「清涼院さんは、うちの子と会うのは初めてでしたね」
見間違いようがない。前に出てきたのは我が宿敵、滝川和也だ。こんな美形がそうそういるはずもないもの。
くっ、やっぱり滝川のおじ様は滝川パパだったのか。
「お初にお目にかかります。滝川和也です」
お父様に腰を折って名乗る滝川和也。
なによコイツ。コミュ障じゃなかったの?
「おお、君が和也君か、私の娘が世話になっているようだね」
ちっ、誰がこんなヤツに世話になるもんですか。
「いやいや、うちの愚息が麗子君に、ご迷惑をかけていないか心配しておりますよ」
ええ、ええ、まったく日頃から睨まれて迷惑しておりますとも。そして、未来では私を破滅させるほど迷惑かけるんですよ、コイツ。
「お久しぶりです、清涼院様。それから奥様も、先日はお茶会に参加していただきありがとうございました」
さらに登場してきたのは、滝川のおば様。すらりとした長身のすっごい美人。お母様とタメ張れるわ。
私のお母様がグラマラスな美人なのに対して、滝川ママはすらりとしたスレンダー美人。
マリリン・モンローのごときマドンナとシンディ・クロフォードのようなスーパーモデルが並んでいるみたい。
滝川のおじ様も俳優級のイケオジだし、滝川和也も正真正銘の美少年だ。
滝川家……悔しいけど、ホント絵に描いたような美形一家ね。
だけど、清涼院家だって負けてないわ!
お母様はボンッキュッボンのハリウッド女優級の美女だもの。お兄様だって大鳳学園の貴公子と呼ばれたイケメン。中等部でも、お兄様の活躍に女子がキャーキャー騒ぐのは間違いないわ。
そして、なによりこの私、清涼院麗子がいる!
見よ、このビスクドールの如き美幼女っぷり!
今日も縦巻きロールがバッチリ決まってるわ!
ふっふっふ、我が清涼院家も美形ぞろい。死角はない――ん?……なんか、タヌキが一匹まぎれ込んでいるわね。
清涼院家の新しいゆるキャラかしら?
キャラネームは清涼院タヌパパンね。
「そちらのお嬢さんが、噂の麗子君ですね?」
「ええ、そうです。私の愛娘の麗子です」
おおっと、私の出番ね。
「娘の清涼院麗子と申します」
お父様の紹介に私も席を立って華麗にお辞儀――スマイル0円、挨拶こそ第一印象を良くする最強コスパのコミュニケーション。
「これは噂通り、しっかりしたお嬢さんだ」
「はっはっはっ、まだまだ父離れできていない娘です」
あぁん? 誰が何だってぇ?
「この間も将来お父様のお嫁さんになるなんて申してましてな」
「それは何とも微笑ましいですね」
「いやぁ、甘えたいさかりの子供でして」
またまたフカしてんじゃねぇぞ、このぽんぽこタヌキ親父。いつまで夢と妄想の国の住人になっとるんじゃ!
「それで、毎年バレンタインにはチョコレートを贈ってくるんですよ」
お前のはお兄様の残りカスじゃ。そして、来年からは一個二十三円(税込)のチロチョコだかんな。
「ほう、それは羨ましい」
「いえいえ、近ごろ健康に気を使って、甘い物は控えているんですよ。ですが、娘がせっかく作ってくれたものは無下にできずに困っとりまして」
なるほど、なるほど。そうですか、そうですか。
「お父様がご迷惑だったなんて知らずに申し訳ありませんでしたわ」
「えっ、あっ、違うんだ、これは違うんだ麗子!」
「麗子もお父様のお体が心配ですので、来年からは気をつけますわ」
安心しろタヌキ親父。来年からはキサマにはチョコ無しだ。これからは血糖値とコレステロール値と尿酸値を心配しなくても済むぞ。
「はっはっはっ、やり手の清涼院さんも娘相手では形無しですな」
私がふんっとソッポを向いたくらいでオタオタしないでください、お父様。滝川のおじ様に笑われてしまったではないですか。
「いや、これはお恥ずかしいところをお見せしてしまいましたな」
「いやいや、仲が良くてとても羨ましい」
微笑ましそうに目尻を下げる滝川のおじ様。嫌味の無い、とても優しげな微笑みで、いやん、素敵。ポッ、麗子恋に落ちそう。
相争うことになる滝川の父と悪役お嬢様の私。まさに敵同士の間柄に生まれる恋。まるでロミジュリね。萌えるわ。
しかし、そうなると恋敵は滝川ママかぁ。あのスーパーモデル級のスレンダー美女に勝てる要素は若さだけのような気がする。いや、さすがに七歳児では若すぎて、年齢もアドバンテージになっていないか?
「それにしても、清涼院さんの子煩悩ぶりが良く分かります。とても自由闊達なお嬢さんだ」
「いやいや、手を焼くお転婆娘なだけですよ」
「もう少しお話ししたいところですが、こんなところで立ち話では他のお客や店に迷惑ですね」
ホッ、やっとお開きか。
滝川のおじ様は素敵だけど、やっぱり滝川の近くにはいたくなかったのよね。ウェイターさんも、こちらをチラチラ見て料理を出すタイミングを測ってるし。
さぁて、
「どうです清涼院さん、ご一緒に会食しませんか?」
いぃやじゃぁぁぁ!!
「ソウデスナ、ソウシマショウ」
なんで棒読みなの、お父様!
「ちょうど席も近いようですし、店に頼んでみましょう」
「オオ、コレはグウゼンですな」
瞬時にスタッフがテーブルをセッティング。あれよあれよと言う間に、清涼院、滝川両家のお食事会の流れに。
やられた、ドチクショー!
最初から仕組んでいたな!
「ふふふ、楽しい食事になりそうだ」
パチンッと私にウィンクする滝川のおじ様の色気がハンパ無し。いやん、麗子恋に落ちそう。ハッ、ダメよ麗子。私にはお兄様がいるのよ!
「ハッハッハ、ソウデスナ」
ちょっと、笑い声まで棒読みって……ギンッて睨みつけたら、オドオドキョドキョド。お父様、全部バレバレですよ。
おじ様は見た目も演技力もデカプリオ級なのにお父様、演技下手!
どうやら、うちのゆるキャラは、タヌキのくせに化かし合いが下手らしい。お父様に腹芸は無理そうだ。これは悪事を働いてもすぐにバレるんじゃない?
そう言えば、滝川、早見による清涼院家乗っ取りの際、お父様の不正が暴かれるんだっけ。お兄様の裏切りばかり気にしていたけど、お父様に不正をさせない必要もあるんじゃない?
お父様には清く正しく真っ当な経営をしてもらわないと。
お父様も明日からお兄様と一緒に洗脳……もとい教育よ!
不正、ダメ、絶対!