(こいつは……同じだ、あの時と…。幾度も戦いに負けた原因だった、あの……金角鬼の女と!!
ハッ、今の俺は誰だ?無敵に近い存在へと進化した獣の王だぞ!こんな奴らに負けるかよ!!)
強い存在感を放つアレンに不適の笑みを浮かべながら、ガンツも同じくその存在感や戦気を大きくさせていく。
「テメーらが運良くここまで来たわけじゃねーってのは分かった。“幹部”や“将軍”の奴らよりずっと強いってのはよォく分かった。
だから、俺も全力を出してテメーらを潰す!!」
“限定進化”
そう叫んだ直後、ガンツの体が2倍以上大きくなり、金色の鬣も長くなり、巨大な二足体勢の獅子が現れた。彼の体からは禍々しく邪悪な戦気とオーラが陽炎のように立ち上っている。
「改めて―――“百獣王”ガンツだ。俺こそが、最強だ」
ガンツの姿と戦気にアレンたちはかすかに戦慄する。しかしその戦意は微塵も削がれてはいなかった。
「この姿になったのは5年前…ウィンダムさんが率いてきたモンストールの大群とやり合った時以来か。ククク、力が漲るぜェ!」
「そうかよ、じゃあその姿のまま死ね」
自身の姿に酔いしれているガンツにギルスが最初に攻撃を繰り出す。
“
両手から闇が混じった炎の巨砲を撃ち放つ。
「獅子に炎など笑止!俺は元々炎が得意なんだよ!!」
そう吼えながらガンツは腕に真っ赤な炎を纏い、その豪腕でギルスの黒炎を容易に破った。
“雷電鎧”
ギルスをさがらせたアレンが、全身に雷の鎧を纏った状態で鬼族の武術を多数に繰り出して応戦する。対するガンツは余裕の笑みを浮かべながら腕から全身へと炎の鎧を纏って格闘戦に応じる。
(こいつも私と同じように、属性魔力を鎧として纏うことができる…っ)
アレンの雷とガンツの炎が拳や蹴りとなってぶつかり合う。その打ち合いは長くは続かず、アレンが力負けしてしまい、また吹き飛ばされる。
「く……っ」
「ハハハハハ!進化しても力は俺の方がはるかに上のようだなァ!」
哄笑しながらガンツは炎の鎧に闇属性の魔力まで重ねた。
「二つ属性の魔力鎧……!?」
「“
アレンとギルスを狙って赤黒い炎を纏った蹴りを放とうとしたガンツに、センとガーデルによる二重の「大咆哮・咆哮」が浴びせられる。
「おおう?この俺の動きを止めるだけの拘束力が………っ」
爆音波を直接聞いたガンツは動きを止めただけでなく目の焦点も合わなくなっていた。二人が放った「大咆哮」には「幻術」が込められており、ガンツは二人の「幻術」に嵌まってしまった。
“
痺れ状態のガンツの顔面にガーデルによる捨て身の両拳打ちが激突する。自身の全体重を乗せた二撃は常人なら衝撃で首がへし折れる威力だが、闘牛よりも太い首を持つガンツの体はビクともしなかった。
“雷撃蹴り”
今度はアレンが渾身の上段蹴りを同じ顔面の真ん中に叩き込む。雷と強烈な打撃が襲うが、ガンツが吹っ飛ぶことはなかった。
「何なんだ、奴の尋常じゃない頑丈さは……ッ」
アレンとガーデルのフルパワーの武撃をモロにくらっても倒れないガンツに、ギルスは動揺する。
「――――っああ~~~戻ってこれた!……ん?何だァ、攻撃してなかったのか、テメーらァ?殺すチャンスだったろうがァ」
禍々しいオーラがさらに濃くなったガンツに、アレンたちは冷や汗を流しはじめる。
“嵐波吹雪”
嫌な流れを払拭するべく、ルマンドが嵐と水の複合魔法を込めた「神通力」をガンツに集中的に撃ち込んだ。
「グォアアアアア……ッ」
嵐と念力の吹雪をくらうガンツの体が捻じられていく。しかし―――
「――――アアアアアアッッ!!」
“
バアアアアアアアッッッ
体が捻じられている途中で、ガンツはその身に鎧として纏っていた炎と闇の魔力を大爆発させて、その勢いを使って駆け抜けた。それによってルマンドの大技を打ち破った。
「……っ!!」
「ハァ~~~~~、さすがに神鬼の“神通力”は効くぜェ。全身がズタズタになってやがる。
が、俺を殺すまでには至らねェなァ」
全身から血を流しているにもかかわらず、ガンツは全く弱った様子を見せなかった。
(戦気が全く衰えていない……本当にまだまだ余裕があるってこと!?大ダメージは確かに負ってるはずなのに……っ)
ガンツの異常過ぎる頑丈さにアレンは焦りを感じる。
「ここまで、強くなってるなんて……ッ」
「ハハハハハ……!!」
必死の様子を見せるアレンたちにガンツは勝ち誇った笑い声をあげる。
(そうだ、この鬼どもが俺を殺すことは絶対にない。俺は不死身と言っていい存在になったんだ!テメーらがどう足掻こうと、俺が勝利者になる未来は揺るがねェ!!)
ガンツは自身の勝利を確信した――――