私は『ニルヴァーナ』のゲーム中で、名前すら出てこないモブキャラ。
ヒロインとも、ヒーロー達とも関わるつもりはない。
リオンがヒロインと恋人同士になれれば、そっと身を引くつもりでいたのだから。
……もっとも、その前に私はお役御免になりそうだけれども。
「どうしたの? ユニス・ウェルナー」
私が返事をしなかったので、アンディが首を傾げた。
「ごめんなさい。私は、今のクラスを変わるつもりはありません」
「え!? どうして!」
まさか誘いを断られるとは思っていなかったのだろう。アンディの目が見開いている。
でも、驚いているのはアンディだけではない。ザカリーも、先生たちも驚いている。
「ユニスさん、君はとても優秀な生徒だ。このまま一般クラスで埋もれさせるには勿体ない。この学園は他の国々からも留学生が集まってくるほどに有名な学園なのは当然知っているのだろう?」
SSクラスの先生が問いかけてくる。
「はい、知っています。でも私はSSクラスに編入するのは無理です。魔法が全く使えませんから」
その言葉に、SSクラスの先生とアンディにザカリーが息を呑む。
「そう言えば……ユニスさんは魔法が全く使えなかったな。だから実技試験は受けずに、代りにレポートを提出してもらっている」
担任の先生が説明してくれる。
「……魔法が全く使えないなんて」
「そうだったのか……」
アンディとザカリーはショックを受けているようだ。
でも、当然だろう。ここは魔法が普通に使えて当たり前の世界なのだ。稀に私のように全く魔法を使えない人たちもいるが、それはほんの一握りに過ぎない。
しかもエリート学園に通っているなら尚更だ。
「魔力があることは分かっているのですが、どんな魔法が使えるのか全く分からない状況です。そんな私がSSクラスの、しかも1組に編入するなんて出来ません」
SS1クラスはSS2クラスと違い、選りすぐりの生徒たちだけが集まっている。その人数は10人にも満たなかったはずだ。
いくら成績が良くても、魔法が使えない私が入っていいクラスではない。
第一、私はただのモブキャラ。
ヒロインやヒーローたちとは住む世界が違うのだから。
「そうか……魔法が使えなくたって、成績優秀なのだから是非とも編入してもらいたいが、本人が拒否するのなら仕方ないな」
SSクラスの先生が残念がっている。
「でも魔力があるなら、いずれは魔法が使えるかもしれないよ? だから僕たちのクラスにおいでよ」
アンディはどうしても私をクラスに呼びたいようだ。
「折角のお話だけど、ごめんなさい」
アンディのように、魔力が強い人には私の気持ちは理解できないだろう。
今まで魔法が使えないということで、どれほど肩身の狭い思いをしたことか。
「だけど……」
「もうやめろよ。アンディ」
すると、ザカリーが止めに入ってきた。
「ザカリー……」
「本人が嫌がっているのに、無理強いしたら駄目じゃないか」
「そんな、無理強いなんて僕は……」
俯くアンディ。
「仕方ない。本人の意思が一番大事なのだからな。でも気が変わったら、遠慮なく申し出てくれるかい? SS1クラスはいつでも君を受け入れるから」
先生が笑顔で語る。
「はい、分かりました。ありがとうございます。……あの、それではもう帰ってもよろしいでしょうか?」
試験も終わったことだし、今度こそ魔力暴走について本格的に調べなくては。
「勿論いいよ。引き止めて悪かったね」
「気をつけて帰りなさい」
先生たちが交互に声をかけてくる。
「はい、先生」
私はソファから立ち上がると、お辞儀をした。アンディとザカリーはまだ先生に用があるのだろうか?
まだ席に座って、こちらを見つめている。
「それでは失礼します」
お辞儀をすると、私は談話室を後にした――