに違いない。


 そうよ。絶対そうに決まっているわ!

 きっと、いつの日かマダラはデレる!


 マダラさんデレぬならデレるまで待とうマダラさん


 とりあえずマダラは我が家に残留したのだ。彼が私にデレる日をじっくり待とうではないか。


 それよりも目下、切実な問題が他にある。


 私は美食家だ。これはお父様の血が大きく影響しているのだろう。


 ぽんぽこタヌパパンの我が父は、ああ見えて食通だ。社交界では清涼院の当主は美食家と評判である。あのメタボ腹は健啖家と言われた方が納得いくのだが。


 きっと、部下達に自分を美食家だと言うよう強制しているのね。なんというパワハラ。そんなだからお兄様に謀反を起こされるのよ。


 まあ、私は絶対味覚の持ち主だから自他ともに認める美食家だけどね。


 ダバダ〜そんな違いの分かる女の私だけれども、やっぱりたまにはジャンクも堪能したい。無性に安っぽいあの味を貪りたくなるのだ。


 ハンバーガー、ラーメン、ピザ、ポテチ、カップ焼きそば、たこ焼き、お好み焼き……じゅるり


 くぅ~、前世で愛したあのチープな味が忘れられん。


 だったら食べればいいじゃないかって?

 食べたくっても先立つものがないのよ!


 そう、私が直面しているのは現金げんなま無いぞ問題である。

 お前、お金持ちじゃなかったんかいって思うでしょ?


 でもね、お金持ちって現金を持たないものなの。生活必需品は必要以上に揃えてくれるし、欲しいものは何だって買ってくれるからね。だから、私が現金を持つ必要はないの。


 つまり、我が家にお小遣いなんて概念は無い。よって、私は1円たりとも持ってないのだ。


 だって、カードで何だって買えるんだもん。


 だったらカードで支払えばいいじゃないかって?


 あのねぇ、カード決済したら何を買ったか履歴でバレバレでしょ。清涼院麗子がバーガーショップやラーメン屋でファーストフード食べるなんて。世間体が許さないわよ。


 第一、ポテチやカップラーメンを買ったのがお父様やお母様に知られたら……ガクブルガクブル。


 他にも庶民派の私には家族に秘密にしたい事は色々とある。だから、足のつかない自由になる現金が必要なの。それで何とか入手法を探さないとって、ずっと考えていたってわけ。


「思ったより困難な命題ね」


 B級グルメを食べ歩きたい。コンビニやスーパーで買い食いしたい。お祭りや縁日の出店を楽しみたい。そんな子供の些細な願いを叶える程度の少額でいいのに、意外と入手する手段が見つからない。


 今まで買ってもらった高額商品を転売しようかとも考えた。使わないものもあるしね。だけど、これも振り込みだから足がつく可能性がある。


「出来そうで出来ないこのもどかしさよ」


 清涼院家には唸るほどお金があるというのに。だからって、買い食いしたいからお小遣いくれろ~とも言えないし。


 う~、金がねぇ、金がねぇ。


 そんな思いに悶々としていた私に転機が訪れた。


「麗子ちゃん、今度バザーに出す品のことなんだけど……」


 ある日、お母様からバザーのお誘いがあった。なんでもお母様の懇意にされている夫人から協力を打診されたらしい。


 その友人とは穂浪ほなみ万里子まりこ様。慈善活動にとても熱心な方らしく、色んなチャリティーイベントを援助しているそうだ。


「使わなくなった物を提供するのではいけませんの?」

「私もそう思ったのだけど、我が家にある物は全て高級品でしょう」


 なんでも今回のバザーは一般家庭の子供達向けの物を求めているらしく、あまり高額商品は出品して欲しくないのだとか。


 値段設定を下げればいいじゃんって思うんだけど、元値と売値に差があり過ぎるのは一方的な施しで慈善の精神に欠けると穂浪様がおっしゃるのだとか。めんどくせー。どうせ使わなくなった物なんだから別にいいじゃん。


「それに転売目的の人も増えて、前にバザーが殺伐としてしまったことがあったらしいの」

「せっかく善意で持ち込んだ品をお金儲けの種にされるのは確かに面白くはありませんわね」


 チャリティーバザーにまで転売ヤーって来んのかよ。うぜー。


 しかも、かなりタチの悪い連中に目をつけられたそうで、バザーを中止に追い込まれたんだって。サイテー。


「穂浪様もかなり困っていらっしゃるみたいなの」


 せっかく子供達にも喜んでもらおうと良い品を揃えても、転売ヤーに荒らされては意味がない。それに、子供の目の前で大人の醜悪な姿を晒すのは情操教育にもよろしくなかろう。


 そこで、穂浪様は元値と売値の差額を小さくして転売ヤーを防いでいるそうだ。だけどそれでは収益が下がり寄付金が集まらない。それに、商品が割高になってしまいバザーを楽しみにしている人達もがっかりだろう。


 悪貨は良貨を駆逐するとはよく言ったものだ。ったく、いつの世も欲に目の眩んだ人間はロクな事をしないわね。


 よし、ここは私が一肌脱いであげようじゃないの。


「そういう事でしたら、私に妙案がありますわ」

「あら、何か良い品があるの?」

「ええ、そこそこ良い売り上げになる物がございます」

「でも、あまり高価なものはダメなのよ?」

「ご心配には及びませんわ。転売なんて絶対させず、子供達も大喜びすること請け合いの商品ですわ」


 にんまり笑って私は自信満々に胸を叩いた。


「お母様、万事私にお任せくださいませ」

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