初等部デビューはまずまずの出だしよね。
受験はトップの成績で入学したし。
えっ、三番だったじゃないかって?
いいのよ。お絵描き以外は一番だったんだから。
ちっ、どいつもこいつも、私の芸術センスを理解できないのがいけないのよ。ブツブツ……そうよ、判定した教師陣が私のセンスについてこられなかったんだわ……ブツブツ……そうじゃなきゃ私がお子ちゃまになんて……ブツブツ
こほんっ、まあ良いでしょう。優秀な成績で入学し、家柄も良く、大鳳学園を牛耳る
それに、ほらほら私ってば、ビスクドールのように愛らしいでしょ。おかげでクリザンテームのお姉様がたにも可愛がられんのよ。それに、一番の権力者たる会長は私のお兄様だし。
もはや私は大鳳学園カーストの頂点に君臨していると言っても過言じゃない。まさしく私はクリザンテームの女王様。
権力バンザイ!
誰も私に逆らえませんことよ。おーっほっほっほっ。
まあ、唯一の問題は君ジャスのヒーロー達くらいね。
同じ菊花会に所属している滝川和也と早見瑞樹。
この二人が私の未来の影を落とす鬼門なのよね。
だけど、コイツらとクラスが別だったのはホント行幸だったわ。今後、できるだけ二人とは付かず離れて行動しましょう。
とは言っても私は菊花会の一員として、サロンに顔は出さないといけないのだ。あの二人と関わり合いたくないなぁ。嫌だなぁ。行きたくないなぁ。
しかーし、こんな時に役に立つのが絶対権力者のお兄様。未来から来た猫型ロボットなんかより、よっぽど頼りになるぅ。
うわーん、助けてお兄様えもん!
滝川のボンボンと早見の陰険が、未来で私をいじめて破滅させるのぉ。
と言うわけで、サロンでの私の定位置はお兄様の隣。ここなら女の子がいっぱいで、女子にロックオンされている滝川、早見両名は近寄ってこないはず。
お兄様、ぜったい離しまへんでぇ。
さーて、他の女子に奪われる前に、早くサロンへ行ってお兄様の隣をゲットしなきゃ。
私の愛しのお兄様ぁ!
ルンタッタ♪ ルンタッタ♪
あなたの麗子はここですよ♪
と、鼻歌混じりにスキップ踏んでサロンに入ったんだけど……お兄様がいない!?
どこどこ、どこにいるのお兄様?
あなたの愛する妹はここですよ!
いーやー私を一人にしないでぇ!
「どうしたの麗子ちゃん?」
おろおろおたおた動揺しまくってたら、心配して綺麗なコンシェルジュのお姉さんに声をかけられたよ。
このお姉さんは
わーい、優しく綺麗なお姉さんは大好きですよ。お兄様の代わりに私を慰めて、
「そ、それが、お兄様の姿が見えなくて」
「麗子ちゃん、今日は六年生の授業もう一限あるのよ」
あっ、そうでした。
ま、まずいわこれ。
サロンを見渡せば下級生がチラホラ。その中には滝川和也と早見瑞樹の両名も。ここに残るのは危険だと私の生存本能が告げている。
そうだ、図書館で時間を潰しましょう。
幸い、二人は私に気づいていない様子。
抜き足差し足でそろーりと……あとちょっとで扉に……
――かちゃり
って、ところで目の前の扉が開いた。入ってきたのは上級生のお姉様。
「あら、麗子ちゃん」
「み、美咲お姉様!?」
い、一番会いたくなかった人やーーー!
「ご、ごきげんよう、久条様」
「ごきげんよう、麗子ちゃん。美咲でいいわよ?」
この方は久条美咲様。五摂家の一つ久条家の娘で、私の三つ上のお姉様。驕ったところが無く、お淑やかで美人で理想のお嬢様なの。
本来なら、お近づきになりたいお姉様なのだけど、ある事情でずっと敬遠しているのだ。
その事情とは――
「おい美咲、こっちだ」
「もう、和也はいつも乱暴なんだから」
そう、美咲様は滝川和也と懇意にしているのだ。と言うより、彼の初恋にして片想いの相手である。
だから、彼女の近くにはいつも滝川和也がいて、当然その親友の早見瑞樹もいるのだ。
くっ、なんて危険な組み合わせなの。
こんな迷惑なセット販売はお断りよ。
「さあ、麗子ちゃんも行きましょう」
「えっ、私は……その、ご遠慮した方が……」
冗談ではない!
あんな危険人物の近くになど行くものか。
「もう、麗子ちゃんはいつも雅人様にべったりでしょ」
それはお兄様しか
「私も麗子ちゃんともっと仲良くなりたいのよ」
それは私も同じなんですよ。ホントですよ?
「だけど、麗子ちゃんって、私達を避けてるでしょう?」
それは美咲様が超危険人物を引き連れてるからや。私限定の。なんて恐ろしい人型決戦兵器を引き連れているんですか。
「それとも私のことが嫌い?」
「そんなことはございませんわ。私、美咲お姉様を尊敬しておりますもの」
「じゃあ、たまには私達と一緒にお茶をしましょうよ」
「い、いえ、お誘いはとても嬉しいのですが……」
チラッと危険人物達を盗み見れば――ほらぁ、私を射殺さんばかりに鋭い視線を向けているじゃないですかぁ。
私に向けてバリバリ敵意剥き出し。
滝川様、男の嫉妬は醜いですわよ。
「でも、やはり滝川様や早見様に悪いですわ」
「もう、やっぱり和也のせいなのね」
美咲様も滝川の視線に気づいて呆れ顔。
そんなんだからフラれんのよ、あんた。
そう、実は美咲様も君ジャスで重要なポジションにあるのだ。滝川和也を盛大にフッて失恋を味合わせるという。それがヒロインとの出会いに繋がるわけなんだけど、それはまだずっと未来のお話。
「和也には私がきつく注意しておくから、ねっ」
「いえ、でも……」
「何してんだ。早く来いよ」
私と美咲様が押し問答をしていたら、痺れを切らせて滝川が怒り顔で寄ってきやがりましたよ。
「こら和也、あなたがそんな態度だから、麗子ちゃんが恐がって誘っても来てくれないんでしょう」
「あ゙あ゙?」
なんかドスの効いた声で私を威嚇するな。チンピラかおのれは。
「美咲はコイツと一緒が良いのかよ?」
「こいつじゃないでしょう。清涼院麗子ちゃんよ」
「ちっ」
あっ、今の聞きまして奥様、こいつ舌打ちしましたわよ。なんて品が無いんざましょ。まったく、お里が知れますわよ。あっ、こいつ名家の子息でした。
だけど、これはチャンス!
三十六計逃げるに如かず!
「やはり、ご迷惑でしょうから私はこれで……」
君子危うきに近寄らず。暇乞いをして退散、退散と……ガシッ!
「なにしてんだ、さっさと来いよ」
痛い、痛い!
滝川め、そんな強く私の細い腕を掴むな!
――ズルズル
滝川ぁ! てめぇ、引きずんじゃねぇ! そっちのテーブルはいやぁ!
やめてー、離してー!
お兄様、ヘルプミー!
メーデーメーデー、お兄様、至急麗子を助けに来てー!
あなたの愛する妹がピンチですよぉ!!