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第4話 麗子様はドリルで突貫する。


 はっきり言いおう。

 お兄様はモテる。

 誰よりモテる。

 超絶モテる。


 なんせ、お兄様は清涼院家の跡取りで将来を約束された御曹司。しかも、頭も顔もチョー良くて、すっごい優しく穏やかな性格だ。こんな超優良物件を世の女どもが放っておくわけがない。


 いくら私が可愛い妹でも、いつも周囲に女の子が群がっているお兄様に色仕掛けが通用するはずないよねぇ。


 でも、お兄様とだったら兄妹の背徳的な禁断の恋に落ちるのってぜんぜんありなんだけどなぁ。


 あーあ、実はお兄様は優秀さを買われて、本家の養子になった従兄って設定だったりしないかしら。そして、禁断の恋と諦めていた兄妹の想いが成就するの!


 これって、ありよりの超ありありね。萌える展開だわぁ。


 こんな風に実の妹からもロックオンされている超絶イケメンお兄様は、飢えた女性陣からターゲットにされている悲しき獲物。特に親戚筋から。なんで、同じ年頃の女の子は軒並みお兄様に猛アタックかけてんのよねぇ。


 今日も今日とて、清涼院一族総出のクリスマスパーティー。


 こんな親族が集まる席では、お兄様の周囲にそれはもう花が入り乱れるの。まあ、けばけばしい毒花ばっかだけど。


 ほら今も……


「雅人様、来月私の誕生パーティーを開きますの。是非お越しくださいませ」

「ちょっとあなた図々しいわよ」

「何よあんたこそ邪魔よ」

「こんな騒々しい方々は放っておいて私とあちらで……」

「「あんた、抜けがけは許さないわよ!」」


 とまあ、こんな感じで親戚女子による、お兄様の奪い合いが毎回勃発するわけよ。


 あっ、お兄様がこちらをチラチラ見てます。にっこり笑って手を振ってみましょう。あら、何か苦笑いされたわ。


 うん、ホントは分かってる。助けてってことだよね。でもね、あの毒花畑の中に入る勇気は私には無い。だから頑張れお兄様。麗子はここから応援してます。ファイト!


 そんな毒花が咲き乱れる中に、ひと際毒々しい青紫の花が咲く。


「醜いわね、あなた達。無意味な争いはお止めになられたらいかが?」


 おおっと、ここで御大登場……と思わせて、小物の久世美春様ではないですか。


 ヤベー奴がしゃしゃり出てきやがりましたよ。この女はお兄様の一つ歳上の又従姉弟またいとこ。いつもお兄様に纏わりついてるの。


 あっ、お兄様も露骨に嫌な顔してる。誰に対しても笑顔を崩さないお兄様でも美春様は受け付けないみたいね。


「どんなに雅人様に言い寄られても、相手にされるわけありませんもの」


 ねぇ、って美春様がお兄様に同意を求めていらっしゃいますが、相手にされていないのはあなたも同じですよ?


「砂糖に群がるアリさんみたいに見苦しく雅人様に群がって」

「「「なんですって!」」」

「雅人様も迷惑なさっておいでだわ」


 は~い、どっちもどっちで~す。あなた達は同じ畑の毒花ですよ?


 いや、美春様はトリカブトなみに一番毒性が強そう。あっ、お召し物も青紫色でしたね。


「雅人様は私の婚約者ですの。遠慮してくださらないかしら」


 はい、もちろん大ウソです。

 お兄様のお嫁さんは私です。


「ねぇ、雅人様」

「そうだね、確かに僕には結婚を約束した人がいるけど……」


 えっ、ウソっ!?


 お兄様、いつの間に婚約なさったのですか?


 そんな話、聞いておりませんよ?

 まさか美春様ではないですよね?


 あっ、美春様が勝ち誇った顔をしてる。もう自分がお兄様の婚約者だって確信してるみたい。周囲の毒花達も青ざめているわ。


 まさか、まさか、まさか!

 嘘だと言ってよ、お兄様!


 この人だけは絶対にイヤですよ!


「だけど、それは君じゃないなぁ」

「なんですって!」


 ホッ、美春様じゃなかったか。

 良かった、良かった、一安心。


 おやおや、周囲から美春様へ悪意あるクスク笑いが起こってるわ。恥を掻いたと美春様が凄い形相してるけど自業自得よね。


 でも、お兄様がこんな他人を、それも女の子を貶めるマネをするなんて珍しい。しかも、いつもより何だか笑顔が悪い顔になってる。その悪さ当社比1.2倍ですよ。


「それではいったい、どなたが雅人様の婚約者なんですの?」

「それは……」


 お兄様はちょっと楽しげに私の方に顔を向けて手招きしましたが……えっ、私にそこへ行けと?


 フツーに嫌ですよ?


 あっ、笑顔のお兄様の目が笑ってない。こわやこわや。


「麗子、おいで」


 お兄様、その「おいで、おいで」って手招きは何です?


 まるで、どこぞのリスもどきを肩に乗せて飛び回る、蟲好きなお姫様の回想シーンじゃないですか。恐いです。軽くホラーです。


 ああ、お兄様の顔がどんどん黒くなっていく。腹黒はいけません。お兄様はずっと優しく素敵なままでいてください。


 分かりました分かりました分かりましたよぉ。


 もう、仕方がないなぁ。


 さあ、お兄様に群がる有象無象の羽虫ども、麗子お嬢様のお通りよ。そこを退きなさい!


 あら、ホントにサアって十戒の海のごとく人垣が割れたわ。面白いわね、ちょっと癖になりそう。


 ほらほら、邪魔邪魔。私を誰だと思っていやがる。清涼院本家のご息女麗子様なるぞ。このドリルヘアが目に入らぬか。


 お〜ほっほっほっ、私のドリルは人垣を貫くドリルよ!


 私が楽しくご令嬢がたを蹴散らしていたら、お兄様から睨まれちゃった。周囲の親戚達もなんか恐がってしまってる。


 ごめんなさい。調子に乗りました。


「お兄様、何でしょう?」


 はいはい、お澄まし、お澄まし。


 にっこり笑ってお兄様の前に立ったら、両肩掴まれてクルッて。ああ、みんなの視線が集まっていますわ。やめてー、私、小市民なんですのよ。そんなに注目しないでー。


「皆さんにご挨拶なさい」

「はいお兄様、皆さま私は清涼院麗子と申しますわ。よろしくお願いしますわ」


 努めてスマイル、営業幼女スマイルよ。


 美春様みたいに毒をまき散らしていたら周囲は敵だらけになっちゃうもの。スマイル0円、挨拶0円、最強コスパの円滑コミュニケーションでみんなと仲良くしなくちゃね。


 ほらほら見て見て。私、可愛い幼女。恐くないよ〜。敵じゃないから~。仲良くしてね〜。


 ……って、アピールしてたら、突然お兄様に肩を抱き寄せられちゃった。まっ、お兄様ったら(ポッ)。人前でしてよ。こんな大勢の前で麗子恥ずかしい。


 ウッソでぇす。ホントはドヤ顔でーす。


 うへっへっへっ、羨ましかろう、妬ましかろう。これが我の自慢のお兄様ぞ。さあ、悔しがるがよい。


 なーんてやってたらバチが当たりましたとさ。


「この子が今の僕の可愛い婚約者さ」

「へ?」


 いったい何ですの、お兄様!?

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