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第10話 麗子様はお・も・い・だ・し・た。


 ふっふっふっ、大鳳学園の最大権力者たる生徒会長のお兄様。こんな心強いバックがいる私に、怖いものは何もありませんことよ。


 さあ皆の者、そこを退きなさ〜い。

 今の私は、まさに虎の威を借る狐。


 ホント、最強で無敵のお兄様ですわ。


 顔良し、声良し、頭良し、加えて人当たり良し(ちょっと腹黒だけど)、将来性良し、全て良し。さらにシスコン良しと、まったくサイコーのお兄様です。


 すれ違う女の子がみんな頬を染めるんだもん。そんな女子の憧れのお兄様とお手手つないでいる私。ほれほれ、皆の衆よ羨ましかろう?


 血筋、家柄、能力と、そうそうたるメンバーを揃えた菊花会クリザンテームにあって、全女生徒がお兄様に注目しておりますことよ。


 誰もが目を奪われていく、完璧で究極のお兄様!


 ふっふっふっ、皆さん見て見て、これ私のお兄様でしてよ。


 あぁ〜、気持ちい~。

 なんて優越感かしら。


 権力サイコー!

 会長ばんざい!


 あれ?


 でも、お兄様は会長で、それはつまり菊花会クリザンテームが生徒会だからで、そこに私も所属するのよね?


「私も何かお仕事をしないといけないのでしょうか?」

「前に説明したけど、菊花会クリザンテームは生徒による完全自治組織だから仕事も多いよ。だけど、さすがに入学したばかりの子に、いきなり働けとは言わないから」


 まずは、上級生がしている仕事を見て覚えるんだって。三年生くらいから徐々に仕事を任せられ、その中で優秀な人に四年生で役職を与えるんですって。会長と副会長だけは五年生で任命されるみたい。


 現会長は当然お兄様。もっとも、半年後に今の五年生に会長職を譲るらしいの。


 くっ、虎の威レンタル期間はたったの半年だった。短い栄耀栄華えいようえいがよのぉ。おごる平家久しからず。敵は作らないに越したことはないわね。気を付けましょう。


 さてさた、菊花会クリザンテームのサロンはどんなとこかなぁ……って、えぇぇ!?


 サロンって生徒会室のことなのよね?

 これって生徒会室って呼んで良いの?


 いやいやいや、おかしいでしょう。前世の学校の生徒会室とはエラい違いよ。


 普通の学校の生徒会室って、会議用の折り畳みテーブルやパイプ椅子が並んでるじゃない?


 ところが菊花会クリザンテームのサロンは、チッペンデールよチッペンデール。長椅子ソファにテーブル、チェストまで全部揃ってるの。


 まあ、まさかモノホンはないでしょうけど。なんせトーマス・チッペンデール作なら、ちっちゃなテーブル一脚で億するからね。これらが全部トーマス作だったら数百億はいくんじゃないの?……知らんけど。


 うーん、凄い。


 アンティーク家具はカッシーナとか、B&Bとか、モルテーニとか、そんなモダン高級家具とはまた違った趣があって良き。まあ、同じアンティークなら、ヘップルホワイトの方が私は好きだ。


 しっかし、小学生の生徒会としては、ちょい渋すぎやしませんかね?


 見て、このサロンに溢れるアダルトな高級感。そんな場所にちっちゃなお子ちゃまばかりって、違和感ありありじゃない?


 まあ、ここにいるのは、幼少のみぎりよりトップに立つための特別な教育を受けたお方ばかり。前世の公立校みたいに暴れ回るヤンチャはいないけど。みなさま大人びて落ち着いていらっしゃる。


 さすが名家の子女。私はビクビクしているのに平然としていらっしゃるッ。そこにシビれる、あこがれるゥ!


 しかも、菊花会クリザンテームは、そんなハイソな子供の中でも、選び抜かれた人達だからレベルが違うの。


 子供達ばかりなのに、どっかの貴族のお茶会にでもまぎれ込んだ気分だわ。私ここでやっていけるかしら?


 あっ、大人の人もいるじゃない。黒いスーツを着た素敵な女性のお姉様(ポッ)。菊花会クリザンテームの顧問の先生かしら?


 これは是非とも挨拶しなきゃ。って思ったらお兄様に止められちゃった。なんで?


「あの人は先生じゃないよ」

「違うのですか?」

菊花会クリザンテームは生徒による完全自治会だって説明しただろ?」


 そう言えばそうでした。


 お兄様の説明によれば、この素敵なお姉様はコンシェルジュさんなんだって。まあでも、これからお世話になるんだし挨拶くらいは良いですよね?


 あっ、笑ってくれた。

 カワイイ女性ひとだなぁ。


 でも、すぐ真顔に戻っちゃった。どうやら他の子供たちの目があるから、いつも澄まし顔みたい。優しそうだし、笑顔の方が断然可愛いのに。残念。あーあ、仲良くなれないかなぁ。


「さあ、これから一緒に過ごす菊花会クリザンテームの仲間を紹介するよ」


 お兄様に導かれ上級生から順にお兄様、お姉様たちと一人ずつ挨拶回りよ。


 挨拶これ大事。


 円滑なコミュニケーションを構築するのに、これほど費用対効果に優れたものはないわ。


 なんせタダなんだから。これ大事。はい、スマイル0円。


「そして、彼らが麗子の同級生の滝川和也君と早見瑞樹君だよ」


 最後は私の未来のスパダリ達ね!

 ファーストコンタクトが肝心よ。


 はーい、ニコーーーッ――ぉぅッおおおッ!?


 二人の顔を見た瞬間、私の笑顔がピシッと引き攣った。


「別に母さんの言うように結婚なんて考える必要はないよ。だけど、これから高等部を卒業するまでの十二年間を共に過ごすんだ。彼らと友達として仲良くできたら良いと思うよ」


 どうやら、お兄様は私が人見知りしたと勘違いしたらしい。

 でも、驚いているのはそんなことじゃないんです、お兄様。

 二人を見た瞬間、私の頭に衝撃的な事実が浮かんだんです。


 清涼院麗子、大鳳学園、菊花会クリザンテーム、そして滝川和也と早見瑞樹。そのワードが、私の中のある記憶とはっきり結びついたの。


 そう、私は全てを……お・も・い・だ・し・た!

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