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第15話 麗子様はお父様に近況を聞かれる。


 るんるんるん♪

 今日の夕飯な~にかな~♪


 わぁ、白身魚のポワレだぁ。こっちは季節野菜をゼラチンで固めて、テリーヌにしてるのね。飯田さん良い仕事してますね~。


「学校は順調か、麗子?」


 もう、素晴らしい料理を堪能してんのに……なんですか、お父様?

 いま(もぐもぐ)私は(んぐんぐ)とっても忙しいのに(ゴックン)。


 ハンキチーフでお口をフキフキ……


「特に問題はありませんわ」


 この私の細やかな楽しみを邪魔して、食べ物の恨みは恐いんですのよ、お父様。


菊花会クリザンテームの皆さまも良くしてくださいますし、お兄様がいらっしゃるのですから何の問題もありませんわ」

「そうか……」


 お父様が顎を摩りながら考え込んでしまいましたが……ホントに何なんでしょう?


 私は大鳳学園のアンタッチャブル、菊花会クリザンテームの一員。一般生徒が私をどうこうできるはずもないのです。それにクリザンテームのお姉様がたには可愛がられ、一番の権力者たる会長は私のお兄様。


 誰も私に逆らえませんことよ。おーっほっほっほっ。

 まあ、唯一の問題は君ジャスのヒーロー達くらいね。


 そう、同じ菊花会に所属している、滝川和也と早見瑞樹の二人のことよ。こいつらが私の未来の影を落とす鬼門なのよね。


 今のところ、お互い必要以上に関わらないようにしているので大丈夫だけど。どこかで関係悪化して、高等部で主人公を巡って争いにならないとも限らない。


 実際、この間は滝川の方に悪感情持たれたみたいだし。早見の方はよーわからん。表ヅラは良いけど腹黒っぽいからなぁ。


 早見瑞樹は原作でも人の良さそうな甘い微笑で、その中身は策謀家って設定だったのよね。まあ、そのギャップが素敵って、人気があったんだけど。


 要注意人物よ!


 これからも彼らから付かず離れて行動しましょう――


「実はな、先日、滝川家と早見家の総裁と会合があったんだが……」


 と決意してたんだけど、いきなり雲行きの怪しい話が……あっ、なーんか嫌な予感。


「その時、子供達の話になってな」


 やっぱりぃ!


「学校で麗子が和也君と瑞樹君と仲が良いらしいとの話になったんだ」


 風評被害ぃぃぃ!!!


「和也君と手を繋いだり、瑞樹君と笑いながら会話が弾んでいたらしいな」


 それデマァァァ!!!


 あれが仲良く手を繋いでたように見えるぅ?


 腕引っこ抜かれるかと思うくらい乱暴にされたんですけどぉ。ほらほら、見て見て、私の柔肌に跡が残ってるじゃない。


 早見とだって、あれが談笑に見えるぅ?


 あんたら眼科に行って診てもらった方がいいわよ。まったく、こっちは腹の探り合いで疲れたんですけどぉ。アイツ、本当に小学生?


 チクチク牽制してきやがって。明らかに私を警戒してるから。


「それでな、滝川会長も早見会長も、いたく麗子に興味を持っておられたんだ」


 いぃやぁぁぁ! 興味なんて持たなくていー!


「まあ、麗子は美人で優秀、しかも世界一優しい娘だから、注目されるのは無理もないんだが」


 どうやら、お父様は二人に娘自慢をしたみたい。そんなとこで世界一の親バカを発揮せんでいいのに!


「特に滝川会長が『和也は気難しいのに、女の子を寄せ付けるのは珍しい』と驚いていたよ」

「お、おほほは、たまたま久条様のお誘いで滝川様と同席しただけですわ」


 不本意だけど美咲様の頼みだから、渋々だったじゃないのよ!

 おもいっくそ私を睨みつけてたわよ。あのシスコン暴力男は!


「麗子のような気立ての良いお嬢さんとは、今後も縁を繋ぎたい。そう二人から是非にとお願いされてね」

「まあまあまあ、それは素晴らしいわ!」


 パンッと顔の前で手を打つお母様。なんだかにこにこと楽しげ。あたしゃ、どっと疲れたよ。


「麗子ちゃん、先方からせっかくのお申し出よ。これからも二人と仲良くするのよ」


 嫌だよ、あたしゃ。だって、滝川は猛犬並みにめっちゃ牙剥いてくるし、早見は野良猫より警戒心が強いんだもん。


「ちょうど今度、滝川夫人からお茶会に誘われていたのよ」


 うげっ。


「早見夫人も来られるそうだし、麗子ちゃんも一緒にどう?」

「社交の場に出るのは、さすがに私には早いと思いますわ」

「あら、そおかしら?」


 お母様、そんな不満そうなお顔をされないでくださいまし。

 私はまだ不安と希望で溢れる、ピッカピカの小学一年生ぞ。


「これを機会に、どちらかと婚約を決めてしまう方が良いと思うのだけれど」

「おいおい、麗子にはまだ早いだろ」


 お父様は渋い顔をされて、お母様はにこにこと楽しげ。


 これはヤバイ!


「お父様の仰る通りですわ」


 清涼院家のヒエラルキートップのお母様相手に、お父様では抑止力にならないのは明白。ここは私が誘導せねば。


「それに滝川様は美咲様にご執心ですし」

「美咲と言うと……久条家のところのお嬢さんかい?」

「はい、とても素敵な憧れのお姉様ですわ」

「そうかそうか、五摂家の久条家が相手では致し方ないな」


 滝川の想い人がうちより家格が上でお父様は嬉しそう。これで私を婚約させずに済むと思ったんでしょうけど、お父様がしっかりお母様を御してくださいませ。


「でも、美咲さんは麗子ちゃん達より三つ歳上でしょう?」


 くっ、お母様はまだ諦めぬか!


「それに、美咲さんは雅人さんのお嫁さんにと考えていたのよ?」

「え゙っ!?」


 お兄様の微笑みが、ピシッと音を立てて引き攣った。


 ほらほら、自分には関係ないってダンマリ決め込んでいたら、お兄様にも飛び火しますよぉ。


「あら、雅人さんは不満?」

「いえ、不満と言うより、婚約話は僕にはまだ早い話かなと」

「そう? でも、美咲さんはとても良くできた子なのよ?」


 なんかやたら美咲様推しですね。お母様。 お兄様、どう話を逸らそうかと目がキョドッておりますわよ。


「あの子を娘にして色々と買い物行きたいの。きっと楽しいわ」


 夢見がちなお母様……まさか美咲様まで少女趣味で染めるつもりですか!?


 美咲お姉様が私と同じドリラーの呪いに……このままではお姉様がドリルの螺旋力に魂を引かれてしまう。これは断固阻止せねば。お姉様まで赤いヤツの粛正の対象にされてしまうわ。


「彼女ぜったいモテるもの。早くしないと奪われちゃうわ」


 サッと私、お兄様、お父様は目配せして頷く。


「それこそ和也君がいるじゃない。僕は馬に蹴られたくないよ」

「ええ、しかも馬はそんじょそこらの駄馬ではありませんわ」

「うむ、滝川家のサラブレッドとなると清涼院家もかなりの痛手になりそうだな」


 ここは結託してお母様の暴走を止めなきゃ。私達の思いは一つ。これ以上、延焼しては敵わない。


「それに雅人は清涼院グループを背負って立たないといけない。伴侶は家柄だけではなく、人柄や能力も見ないとな」

「そうだよ。彼女はとても良い子だけど、僕らはまだ小学生だし、ちゃんと見極めないといけないよ」

「それに、お姉様はとても素敵な方ですから、久条家でも早計に相手を決めるとは思えませんわ」

「うーん、和也さんのは麻疹はしかみたいなものだと思うけど……そうねぇ、ちょっと性急だったかしら?」


 ホッ、私達の見事な連携でお母様を止められたわ。


「それじゃあ、麗子ちゃんのお相手は瑞樹君にしましょう」


 なんでそうなりますの!?


 早見とだって嫌よ!


 滝川との婚約は論外だし、早見とだってどう転ぶかわからないもの。


 原作の設定である滝川との婚約は言うに及ばずだけど、早見の場合も滝川と親友のアイツじゃ主人公との接点がバリバリできちゃう。


 もしかしたら、マンガの矯正力的なのがあるかもでしょ。やってもないイジメの首謀者にされないとも限らないじゃない。滝川がヒロインとくっつく時に、ついでとばかり早見との婚約も破棄され、清涼院家を潰されてしまうかもしらないわ。


 ここは、また三人でお母様の暴走を止めなきゃ!


 助けてお兄様!……って期待の目を向けたら――サッと顔を背けるお兄様。


 ナニソレ!?

 自分だけ助かれば良いの!


 この裏切り者ぉぉぉ!

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