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第14話 麗子様はぼっち・ざ・どりるを結成する。


「もう、女の子をそんな乱暴に引っ張ってはダメよ」

「別にそんなに強く引いてないだろ」


 ウソでーす。テメェ、バリバリ強く握ってんじゃん。穢れなき白い私の二の腕にアザが残ったらどうしてくれんのよ。


「和也、女の子はデリケートなの」


 そーだそーだ。美咲様、もっと言ってやって。このデリカシー皆無男に。女の子に対する気配りと常識を教えてください。


「そんなことじゃ、麗子ちゃんに嫌われるわよ」

「こんな女に好かれたいなんて思っていない」


 ぶっきらぼうに滝川が言い放つ。まあ、あんたは美咲様にホの字だもんねぇ。その当の本人に他の女の子の話をされちゃ面白くないんでしょうけど。


 こっちだって、婚約者がいながらヒロインに現を抜かす浮気ヤローは願い下げよ。


 ちっ、お前なんかサッサと美咲様にフラれてしまえ!


 そうなのだ。マンガのストーリー通りなら、滝川和也は美咲様にフラれるのは決定事項。つまり、近い将来コイツはフラれるのだ。やーい、やーい、フラれ男。


 ケケケッ、滝川ザマァ。

 まだフラれてないけど。


「麗子ちゃん、ごめんなさい。この子、いつも周囲に噛みついてばかりで、手を焼いているのよ」


 美咲様に近づく虫にワンワン吠え立てているのね。


 なんて迷惑な奴。

 まさに猛犬注意。


 美咲様には『猛犬注意、滝川注意』のステッカーを身につけることをお勧めします。今度、そんなロゴTシャツ作って美咲様にプレゼントしようかしら?


「いま無礼なこと考えているだろう」

「いえいえ、まさかまさか」

「お前、なんか胡散臭いんだよ」


 ちっ、さすが獰猛どうもうな番犬ね。鼻が良く効く。そんなあなたにはピットブル滝川の異名を贈呈します。


「和也、あんまり失礼なことを言わないの」


 美咲様がメッと叱っても滝川はふんっと生意気な態度。


「あははは」


 突然、横から割って入った笑い声……見ればショートカットがとても似合う不遜な笑顔のお姉様――千種ちぐさ舞香まいか様だわ。


 舞香様は美咲様のご親友で、さばさばしてカッコいいの。この二人は下級生の女の子の憧れ。どっちも美人で性格が良いからね。


 ああ、滝川、早見さえいなければお姉様達と、キャッキャウフフの素敵なサロンライフが送れたはずなのに。


「和也は相変わらず美咲の番犬の真似事?」


 番犬どころか。ピットブルも真っ青の狂暴犬ですよ。


「そんなだと美咲にも見捨てられるぞ」

「うっ」


 どうやら滝川は舞香様が苦手なようね。途端に大人しくなったわ。


「さあさあ、そんなとこに突っ立ってないで座った座った」


 舞香様がこっちこっちって手招きしてきた。これはもう断れそうもないわね。


 むぅ、こうなっては仕方ないわ。

 うっし、女は度胸、幼女は愛嬌!


 美咲様と舞香様に媚びへつらって守ってもらわなきゃ。

 へっへっへ、お二人とも今日は一段と麗しいでゲスな。


「こんにちは、清涼院さん」

「ごきげんよう、早見様」


 ちっ、こいつもいやがったか。


「珍しいね。清涼院さんは僕らを避けているのかと思っていたよ」

「おほほほ、私が皆様を避けるなんて、まさかまさか」


 めっちゃ避けてますよぉ。

 当たり前じゃないですか。


「でも、こっちをよくチラチラ見てるから、もしかして僕らに近づく機会を窺ってたのかな?」


 はっ! 窺ってねぇよ。警戒してんだよ。自意識過剰なんじゃねぇの。ばーか、ばーか。


「こら、瑞樹も麗華ちゃんをいじめるんじゃない」

「そうよ、そんな態度だと女の子に嫌われるわよ」


 そーだ、そーだ、もっと言ってやってください。


「ふっ、別に僕は女の子にモテたいと思ってはいませんが――」


 小学生の分際で肩をすくめて、小馬鹿にしたように笑いやがったよ!


「女の子の方がほっておいてくれないみたいですよ」


 うわぁ! ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく!!

 どっからその自信が沸いてくんのよ。こいつ、何様よ!?


 瑞樹様だった(がっくり)。


 くそっ、腹ただしいことに、早見は実際モテモテなのだ。


 なんせ早見瑞樹は君ジャスの中でも屈指の人気キャラ。マンガの世界の中でもモテてモテて、それはホントにモテて。読者からも超絶人気で、ファン投票でも不動の二位をキープしてやがった。私も票を入れちまったよ。チクショー!


 そりゃあ、甘いマスクに人当たりの良い笑顔。金持ちで家柄もサイコーのスパダリだもん。モテないわけがない。かく言う私の前世の最推しキャラだったわよ!


 現代版ドン・ファンかこいつは!

 ちっ、愛の運び手ってか?


 なんで前世の私はこんなヤツに熱を上げてたん?

 胸クソ悪い。お前なんか騎士長の石像に手を掴まれ地獄へ堕ちてしまえ。


 えっ? そう言うお前はどうなんだって?


 えーと、主人公をイジメる清涼院麗子は、当然だけど読者からの受けが悪かったわ。悪役お嬢様だもの。その非道っぷりから、作中でも嫌われ者だったし。彼女の周囲には同じ取り巻きしかいなかったような……ちょっと待って!


 いま気づいたけど……まさか……まさかとは思うけど……もしかして、私もそうなの?


 だって、清涼院麗子って私のことよね?

 私があの嫌われ者の麗子……なのよね?


 原作みたく、友達もできず、恋人もできず、結婚もできず、一人寂しい一生を送る悪役お嬢様……それが私なの?


 いぃぃぃやぁぁぁあ!!!


 マジ? マジ?


 私ってば生涯、独身貴族なの?

 マジでボッチ・ザ・ノーブル?


 どうしよ、どうしよ。ホントに私ってモテないの?

 いったいぜんたい、私の何がいけないって言うの?


 なんで? そんなのおかしいじゃない!

 だって私ってば、こんな美人なんだよ!


 マンガみたいにイジメなんかもしないわ。顔良し、性格良しの気配り上手。モテモテ要素しかないでしょ。それに原作通りだったら、将来はスタイルだって抜群なんだから。


 その私がモテない理由なんて……ハッ!?


 ま、まさかこのドリルか?

 このドリルがあかんのか?


 もしかして、私はこのドリルと一生を添い遂げちゃう?


 そう言えば、かの螺旋力を極めた主人公も、最後はドリル片手に若者を見送る一人寂しい余生だったような。


 そんなんボッチ・ザ・ドリルやんけぇ!


 まずい! 早くこのドリルと縁を切らないと。


 そうだ! コイツをさっさと切り落として……いや、待て待て待て!


 落ち着け~、私、落ち着け~。まだ私がボッチ・ザ・ドリルと決まったわけじゃないわ。


「ふんっ、俺も女なんて興味ないね」


 あっ、滝川までホザきやがりましたよ。


 あんた強がってんじゃないわよ。何が女に興味がないよ。あんた美咲様にホの字でしょうが。そして、未来で美咲様にフラれるあんたも私側の人間よ!


 こっちやこ~い、こっちやこ~い。


 まずは、そのサラサラヘアをドリルにするのじゃ。さすればキサマもボッチ・ザ・ドリルの仲間入りじゃ。いや、この髪の長さじゃレゲエみたくツイストになっちゃうか。


「そんなことばっかり言っていると、麗子ちゃんみたいに良い子を逃しちゃうわよ」

「はっ! こいつが良い子?」


 鼻で笑いやがったよコイツ!?


「それに俺は美咲以外の女子なんて……」

「あのね、私はいつまでも和也の側にいられるわけじゃないのよ?」

「――ッ!?」


 ああ、滝川がショック受けてる。


 ぷぷっ、こいつ弟としか見られてないよ。哀れ。


 まあ、久条家と滝川家は親戚同士の関係。この二人は又従姉弟はとこなんで、ほとんど姉弟みたいなもんなんだけどね。それに、美咲様からすれば、三つ年下の男の子なんて恋愛の対象外。


 この年齢の三歳差は大きいのよねぇ。


 滝川としては美咲様と結ばれる未来を夢想していたんでしょうけど。まあ、ずっと美咲様を見て育ったんだから仕方ないか。なんせ顔良し、頭良し、性格良しの完全無欠のお嬢様だもん。


 それにしても久条美咲様……うちの又従姉の久世美春とはエラい違いだ。名前は似てるのに。くっ、取り替えたい。


「とにかく俺はこんなヤツと仲良くするつもりはないからな!」


 ふんっ、て怒ってソッポを向くところはお子ちゃまよねぇ。


 まあ、今は美咲様がいるし、滝川もこの様子なら、今すぐ原作みたく私と婚約とはならないはず。


 …………ならないよね?

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