「リオン。この際だから聞くけど、ロザリンさんのこと好きなの?」
緊張する気持ちを押さえながらリオンの目を見つめた。一体、リオンは何と答えるのだろう?
「どうなんだろう? 良く分からないな」
「え? 良く分からないの?」
まさか、そんな答えが返ってくるとは思わなかった。
「うん、でもロザリンと一緒にいて楽しいのは確かだよ。クラスメイトだし、何より気が合うからね」
笑顔で答えるリオン。
一緒にいて楽しい? それでは私といた時はどうなのだろう? 楽しくは無かったのだろうか? だから、彼女の言われるままに私に婚約解消のお願いを……?
「今まで聞かなかったけど、最近リオンの家に遊びに行ってもあなたは出掛けていなかったわ。もしかしてロザリンさんと会っていたの?」
「そうだよ。ロザリンに誘われて2人で勉強したり、魔法の勉強をしていたんだ。彼女は魔力も強いからね。だけどユニスは、ほら……魔力が無いだろう?」
「そうよね、確かに私は魔法が一切使えないわ」
傷つく心を抑える為に、更に自分の手を強く握りしめる。
「ユニスは両親が決めた婚約者だけど、実際は友達のようなものだろう? 婚約者と言われても、いまいちピンとこないんだよね。結婚している姿なんて尚更だよ。ユニスだってそう思わない?」
リオンは完全に決めつけた言い方をする。
「……確かにそうかもね。だけど、ロザリンさんとはどうなの? 将来結婚している姿を想像できる?」
「ロザリンとか……」
リオンは少し考えこむ素振りを見せた後、頷いた。
「うん、少なくともユニスよりは想像できるかな」
「そ、そうなのね」
そこまで、はっきり言われてしまえば仕方がない。
リオンの気持ちは分かった。けれど、このまま婚約解消に応じるわけにはいかない。
何故なら、私にはするべきことがまだあるからだ。
「それで、ユニス。婚約解消はしてくれるのかな?」
申し訳無さそうリオンが尋ねてきた。
「ええ、いいわよ」
「え? 本当に?」
途端にリオンが満面の笑みを浮かべる。
そう……私が婚約解消に応じることが、そんなに嬉しいのね?
「でも、その代り条件があるの」
「条件? どんな条件なの?」
「来月、リオンの12歳の誕生日で誕生パーティーをするでしょう? 婚約解消はその後にしてもらいたいの。おじ様とおば様を驚かせたくないから」
「そうだね。確かにユニスの言うとおりかも。父様も母様も、ユニスをパーティーに招くと言っていたから」
リオンが私の話に頷いた。
「そうでしょう? 婚約解消をしてしまったら、気まずくてパーティーに参加できないわ。でも大丈夫よ。無事に誕生パーティーが終われば、婚約解消しましょう」
尤もらしい話で婚約解消を引き伸ばすが、決してリオンに未練があるからではない。元々私は、ヒロインがリオンの前に現れたら身を引くつもりだったのだから。
ただゲームの筋書き通りなら、リオンの12歳の誕生パーティーの日に彼の魔力が暴走して屋敷が火事になってしまう。
そしてリオンの父は、彼を助けるために火事で死んでしまうのだから。
「アハハハ。ユニスは変なことを言うね。誕生パーティくらい、無事に終わるに決まっているじゃないか」
「そうよね。無事に終わるわよね。大げさな言い方をしてしまったわね」
私もリオンと一緒に無理に笑う。
「それじゃ話も終わったことだし、僕はもう行くね。ロザリンをあまり待たせるわけにはいかないから。今日はこれから2人で市の図書館に行くんだよ」
「そうね、もう行ってあげて。楽しんできてね」
「うん、今日はわざわざありがとう。またね!」
リオンは笑顔で手を振ると、背を向けて走り去っていった。
「リオン……ロザリンと2人で、図書館に行くのね……」
遠ざかるリオンの背中を寂しい気持ちで見つめる。
もう彼の中では、私はいらない存在となっているのだろう。
「私も、調べ物をしなくちゃ」
踵を返すと、足早に学園の図書室へ向かった。
リオンの誕生日まで、一ヶ月を切ってしまったが、未だに魔力の暴走の原因を突き止めることが出来ていない。
何とかリオンの魔力の暴走を防いで、ハイランド家の悲劇を食い止めなければ。
大好きなおじ様とおば様を救うためにも――