目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
もしも、僕の余命が三ヶ月だったとしたら
らわ
恋愛現代恋愛
2024年10月23日
公開日
92,774文字
連載中
父親と二人で暮らす怜は、父親の交際相手であるミーコさんというオネエに出会う。
ミーコさんは父に瓜二つの顔をしていて、どこか憎めない性格をしていた。
ミーコさんとの出会いから、怜の交友関係は広がり、人間として成長をしていく。


プロローグ:ダ・カーポ

ダ・カーポ[D.C.]

楽譜記号で曲の最初に戻り、「Fine」(または複重線の上のフェルマータ)まで演奏する。記号。「D.C.」



深夜だというのに。

話し声で目を覚ます。

アイツとあの人の声だ。

アイツは怒りをぶちまけている。

あの人は悲鳴をまき散らしている。


アイツらには、アイツらの世界しか存在しないらしい。

そこに他の価値観が入り込もうものなら、あの人たちは全身全霊を掛けて拒絶するのだ。


ある日、何を間違えたか、アイツらはこの世界に私を産み出した。

そして、私はアイツらとは違う価値観を持って産まれてしまった。

アイツらがそれに気づいたのは、私が物心ついたころだった。

アイツは責任をあの人になすり付けた。

アノ人は価値観を変えることに執心した。

私はアイツではないし、あの人は私ではない。

アイツらにはそんなことすらわからないようだ。


わたしはうんざりだった。

もう、眠りたかった。


「なんであんなバケモノを産むんだ」

アイツが叫ぶ。

私を蔑むように。


「あんな子産まなきゃよかったわよ」

あの人が叫ぶ。

私に聞こえるように。


鼓膜の中でなにかが爆ぜるような音がした。

それは、ずっと前から私の中にあったものだ。

アイツらから離れるということにいまさらながら考え付いた。

アイツらの所へ行き、私は宣言した。


私に関わらないで、と。


宣言というより、どちらかというと悲願に近かった。


アイツらの安心した顔を見たのは、そのときが初めてだったかもしれない。


重荷を降ろしたアイツらの行動は迅速だった。

一週間後には、私の転居先と転校先を探し出した。

一か月後に私は転居した。

一人で暮らし始めて、安眠というものを知った。


そうやって、君と出会ったんだよ。

覚えているかな?

覚えてくれていたら、嬉しいんだけど——

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?