「私はどうしても縦巻きロールを止めて、普通の髪型にしたいのですわ」
今日はお母様に連れられて、いつもの美容院へと来ている。
先々週セットしたばかりなのに、どうしてだろうと不自然な気もしたけど、お母様曰く「梅雨で麗子ちゃんのロールがちょっとくったりしてるから」だって。そんなわけあるかい!
だけどこれはチャンスよ。これまでは
私の狙いは原作マンガからの脱却。清涼院麗子と言えば、ロココの女王である象徴ドリルヘアー!
清涼院麗子の前にドリル無く、清涼院麗子の後ろにドリル無し。このドリルヘアーこそ清涼院麗子の存在証明。つまり、この髪型から脱却できれば、また一つ原作から大きく
他意はない。別に男の子にモテたいとか、そんな不純な動機じゃないんだからね。
「麗子ちゃん、いきなり何てことを言うの!?」
お母様は真っ青になって、悲鳴に近い声を上げられた。
えっ、これって、そんなにショックを受けることなん?
「麗子も今どきの女の子みたいに、もっと可愛くオシャレをしたいのですわ」
だけど、私とて引くわけにはいかない。だって、ロココはイヤや、ベル薔薇はイヤや。これ以上、螺旋力を上げて男子から避けられるのは絶対イヤなんやぁ!!!
私だって、もっともっとオシャレして、他の女の子達とキャッキャッと恋バナしたいのねん!
せっかく美人に生まれ変わったんだから、もっともっと男の子にチヤホヤされたいのねん!
えっ、不純な動機ではなかったんじゃないかって?
ふっ、そんな昔のことは忘れたわ。
「何を言っているの。今の髪型が麗子ちゃんに一番似合っているの。このロールこそ最高に可愛いのよ」
こんな一昔前の少女マンガの悪役みたいな髪型が、私に最もマッチしていると?
「お母様は麗子が、お蝶夫人やガラかめの亜弓さんみたいだとおっしゃりたいんですの?」
「いいじゃない。あの二人は綺麗で凛々しいわ」
確かにあの二人はとてもカッコいい。ハッキリ言って主人公よりも好きだ。だけど、そうじゃない。そうじゃないんだ!
「いったい何十年前の作品のキャラですか!」
もはや時代は変わったのだ。今さら努力、根性、熱血は流行らない。麗子は最先端のモードを追いたいのです。トレンドリーダーになりたいのです。
「ダメよ、ダメダメ、麗子ちゃんはこの髪型でなきゃ」
うわっ、お母様、そんなに目を潤ませないでください。完全に私が悪者じゃないですか。いやーん、麗子はお母様の涙に弱いのです。
「そうですよ、麗子様」
「ええ、やっぱり麗子様は縦巻きロールでなくちゃ」
「ホントに麗子様にはコロネ良くお似合いで」
それは馴染みの美容師達もみな同じらしい。
涙は女の最終兵器。どんな男もイチコロと聞く。だが、我が母の涙には、男も女も老いも若きも関係がないようだ。
くっ、孤立無援じゃ、四面楚歌じゃ。
劉邦軍に包囲された項羽も、今の私と同じ気持ちで垓下の歌を
こうして泣く泣く美容師さん達の手によって、私の髪はガッチリ巻き巻きにされた。どうやら私の涙には誰も同情してくれないらしい。クスン。
「さあ、出来上がりですよ」
「日本広しと言えど、こんなに縦巻きロールがお似合いになるのは麗子様だけです」
「さすが麗子お嬢様ですわ」
美容師さん達からのサスオジョ、サスオジョコール。こんな褒められ方されてもまったく嬉しくない。
鏡に映る私の髪は、心なしかいつもより螺旋力が増して見えた(当社比1.25倍)。私のドリルの貫通力は、梅雨の湿気にも負ける気がしない。
「やっぱり麗子ちゃんにはこの髪型だわ」
お母様は大喜び。さすが二児の母とは思えぬ若々しい美女。その笑顔プライスレスです。美容師さん達も泣いて拝んでおります。
私が笑うと男子が逃げていくのに。おかしい。血を分けた母娘のはずじゃないの。この違いはいったいなに?
やはり、螺旋力がすべての元凶か。このまま進化を続けるとスパイラルネメシスで我が身が滅びるというのに。
しっかし、やはり鏡に映る自分を見るに、ドリルヘア―は麗子の代名詞だと思わざるを得ないわねぇ。よー似合っとるわ。まさに悪役お嬢様。
この悪役感のせいで、笑うとついついマンガの麗子様ポーズをやってしまうのよね。
右足を左足の前に出し、左手を腰に右手を左頬に当てて、胸を反らせて、はいっ。
おーっほっほっほっ。
周囲の美容師さん達からパチパチ拍手。
なに一緒になってお母様まで拍手してるんですか!
これが悪役お嬢様の生きる道。もうヤケ。
チクショー、いつかグレてやる。グスン。
「あら、清涼院様ではありませんか」
そこへ登場したのはスーパーモデルとみまがうスーパースレンダー美女。
えっ、えっ、どうしてあなたがここに?
「あら、奇遇ですわね、滝川様」
滝川ママのご登場だ!?