エントランスに向かって歩いていると背後からパタパタと足音が近づき、声をかけられた。
「ねぇ! 待ってよ! ユニス!」
立ち止まって振り向くと、やはり追いかけてきていたのはアンディだった。その後ろにはザカリーもいる。
「何? アンディ」
向こうも私をユニスと呼ぶのだから、私も名前で呼んだ。
「あぁ、良かった。僕の名前、覚えてくれたんだね」
それは当然だ。
彼は『ニルヴァーナ』の世界のメインヒーローなのだから。
「ええ。それに、あなたはザカリーでしょう?」
「そうだよ」
頷くザカリー。
「ユニスは寮生? それとも家から通っているの?」
アンディが尋ねてきた。
「私は家から通っているわ」
確か、アンディもザカリーも寮生だった気がする。
「そうなんだ、僕もザカリーも寮生だよ。迎えの馬車が来ているのかな?」
「いいえ。私は学園の送迎用馬車を使っているの」
半年ほど前から、私は送迎馬車を利用していた。
「それじゃ、今から家に帰るのかな?」
妙にアンディは尋ねてくる。
「そうよ、色々することがあるから」
もう、この辺で開放してくれないだろうか? 実はこれからリオンの家に行こうと考えていたのだ。
彼は嫌がるかもしれないけれど、私は彼に大事な話があった。
「アンディ。ちょっとしつこいんじゃないか? その子をSS1クラスに誘いたい気持ちは分かるけど、もう断ってるじゃないか」
見かねたザカリーがアンディを咎めた。
やはり、それが目的で私を呼び止めたのだ。
「ええ。誘ってくれる気持ちは嬉しいけど、私は魔法が全く使えないの。だから編入は出来ないの。ごめんなさい。それじゃ、私用事があるから帰るわね。さよなら」
背を向けて歩きだすと、再びアンディがついてきた。
「それじゃあ、エントランスまで一緒に行こうよ。それくらいならいいよね?」
「……そうね。それくらいなら」
相手はまだ12歳の子供。あまり邪険にするわけにはいかない。
まして彼はメインヒーローなのだから。
そこで3人でエントランスまで行くことにした。
「それにしてもユニスは凄いね。だけど今なら納得いくよ。あのとき、SS2クラスの女子に勝負を申し込まれた時のあの態度は自信があったからなんだよね」
「自信は、あまり無かったわ。だから一生懸命勉強したの、それだけのことよ」
自信があると答えたら、今まで試験で手抜きをしていたことが2人にバレてしまう。
「でも、それにしてもすごいよ。今回の試験はいつにもまして難しいと言われていたからね。だからアンディと2人で試験勉強を沢山したよ」
ザカリーが会話に入ってきた。
「僕とザカリーは部屋が一緒なんだ」
「え? そうだったの?」
それは知らなかった。
ゲーム中では、アンディもザカリーも個室だった。ひょっとすると初等部は個室は与えられないだろうか?
すると、アンディが笑った。
「良かった。やっとユニスが僕たちのことに興味を持ってくれたみたいで。そう言えば、あの時2人の話にリオンて名前が出てきていたよね。彼はSS2クラスの生徒だよね?」
「え? リオンを知っているの?」
SS1クラスだけは、教室の階が違う。だからリオンのことを知らないと思っていたのに。
「それは知っていて当然だよ。SSクラス同士で、よく合同授業を受けるときがあるからね。この間は魔術試験を一緒に受けたよ。あのときは大変だったな。彼の炎の魔法で、危うく火事になるところだったんだから」
ザカリーの話は意外だった。
「水魔法を使える先生と生徒たちで、火を消し止めたんだ。特にザカリーが大活躍したよ。彼は水魔法が得意だから。僕も多少は水魔法を使えるけどね。だけどリオンは炎の魔力が相当強いようだ」
「火を消してくれてありがとう、アンディ。ザカリー」
「何でユニスがお礼を言うのさ?」
ザカリーが首をかしげる。
私とロザリンの会話を聞いていたアンディなら、リオンが私の婚約者だということに気づいているだろう。
「私は……」
口にしかけた時、エントランスが見えてきた。そして……。
「え?」
「ユニス、待ってたよ」
壁により掛かって、こちらをじっと見つめるリオンの姿があった――