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第27話 麗子様は奸計を弄する母親達に絶望した!

「こちらの美容院でお会いするのは初めてですわね」


 お母様がいつものあざと可愛い、右手を頬に添えてからのコテンを披露。とっても自然に疑問を口にされております。


「ええ、いつもは別の美容院へ参りますの。今日は気分転換に違うところも良いかと思いまして」


 滝川ママにも不自然な素振りは見当たらない。


「こんな偶然があるのなら、店を変えてみたのは正解でしたわ」

「ええ、まったく」


 二人がおほほと笑い合う。

 特に怪しいところは無い。


 だが、おかしい!


 私の勘が危険を告げている。今しがたかっちりセットしたドリルヘアーで麗子センサーもバリサンだぜ。感度MAX!


 みんなお母様の可愛いらしい見た目に騙されているのよ。まるで世間知らずの箱入り娘がそのまま母親となったように錯覚しちゃうのよね。


 滝川ママもやり手ビジネスウーマン風の外面を笑顔でくるんで人が好さそうだ。


 だが、騙されんぞ!

 この二人は役者だ。


 右も左も分からぬ深層の若奥様のフリして、その実、腹の中は真っ黒だ。あの細いお腹には、他者を欺く策略がいっぱい詰まっているんだから。


 この間のla graceラ・グレイスお見合い事件で私はそれを知った。お母様達に気を許してはダメ!


 だいたい、たまたま滝川ママがいつもと違う美容院へ来てみたってのが怪しい。私達のような金持ちには、しがらみが多分にある。だから、行きつけの店をそうそう変更したりはしないのよ。よっぽど紹介などの理由がなければ。


 それに、今日いきなりお母様が美容院へ行こうと言い出したのも、いま思えばおかしい。最近セットしたばかりなのに、美容院に私を連れ出したのには理由がある。それも全て滝川ママと落ち合うためだと考えれば合点がいく。


「そうそう、ちょうど清涼院様にお話しがありましたの」

「まあ、そんな偶然もあるのね」


 何がちょうどだ、何が偶然だ。ぜんぶ仕組んでいたくせに。今どき電話や手紙を使って連絡取れるだろうに。


 私には見える!

 黒い笑いを浮かべて私を見る二人の姿が!


 私を連れ出してきたことから、二人の思惑には私が絡んでいるに違いない。この二人の共通項から導き出される答え……それは私と滝川和也が関係している。Q.E.D.証明終了。


「お母様、滝川様と大事なお話がおありみたいですし、私は宇喜田さんと先に帰っておりますわ」


 ここは三十六計逃げるに如かず。

 君子は危うきに近寄らないもの。


 運転手の宇喜田さーん、ヘルプミー、私を助けに来てーーー!!!


 あれ? あれ? 宇喜田さん? 宇喜田さん?

 どこ? どこ? 宇喜田さんどこに行ったの?


 いない! いない! どうして? 宇喜田さんがどこにもいない!?


 カモォーン、宇喜田さーん!


「あら、ごめんなさい。宇喜田さんなら、さっきお使いを頼んだのよ」


 なぬっ!?


「困ったわ。まさかこんなことになるとは思わなかったのよ」


 ウソつけ策士め!

 確信犯のくせに。


「宇喜田さん、まだ戻ってくるには時間がかかりそうね」

「お、お母様、それはあまりにあんまりですわ」


 やられた!


 この人、退路を断たってきやがったよ。

 お母様、可愛い顔してなんて悪辣あくらつなの。


「まあまあ麗子さん、そんなに慌てて帰らなくても。それにちょうど麗子さんにも聞いてもらいたい話があるんですのよ」

「あらそうなの?」


 おーっほっほっほっ、じゃねぇ!

 おまえら絶対グルなんだろーが!


 ま、まずい。ここにはお兄様もいないし、何か要求されても一人じゃ断りきれないかも。


 麗子、大ピーンチ!


「来月、七月七日に滝川家主催の七夕しちせき祭りを計画しておりますの」

「しちせきと言うと星祭りを?」

「ええ、そのパーティーに清涼院様をご招待したいのです」


 しちせき?

 ほしまつり?


 ああ、七夕たなばたのことね。短冊に願いを書いて笹に飾るだけだし、それほど問題は無いか?


 滝川家にしてはずいぶん大人しい催しね。


「毎年うちが経営するホテルの屋上ガーデンを貸し切って短冊を飾ったり、そうめん流しなんかもしているんですのよ」


 あー、そうめんいいなぁ。この暑い中で竹組みのレーンに次々と流れてくるそうめん。想像しただけで涼しくなりそう。あとお腹が空き申した。


「それは涼やかで風情があってよろしいですわ」

「ですが、いつもそれだけでは芸がありませんし、ちょっと趣向を凝らして織姫と彦星の出会いを演出しようと考えておりますの」


 むむむっ、なにやら話が不穏な流れに。


「まあ、七夕の日にそれはロマンチックですわ」

「そうでございましょう?」

「ええ、それでやはり彦星役は和也さんが?」

「はい、そのつもりでおります」

「それでは織姫役はまさか……」


 二人が同時に私に視線を向ける。その顔は笑顔だったが、とってもどす黒かった。


「やはり、一番の適任は麗子さんだと思いまして」


 やっぱりぃぃぃ!!!


「あら、うちの麗子ちゃんでよろしいんですの?」


 白々しいですわよ、お母様!

 全部シナリオ通りのくせに!


「和也さんの相手は麗子さんくらいしか務まりませんもの」

「まあ、和也さんとお似合いですって。良かったわね、麗子ちゃん」


 外堀り埋めにきやがったよ。これ織姫と彦星を皮切りに、私と滝川の婚約話をなし崩し的に決めようとしてんのね。


 またまたハメられたよ!

 大人ってなんて汚いの!


「私としましては、これを機に麗子さんには和也さんと仲良くしてもらえたらって思っていますの」

「そうですわね。私も麗子ちゃんのお相手は和也さんしかいないと常々考えておりましたわ」

「ええ、それが二人の将来のためですもの」

「母とは子供の幸せをいつも願うものですものね」


 絶望した! 自分の価値観で子供の幸せを勝手に決める親達に絶望した!


 ホントにグレますよ、お母様!

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