まさかリオンも私に用事があるとは思わなかった。
「良かったわ、リオン。丁度私も用があったのよ」
「それは偶然だね。ところで……」
リオンは私の両隣にいるアンディとザカリーを見る。
「もしかして、遅かったのは2人と話をしていたから?」
「それは……」
すると、アンディが口を開いた。
「話はしたけど、僕たちだけじゃないよ。他にユニスのクラスの先生と、僕たちのクラスの先生と話をしたんだよ」
「え? そうだったんだ。一体何の話だったの?」
「どうしてリオンに話の内容を言わないといけないんだ?」
すると、私の代りにザカリーが答えた。その言い方が、どこか喧嘩腰に聞こえてしまうのは気のせいだろうか?
「……ザカリー。僕はユニスに尋ねているんだけど?」
「だけど、僕たちにも関わりのある話だからね」
再びアンディが返事をする。
「ユニス……」
リオンが私に答えを求めるかのように見つめてきたので、説明することにした。
「放課後、担任の先生に声をかけられたのよ。大事な話があるから談話室に来てほしいって。そこで行ってみるとアンディとザカリーに、SS1クラスの担任の先生が待っていたの。そしてSS1クラスに編入しないかと誘われたのよ」
「え……? どうしてユニスをSS1クラスに……?」
「そんなことは決まっているじゃないか。ユニスが試験で1位になったからだよ」
「そ、そうだったね……今回、ユニスは1位になったんだっけ……」
リオンの表情は浮かない。やはり、私が試験で1位を取ったことをよく思っていないのだろうか。
「でも断ったわ。私は一切魔法が使えないから。そんな私がSS1クラスに編入するわけにはいかないもの」
「確かにユニスは魔法が使えなかったね。それじゃ、SS1クラスに編入するのは無理だね。やっぱりユニスは自分のことが分かっているんだね」
するとアンディがリオンに一歩近づいた。
「リオン、他に言うことは無いのかい? 今回ユニスはロザリンに試験でどちらが良い点数を取れるか、勝負を申し込まれて試験勉強を頑張ったんだよ。当然理由は知っているんだろう?」
「……うん、勿論。でもどうしてアンディも知ってるんだい? まさかユニス、喋ったの?」
リオンが私に視線を向ける。
「ユニスは何も言っていないよ。ロザリンが大きな声で、ユニスに勝負を申し込んでいるのを見ていたからだよ。君のためにユニスは試験勉強を頑張ったんだから、褒めてあげてもいいんじゃないかな? だって婚約者なんだろう?」
アンディがきっぱり言い切った。
「!」
リオンは一瞬ビクリとしたものの、笑顔になった。
「ユニス、1位になれておめでとう」
「……ありがとう」
リオンはおめでとうと言ってくれたけれど、彼の表情は暗い。やはり、私を待っていたのは今回の試験のことについてなのだろう。
そうでなければ、わざわざ私を待つようなことをするはずもない。
「それじゃ、遅くなった理由も分かったことだし……ユニス、大事な話があるんだ。一緒に馬車で帰ろう? 家まで送るよ」
そして、リオンはアンディとザカリーを見る。
「分かったよ、僕たちは邪魔者だから帰れってことだろう? 帰ろう、アンディ」
ザカリーがアンディの肩を叩いた。
「そうだね、2人の邪魔をするわけにはいかないね。またね、ユニス」
アンディが私に手を振る。
「ええ。またね」
次に「また」という言葉があるかは不明だが、私もアンディとザカリーに手を振った。
「それじゃ、行こう。ユニス」
「ええ」
リオンに促され、アンディとザカリーに背を向けて歩き出し時。
「リオン!」
突然、アンディが声をかけてきた。
「何?」
リオンが振り向く。
「また、魔法学の授業で会おう! 楽しみにしているよ!」
その言葉にリオンの顔が一瞬こわばる。
「そうだね……僕も楽しみだよ。行こう、ユニス」
リオンは先に立つと、校舎を出ていく。
「さよなら、アンディ、ザカリー」
私は2人に手を振ると、急いでリオンの後を追った。
そして馬車の中で、またしてもリオンからお願いされることになる――