「それで? 呼び止めたからには何か用があるのでしょう? 言ってみたら?」
すると、ロザリンの顔がますます険しくなる。
「本当に、いけ好かないわね……魔法が全く使えないくせに、いつも堂々として目障りなのよ」
「私は別に目障りなことをした覚えはないけど?」
むしろ、ロザリンの方が余程目障りなことをしているのではないだろうか? 私はリオンの婚約者だ。なのに悪びれもせずに堂々と、あたかも自分が婚約者のように振る舞っているのだから。
「ふん。でもそんな態度を取っていられるのは今のうちよ! 私には分かっているのよ! あんたのような底辺が、試験で1位を取れるはずないって! どうせ卑怯な手を使って試験を受けたんでしょう!」
その言葉に周囲がざわめく。
「まさか、カンニングか?」
「あり得るかも……一般クラスの生徒が1位を取れるはず無いしな」
「そんなこと出来るのかしら?」
「いや、何か方法があるのかも……」
周囲の生徒たちは私に疑いの目を向け始めた。……そうか。わざと廊下で騒ぎを起こしたのは、私がカンニングをしたとでっち上げて騒ぎを起こすためだったのか。
けれど私は自分の実力で1位をとったのだ。だから恥じることもない。
「それじゃ、私が不正したっていう証拠はどこにあるの?」
「証拠なんて、関係ないわよ! そもそもあんたが1位を取ったことがインチキした証拠よ!」
別の少女が叫ぶが、あいにく説得力に欠けている。
「証拠なんて、これから探すわよ。その前に、まずはあんたを先生たちに訴えてやるから!」
ロザリンが私を指さしたその時。
「君たち! 一体廊下で何を騒いでいるんだ!」
廊下に声が響き渡った。
見ると、学年主任の男性教師がこちらに向かって近づいてきている。その背後にはエイダがいた。
「あ、先生! 丁度良いところへ来て下さいました。ユニス・ウェルナーさんが試験で不正を働いていたので、皆で問い詰めていたのです」
ロザリンが得意げに語る。
「何だって? ユニス・ウェルナー……君がそうかね?」
先生が私に視線を移す。
「はい、そうです」
すると先生が笑顔になる。
「そうか、君がユニスさんか。今回の試験では驚いたよ。まさか試験問題のちょっとしたミスまで指摘してきた生徒は始めてだった! 正した上で、正確な回答を出してきたのだからな」
「ええっ!?」
その話を聞いて驚きの声を上げたのは、やはりロザリンだった。
「……試験問題のミス?」
「そんな、気づかなかったわ」
「どの教科のことなの……?」
「それじゃ、カンニングは……?」
「してないのかも」
ロザリンが連れてきていた女子生徒達はバツが悪いのか、コソコソと話している。
「そういえば、君はSSクラスの生徒だったな? 今、ユニス・ウェルナーが試験で不正を働いていたとか言ったが……試験問題のミスまで指摘できる生徒が不正をするはずがないだろう? 彼女の答案は完璧で、教員たちの間でも話題になっているくらいなのだから」
「ありがとうございます」
褒め言葉としてお礼を述べると、先生はロザリンに問いかけた。
「君は自分の勝手な憶測で、相手を貶めるようなことをしていいと思っているのか?」
「そ、それは……SSクラスでもないのに、試験で1位を取るなんて信じられなくて……」
「試験勉強を頑張ったから、1位を取れたのだろう? 君たちは憶測で、彼女を疑ったのだ。後で相談室に来なさい。状況次第では親を呼ぶことになるだろう」
親を呼ぶという話で、彼女たちは震え上がった。
まさか、そこまで大事になるなんて……。
「先生、待って下さい」
私は手を上げた。
「どうしたのだ?」
「私は気にしていないので、大丈夫です。この場で終わりにしていただけますか? あまり大事になると、私の両親も驚いて心配するので」
あえて、自分の両親の話を持ち出してみた。
「……そうだな。君の言う通りかもしれない」
先生は頷くと、ロザリン達に視線を移した。
「今回は反省文を提出することで終わりにしよう。いいか?」
「「「「「はい!」」」」」
反省文で済むことになり、5人の女子生徒たちは嬉しそうに返事をした。
「そろそろ授業が始まる。他の生徒たちも教室に戻りなさい!」
先生の話にその場にいた生徒たちは、それぞれの教室へ戻っていく。
ロザリンは私を鋭い目で睨みつけ、悔しそうに駆け出していった。
「ユニスッ!」
先生もいなくなると、エイダが駆け寄ってきた。
「エイダ、先生を呼んできてくれたのね?」
「ええ。だって、あのままにしておけなかったもの。でも、本当に良かった……」
エイダは余程怖かったのか、涙ぐんでいる。
「本当にありがとう。あなたは私の一番の親友よ」
エイダの頭をそっと撫でた。
「ユ、ユニス……」
「それじゃ、教室へ行きましょう?」
「ええ」
私達は一緒に教室へ向かい……クラスメイト達に取り囲まれたのは言うまでもなかった――