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第20話 麗子様は道を誤る父を止めると誓う。

「清涼院さんは、うちの子と会うのは初めてでしたね」


 見間違いようがない。前に出てきたのは我が宿敵、滝川和也だ。こんな美形がそうそういるはずもないもの。


 くっ、やっぱり滝川のおじ様は滝川パパだったのか。


「お初にお目にかかります。滝川和也です」


 お父様に腰を折って名乗る滝川和也。


 なによコイツ。コミュ障じゃなかったの?


 菊花会クリザンテームのサロンとエラい違いね。キチンと挨拶できんじゃん。


「おお、君が和也君か、私の娘が世話になっているようだね」


 ちっ、誰がこんなヤツに世話になるもんですか。


「いやいや、うちの愚息が麗子君に、ご迷惑をかけていないか心配しておりますよ」


 ええ、ええ、まったく日頃から睨まれて迷惑しておりますとも。そして、未来では私を破滅させるほど迷惑かけるんですよ、コイツ。


「お久しぶりです、清涼院様。それから奥様も、先日はお茶会に参加していただきありがとうございました」


 さらに登場してきたのは、滝川のおば様。すらりとした長身のすっごい美人。お母様とタメ張れるわ。


 私のお母様がグラマラスな美人なのに対して、滝川ママはすらりとしたスレンダー美人。


 マリリン・モンローのごときマドンナとシンディ・クロフォードのようなスーパーモデルが並んでいるみたい。


 滝川のおじ様も俳優級のイケオジだし、滝川和也も正真正銘の美少年だ。


 滝川家……悔しいけど、ホント絵に描いたような美形一家ね。


 だけど、清涼院家だって負けてないわ!


 お母様はボンッキュッボンのハリウッド女優級の美女だもの。お兄様だって大鳳学園の貴公子と呼ばれたイケメン。中等部でも、お兄様の活躍に女子がキャーキャー騒ぐのは間違いないわ。


 そして、なによりこの私、清涼院麗子がいる!

 見よ、このビスクドールの如き美幼女っぷり!

 今日も縦巻きロールがバッチリ決まってるわ!


 ふっふっふ、我が清涼院家も美形ぞろい。死角はない――ん?……なんか、タヌキが一匹まぎれ込んでいるわね。


 清涼院家の新しいゆるキャラかしら?

 キャラネームは清涼院タヌパパンね。


「そちらのお嬢さんが、噂の麗子君ですね?」

「ええ、そうです。私の愛娘の麗子です」


 おおっと、私の出番ね。


「娘の清涼院麗子と申します」


 お父様の紹介に私も席を立って華麗にお辞儀――スマイル0円、挨拶こそ第一印象を良くする最強コスパのコミュニケーション。


「これは噂通り、しっかりしたお嬢さんだ」

「はっはっはっ、まだまだ父離れできていない娘です」


 あぁん? 誰が何だってぇ?


「この間も将来お父様のお嫁さんになるなんて申してましてな」

「それは何とも微笑ましいですね」

「いやぁ、甘えたいさかりの子供でして」


 またまたフカしてんじゃねぇぞ、このぽんぽこタヌキ親父。いつまで夢と妄想の国の住人になっとるんじゃ!


「それで、毎年バレンタインにはチョコレートを贈ってくるんですよ」


 お前のはお兄様の残りカスじゃ。そして、来年からは一個二十三円(税込)のチロチョコだかんな。


「ほう、それは羨ましい」

「いえいえ、近ごろ健康に気を使って、甘い物は控えているんですよ。ですが、娘がせっかく作ってくれたものは無下にできずに困っとりまして」


 なるほど、なるほど。そうですか、そうですか。


「お父様がご迷惑だったなんて知らずに申し訳ありませんでしたわ」

「えっ、あっ、違うんだ、これは違うんだ麗子!」

「麗子もお父様のお体が心配ですので、来年からは気をつけますわ」


 安心しろタヌキ親父。来年からはキサマにはチョコ無しだ。これからは血糖値とコレステロール値と尿酸値を心配しなくても済むぞ。


「はっはっはっ、やり手の清涼院さんも娘相手では形無しですな」


 私がふんっとソッポを向いたくらいでオタオタしないでください、お父様。滝川のおじ様に笑われてしまったではないですか。


「いや、これはお恥ずかしいところをお見せしてしまいましたな」

「いやいや、仲が良くてとても羨ましい」


 微笑ましそうに目尻を下げる滝川のおじ様。嫌味の無い、とても優しげな微笑みで、いやん、素敵。ポッ、麗子恋に落ちそう。


 相争うことになる滝川の父と悪役お嬢様の私。まさに敵同士の間柄に生まれる恋。まるでロミジュリね。萌えるわ。


 しかし、そうなると恋敵は滝川ママかぁ。あのスーパーモデル級のスレンダー美女に勝てる要素は若さだけのような気がする。いや、さすがに七歳児では若すぎて、年齢もアドバンテージになっていないか?


「それにしても、清涼院さんの子煩悩ぶりが良く分かります。とても自由闊達なお嬢さんだ」

「いやいや、手を焼くお転婆娘なだけですよ」

「もう少しお話ししたいところですが、こんなところで立ち話では他のお客や店に迷惑ですね」


 ホッ、やっとお開きか。


 滝川のおじ様は素敵だけど、やっぱり滝川の近くにはいたくなかったのよね。ウェイターさんも、こちらをチラチラ見て料理を出すタイミングを測ってるし。


 さぁて、la graceラ・グレイスの料理を堪能しましょ。


「どうです清涼院さん、ご一緒に会食しませんか?」


 いぃやじゃぁぁぁ!!


「ソウデスナ、ソウシマショウ」


 なんで棒読みなの、お父様!


「ちょうど席も近いようですし、店に頼んでみましょう」

「オオ、コレはグウゼンですな」


 瞬時にスタッフがテーブルをセッティング。あれよあれよと言う間に、清涼院、滝川両家のお食事会の流れに。


 やられた、ドチクショー!

 最初から仕組んでいたな!


「ふふふ、楽しい食事になりそうだ」


 パチンッと私にウィンクする滝川のおじ様の色気がハンパ無し。いやん、麗子恋に落ちそう。ハッ、ダメよ麗子。私にはお兄様がいるのよ!


「ハッハッハ、ソウデスナ」


 ちょっと、笑い声まで棒読みって……ギンッて睨みつけたら、オドオドキョドキョド。お父様、全部バレバレですよ。


 おじ様は見た目も演技力もデカプリオ級なのにお父様、演技下手!


 どうやら、うちのゆるキャラは、タヌキのくせに化かし合いが下手らしい。お父様に腹芸は無理そうだ。これは悪事を働いてもすぐにバレるんじゃない?


 そう言えば、滝川、早見による清涼院家乗っ取りの際、お父様の不正が暴かれるんだっけ。お兄様の裏切りばかり気にしていたけど、お父様に不正をさせない必要もあるんじゃない?


 お父様には清く正しく真っ当な経営をしてもらわないと。

 お父様も明日からお兄様と一緒に洗脳……もとい教育よ!


 不正、ダメ、絶対!

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