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第13話 麗子様はヒーローに捕獲される。


 初等部デビューはまずまずの出だしよね。


 受験はトップの成績で入学したし。

 えっ、三番だったじゃないかって?


 いいのよ。お絵描き以外は一番だったんだから。


 ちっ、どいつもこいつも、私の芸術センスを理解できないのがいけないのよ。ブツブツ……そうよ、判定した教師陣が私のセンスについてこられなかったんだわ……ブツブツ……そうじゃなきゃ私がお子ちゃまになんて……ブツブツ


 こほんっ、まあ良いでしょう。優秀な成績で入学し、家柄も良く、大鳳学園を牛耳る菊花会クリザンテームのメンバー。そんな私を一般生徒がどうこうできるはずもなし。


 それに、ほらほら私ってば、ビスクドールのように愛らしいでしょ。おかげでクリザンテームのお姉様がたにも可愛がられんのよ。それに、一番の権力者たる会長は私のお兄様だし。


 もはや私は大鳳学園カーストの頂点に君臨していると言っても過言じゃない。まさしく私はクリザンテームの女王様。


 権力バンザイ!


 誰も私に逆らえませんことよ。おーっほっほっほっ。

 まあ、唯一の問題は君ジャスのヒーロー達くらいね。


 同じ菊花会に所属している滝川和也と早見瑞樹。

 この二人が私の未来の影を落とす鬼門なのよね。


 だけど、コイツらとクラスが別だったのはホント行幸だったわ。今後、できるだけ二人とは付かず離れて行動しましょう。


 とは言っても私は菊花会の一員として、サロンに顔は出さないといけないのだ。あの二人と関わり合いたくないなぁ。嫌だなぁ。行きたくないなぁ。


 しかーし、こんな時に役に立つのが絶対権力者のお兄様。未来から来た猫型ロボットなんかより、よっぽど頼りになるぅ。


 うわーん、助けてお兄様えもん!


 滝川のボンボンと早見の陰険が、未来で私をいじめて破滅させるのぉ。


 と言うわけで、サロンでの私の定位置はお兄様の隣。ここなら女の子がいっぱいで、女子にロックオンされている滝川、早見両名は近寄ってこないはず。


 A.T.あんたら近寄んなフィールドを発動よ!


 お兄様、ぜったい離しまへんでぇ。


 さーて、他の女子に奪われる前に、早くサロンへ行ってお兄様の隣をゲットしなきゃ。


 私の愛しのお兄様ぁ!


 ルンタッタ♪ ルンタッタ♪

 あなたの麗子はここですよ♪


 と、鼻歌混じりにスキップ踏んでサロンに入ったんだけど……お兄様がいない!?


 どこどこ、どこにいるのお兄様?

 あなたの愛する妹はここですよ!

 いーやー私を一人にしないでぇ!


「どうしたの麗子ちゃん?」


 おろおろおたおた動揺しまくってたら、心配して綺麗なコンシェルジュのお姉さんに声をかけられたよ。


 このお姉さんは各務かがみさゆりさん。初めてサロンに来た時に挨拶をしたコンシェルジュさんよ。コンシェルジュは基本いつも事務的対応だけど、さゆりさんは私にだけ笑顔を向けてくれるの。私にだけってのがポイント高いわ。


 わーい、優しく綺麗なお姉さんは大好きですよ。お兄様の代わりに私を慰めて、いたわって、可愛がってぇ。


「そ、それが、お兄様の姿が見えなくて」

「麗子ちゃん、今日は六年生の授業もう一限あるのよ」


 あっ、そうでした。

 ま、まずいわこれ。


 サロンを見渡せば下級生がチラホラ。その中には滝川和也と早見瑞樹の両名も。ここに残るのは危険だと私の生存本能が告げている。


 そうだ、図書館で時間を潰しましょう。

 幸い、二人は私に気づいていない様子。


 抜き足差し足でそろーりと……あとちょっとで扉に……


 ――かちゃり


 って、ところで目の前の扉が開いた。入ってきたのは上級生のお姉様。


「あら、麗子ちゃん」

「み、美咲お姉様!?」


 い、一番会いたくなかった人やーーー!


「ご、ごきげんよう、久条様」

「ごきげんよう、麗子ちゃん。美咲でいいわよ?」


 この方は久条美咲様。五摂家の一つ久条家の娘で、私の三つ上のお姉様。驕ったところが無く、お淑やかで美人で理想のお嬢様なの。


 本来なら、お近づきになりたいお姉様なのだけど、ある事情でずっと敬遠しているのだ。


 その事情とは――


「おい美咲、こっちだ」

「もう、和也はいつも乱暴なんだから」


 そう、美咲様は滝川和也と懇意にしているのだ。と言うより、彼の初恋にして片想いの相手である。


 だから、彼女の近くにはいつも滝川和也がいて、当然その親友の早見瑞樹もいるのだ。


 くっ、なんて危険な組み合わせなの。

 こんな迷惑なセット販売はお断りよ。


「さあ、麗子ちゃんも行きましょう」

「えっ、私は……その、ご遠慮した方が……」


 冗談ではない!


 あんな危険人物の近くになど行くものか。


「もう、麗子ちゃんはいつも雅人様にべったりでしょ」


 それはお兄様しかA.T.あっち行け近づくなフィールドを発動できないからですよ。


「私も麗子ちゃんともっと仲良くなりたいのよ」


 それは私も同じなんですよ。ホントですよ?


「だけど、麗子ちゃんって、私達を避けてるでしょう?」


 それは美咲様が超危険人物を引き連れてるからや。私限定の。なんて恐ろしい人型決戦兵器を引き連れているんですか。


「それとも私のことが嫌い?」

「そんなことはございませんわ。私、美咲お姉様を尊敬しておりますもの」

「じゃあ、たまには私達と一緒にお茶をしましょうよ」

「い、いえ、お誘いはとても嬉しいのですが……」


 チラッと危険人物達を盗み見れば――ほらぁ、私を射殺さんばかりに鋭い視線を向けているじゃないですかぁ。


 私に向けてバリバリ敵意剥き出し。

 滝川様、男の嫉妬は醜いですわよ。


「でも、やはり滝川様や早見様に悪いですわ」

「もう、やっぱり和也のせいなのね」


 美咲様も滝川の視線に気づいて呆れ顔。

 そんなんだからフラれんのよ、あんた。


 そう、実は美咲様も君ジャスで重要なポジションにあるのだ。滝川和也を盛大にフッて失恋を味合わせるという。それがヒロインとの出会いに繋がるわけなんだけど、それはまだずっと未来のお話。


「和也には私がきつく注意しておくから、ねっ」

「いえ、でも……」

「何してんだ。早く来いよ」


 私と美咲様が押し問答をしていたら、痺れを切らせて滝川が怒り顔で寄ってきやがりましたよ。


「こら和也、あなたがそんな態度だから、麗子ちゃんが恐がって誘っても来てくれないんでしょう」

「あ゙あ゙?」


 なんかドスの効いた声で私を威嚇するな。チンピラかおのれは。


「美咲はコイツと一緒が良いのかよ?」

「こいつじゃないでしょう。清涼院麗子ちゃんよ」

「ちっ」


 あっ、今の聞きまして奥様、こいつ舌打ちしましたわよ。なんて品が無いんざましょ。まったく、お里が知れますわよ。あっ、こいつ名家の子息でした。


 だけど、これはチャンス!

 三十六計逃げるに如かず!


「やはり、ご迷惑でしょうから私はこれで……」


 君子危うきに近寄らず。暇乞いをして退散、退散と……ガシッ!


「なにしてんだ、さっさと来いよ」


 痛い、痛い!


 滝川め、そんな強く私の細い腕を掴むな!


 ――ズルズル


 滝川ぁ! てめぇ、引きずんじゃねぇ! そっちのテーブルはいやぁ!


 やめてー、離してー!

 お兄様、ヘルプミー!


 メーデーメーデー、お兄様、至急麗子を助けに来てー!


 あなたの愛する妹がピンチですよぉ!!

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