「ねぇ、そこの君」
校舎に入ろうとしたところで、背後から突然声をかけられた。
「え?」
振り向くと、見たことのない少年が立っていた。ライトゴールドの髪に緑の瞳。
女の子かと見間違うような顔立ちの少年が私を見つめている。
一体彼は誰だろう?
「あの、今、私に声かけたの?」
「うん、そうだよ。さっきは凄かったね。まさかSSクラスの人たちと試験で勝負するなんて」
「そう? でも、あの人はSSクラスの2組でしょう? 1組の人たちが相手じゃないから何とかなると思うの」
SSクラスは2クラスあり、中でも1組の生徒たちが最も優秀な生徒たちの集まりだった。
「へぇ、君。面白いこと言うね」
少年は美しい顔で笑った。
「あいにく、私は少しも面白くないわ」
きっとリオンの耳にも入っているはず。今頃、どう思っているだろう。
それにしても誰なのだろう? これほど整った顔立ちの少年を見るのはリオンで2人目だ。
私の疑問をよそに、彼は続ける。
「そうだよね、試験で負けたら君は婚約者の誕生パーティーに参加できないまま婚約解消しなければならないんだから」
「……」
黙って彼を見つめた。一体どこから話を聞いていたのだろう?
「手伝ってあげようか?」
「え?」
突然の言葉に何のことか分からなかった。
「僕が勉強を教えてあげようか?」
「……どうして?」
「勿論、試験に勝つためにだよ。だって負ければ誕生パーティーに行けないんだろうう?」
「勉強を教えるって……ひょっとして、あなたはSSクラスの人?」
「そうだよ、僕は1組に所属しているんだ」
「1組……」
どうりで見たことが無いはずだ。SSクラスの1組は、同じ校舎でも違う階にある。
申し出はありがたいけれど、正直に言えばSSクラスの……ましてや1組の生徒とは関わりたくなかった。
「大丈夫よ。勉強なら1人で出来るもの」
「へぇ、すごい自信だな」
「あまり自信は無いけれど、努力はするわ。それじゃ、私もうクラスに行くから」
再び背を向けて歩き始めた時、彼が声をかけてきた。
「さっきの姿、すごく格好良かった! 応援しているよ!」
「え?」
振り向くと、既に彼の姿は無かった。
「もしかして……転移魔法?」
転移魔法は、高い魔力を有する。SSクラスの……しかも、1組に所属しているということはリオンよりも能力が優れているのかもしれない。
そのとき、授業開始10分前の鐘が校舎に鳴り響いた。
「早く、教室に行かなくちゃ」
私は急ぎ足で自分のクラスへ向かった。
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「ユニスッ!」
教室へ入った途端、エイダが駆け寄ってきて抱きついてきた。
「エイダ? ど、どうしたの?」
戸惑っていると他のクラスメイトたちも駆け寄ってきて、あっという間に私は取り囲まれてしまった。
「一体皆どうしたの?」
クラスメイトたちを見渡すと、エイダが顔を上げた。
「ユニス! 正気なの? SSクラスの人と試験で勝負するって!」
「そうよ。勝負するわ」
「本気なのか?」
「勝てるはずないじゃないの!」
「負けたらますます馬鹿にされるぞ?」
次々とクラスメイト達が声をかけてくる。
私はこのクラスでも地味で目立たない存在だったはずなのに、皆が心配してくれているのだ。
それがとても嬉しかった。
「皆……ありがとう。でも、大丈夫よ。私、絶対に試験に勝つから」
そして私は皆に笑顔を向けた――