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第21話 麗子様は大ピンチに陥る。

「清涼院さんのお宅は素敵なご家族で羨ましい」


 私を見てニコニコ笑顔の滝川のおじ様、私に睨まれダラダラ汗を流すお父様。役者がホントに違うわね。


「ご子息は優秀で、ご息女はとてもチャーミング。加えて家族円満。でき過ぎで、嫉妬を覚えますよ」

「いやぁ、はっはっはっ」


 なに笑ってんですか?

 帰ったら折檻せっかんですよ?


「これも清涼院さんの教育の賜物ですね。その教えを乞いたいものです」

「なんのなんの、和也君も優秀だそうじゃないですか」


 コミュ障だけどね。


「それに、私は特に何もしていません。雅人も麗子も本人達の努力によるもの。親が無くとも子は育つと申しますからな」


 嘘つけ。私とお兄様にバリバリ選民思想植え付けようとしてたやんけ。


「お兄様はともかく、私など大したものではございませんわ」

「そんなことはないですよ。大変優秀だと聞いています。それに麗子君はとても可愛らしい」


 あゝ、いけませんわ。そんな熱い眼差しを向けられて。


 おじ様には素敵な奥様と小憎たらしいお子様がおられるのですから。私達は許されない間柄なのです。でも、おじ様がどうしてもと仰るなら……やっぱ、ダメか。


「もう、おじ様ったら、お世辞ばっかり」

「私の口からは本心しか出てこないですよ。麗子君は学園でさぞかし人気があるでしょう」

「そんな、私なんてぜんぜんですわ」


 これ、謙遜じゃなくてホントなんですけどね(泣)。って、滝川ぁ、なにくすくす笑ってんだテメェ!


「こいつ本当にぜんぜんだものな。男子から恐怖の対象になっているし。この前、睨まれた男子が、机の下に隠れて震えていたぞ」


 くっ、事実なだけに言い返せない。あんにゃろ机の下で「ヨナオシ、ヨナオシ」って唱えてやがった。関西の人間だったのね。覚えていろよ。


「こら、和也!」


 ケッ、滝川のヤツ、おじ様に怒られてやんの。やーい、やーい。でも、キチンとフォローは入れる。別に滝川のためじゃないんだからね!


「おじ様、それくらいで。私が殿方から避けられているのは事実ですし」

「信じられないな。私が同じ年代なら放っておかないのに」


 こう言う気配りが年上にはウケるのよ。所詮ちびっ子どもには、私の魅力がわからんのですよ。


「麗子君は本当に素敵なお嬢さんだ」


 あゝ、滝川のおじ様……ス・テ・キ。

 うちのお父様と交換できないかしら?


「まったくだわ。麗子さんは大人ね。うちの和也にも見習わせたいわ」


 ふっふっふっ、滝川め、私がご両親にベタ褒めされて悔しそうだのぉ。おぬしはもそっと気配りとデリカシーを学ぶが良い。


 それに引き換え、滝川のおじ様はダンディという言葉がお似合いになられる。ああん、麗子、こんなお父様が欲しかったぁ。


「麗子さんはお母様に似ておられると思っていたけれど、お父様の血を受け継いでいらっしゃるのね」

「ああ、清涼院さんに似て、とても優秀だ」


 なぬっ!? 私にタヌキの背後霊が憑いているだと!


 そう言えば、最近少しお腹の回りがキツくて……くっ、パパダヌキのせいだったのか。けっして、私がお菓子作りのどさくさに、味見と称して食べ過ぎたからではない。断じてない!


 それにしても、私の背後霊のタヌパパン様は、ぽんぽこぽんぽこと鳴らせそうなほど腹を育ておってからに。誰だ、うちのタヌキに餌付けをしているのは……私か。


 欲しい物をおねだりする度に、貢ぎ物を献上してたからなぁ。


「女の子は華やかで良いわねぇ」

「ふふふ、麗子ちゃんは騒がしいだけよ」


 もう、お母様ったら。皆さまの前で。麗子、恥ずかしい!……当然、謙遜ですわよね?


「うちにも麗子君みたいな娘が欲しかったな」

「まっ、嬉しい。おじ様だったら、お父様と取り替えたいくらいですわ」


 もう、こんな素敵なパパさんなら私も欲しい!


 ……って、ええい、泣くなタヌキ。冗談に決まってるでしょう……まあ、半分くらいは本気だけど。


「ははは、麗子君にそう思われるのは光栄だね」

「ふふ、世の娘なら誰だって同じことを考えますわ」


 素敵なパパさんに淡い恋心を抱くイケない娘。そして、父娘の関係に苦しみながら、二人は一線を越えてしまうの!


 あゝ、萌える展開だわ……やめましょう。これは危険よ。昔あった教師と高校生の禁断の恋愛ドラマみたいな問題作になる気がする。


「それじゃあ、いっそ我が家の娘になるかい?」

「とても魅力的なお誘いですが、私にも大切な父がおりますので」


 お父様が麗子ぉぉぉって咽び泣いていますが、ええいっ鬱陶しい!

 しかし、こんなタヌパパンでも今まで私を育ててくれた大切な親。


 このタヌキの背後霊とも共生せねばならんのじゃ。


 悲しいけど、これ現実なのよね。

 あっ、なんか左肩が凝ってきた。


「なあに、うちの和也と結婚すればいいのさ」

「ぶっ!」


 なに言ってんですか。思わず吹き出しちゃったじゃないですか!


「まあ、それは良い考えだわ」

「そうね、さっそく婚約の日取りを決めましょう」


 ぐはっ、お母様と滝川ママまで乗り気!

 やべぇよ、やべぇよ、麗子、大ピンチ!

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