ダ・カーポ[D.C.]
楽譜記号で曲の最初に戻り、「Fine」(または複重線の上のフェルマータ)まで演奏する。記号。「D.C.」
♩
深夜だというのに。
話し声で目を覚ます。
アイツとあの人の声だ。
アイツは怒りをぶちまけている。
あの人は悲鳴をまき散らしている。
アイツらには、アイツらの世界しか存在しないらしい。
そこに他の価値観が入り込もうものなら、あの人たちは全身全霊を掛けて拒絶するのだ。
ある日、何を間違えたか、アイツらはこの世界に私を産み出した。
そして、私はアイツらとは違う価値観を持って産まれてしまった。
アイツらがそれに気づいたのは、私が物心ついたころだった。
アイツは責任をあの人になすり付けた。
アノ人は価値観を変えることに執心した。
私はアイツではないし、あの人は私ではない。
アイツらにはそんなことすらわからないようだ。
わたしはうんざりだった。
もう、眠りたかった。
「なんであんなバケモノを産むんだ」
アイツが叫ぶ。
私を蔑むように。
「あんな子産まなきゃよかったわよ」
あの人が叫ぶ。
私に聞こえるように。
鼓膜の中でなにかが爆ぜるような音がした。
それは、ずっと前から私の中にあったものだ。
アイツらから離れるということにいまさらながら考え付いた。
アイツらの所へ行き、私は宣言した。
私に関わらないで、と。
宣言というより、どちらかというと悲願に近かった。
アイツらの安心した顔を見たのは、そのときが初めてだったかもしれない。
重荷を降ろしたアイツらの行動は迅速だった。
一週間後には、私の転居先と転校先を探し出した。
一か月後に私は転居した。
一人で暮らし始めて、安眠というものを知った。
そうやって、君と出会ったんだよ。
覚えているかな?
覚えてくれていたら、嬉しいんだけど——