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「僕の世界」

  「そんなことの為にサント王国が危機に晒されるのかもしれないってか。サント王国の連中も嘆くだろーな」

 「心外だね。どんなことであろうと人の目的・野望を馬鹿にするのはどうかと思うよ」

 「限度ってものがあるだろーが。まあこれ以上言っても無駄か」


 俺は脳のリミッターをさらに解除する。とりあえず…4000%。

 俺の変化に気づいたウィンダムは初めて警戒する目をした。


 「またギアを上げたようだね」

 「ここまではまだ様子見レベルってやつだ。そろそろテメーを全力で殺すぜ?値踏みするのは勝手だが、それで死んでも知らねーから」

 「まさか。僕もそろそろキミに見せてあげようと思ってたから丁度いい」


 ウィンダムの体からどす黒い瘴気とオーラが出てくる。存在感やプレッシャーも大きくなってくる。いよいよ奴も本気でくるみたいだ。


 「獣人族どもの提供よりもキミを討ち取ることが“序列”へのいちばんの近道かもね。キミは魔人族にとって脅威だ。それを排除すれば僕は認められるに違いない!」

 「やってみな。テメーの野望は俺が潰す」

 「ククククク!さァ始めようか  本当の殺し合いを!!」


 「限定進化」


 そう唱えたウィンダムの姿が変貌する。髪がさっきよりも長くなり、肌の色は赤くなり、身長がさっきの倍くらいに伸びていた。


 「ふぅ、お待たせしたね。これが僕の本気の姿だよ」

 「魔族の進化にしては姿形があまり変わってねーのな(藤原の“限定強化”みたいだ)」

 「ああ、僕の場合はそうみたいなんだ。でもちゃんと、強くなってるよ」

 「みたいだな。テメーからヤバい感じが伝わってくる」


 奴の能力値がさっきの20倍以上も跳ね上がってる。俺と同じ百~千万単位の攻撃力に魔力、耐久力と速さ。そしてこのプレッシャー。


 「テメー、分裂体のザイートよりもずっと強いな」

 「あっははははは!当然だよ、“序列”入りを狙っているのだから、あの方の分裂体くらいは上回ってないとダメだよ!」


 奴の陽炎のように湧き立つ魔力やオーラを目にした俺は緊張感を増していく。


 「じゃあ、いこうか―――」


 ウィンダムが両手をパンと打ち鳴らす。その直後、俺たちがいる空間全てに透明色の何かが通り抜ける気配がした。


 「何だ…?」

 「これは僕が編み出したオリジナル魔法。その名も―――」




 『僕の世界マイン・モンド




 奴がそう唱えてから数秒経つが何も起こらない。ウィンダムが手を向けて魔力を溜める。魔法攻撃を撃つと分かりこっちも武装して迎え撃つ態勢に入る。

 そう構えていた俺の真後ろから―――


 ザギャアアアッッ 「な……!?」


 闇属性の衝撃波が俺の背中を抉った。咄嗟に「瞬神速」で衝撃波から逃れたが、今度は何も無いところから青い「魔力光線」が突然飛んで俺の脇腹を貫いた。


 (また、何も無いところから!?それに、威力がさっきよりもずっと強い…!)


 右部分の胸から腹が消失してしまいバランスを崩す。全速力で走って奴の視界から外れる。ウィンダムは笑顔のまま手に魔力を込めたままだ。


 視界から外れたにもかかわらず、俺の真上からまたも魔法攻撃が撃たれる。今度は「魔力防障壁」のドームで防ぐことに成功したが油断できない。


 (三度にわたるこの攻撃……どれもウィンダムの身から放たれたものじゃなかった。奴の分身?それもなかった。全く何も無い空間から魔法攻撃が放出された?)


 障壁を展開しながら思案しているとウィンダムが愉快げに話しかけてくる。


 「賢いキミならもう分かったんじゃないかな。僕のオリジナル魔法“僕の世界”は……僕が立つ一定の領域内ならどこからでも魔法攻撃や“魔力光線”を放つことが出来るんだ!キミの死角からや地面からも思いのままに!」


 ウィンダムの手から熾されている魔力がまた光ると、ゼロ距離からまた魔法攻撃が飛んでくる。展開している「魔力防障壁」で防いだが、これじゃあ障壁を解除するができない…!!


 「………なーんて思うかよばーか。次は、そこからだろ!」


 バッと真横を向いて手を翳して「魔力光線」を発射する。直後に何も無かったところから炎と嵐の複合魔法が現れたが、事前に撃っておいた光線で打ち消した。


 「“未来予知”がある以上、いつ・どこから来ようが全部お見通しだ」

 「凄いね、不可知の攻撃も予知出来るなんて!」

 「余裕ぶっこくな。不意討ちはもうできねーと思えよ」


 そう言ったものの、油断できないことに変わりない。「限定進化」したウィンダムの魔法攻撃の威力は数倍増している。「強いやつ」をまともにくらうと良くて復活に時間がかかり、悪ければ消えてしまうだろう。長引かせることはしない方が良い。この戦いさっさと終わらせる!


 「毒で溺れ死ね!」


 ウィンダムを睨みながら地面に両手をついて魔法攻撃を発動する。


 “王毒波浪ポイズンウェーブ


 水魔法を混ぜた「王毒」の大波を発生させる。あらゆる生物を死に至らしめる劇毒の災害。魔人族だって殺せるレベルの毒だ。


 「へぇ!?“王毒”まで持っているなんて!」


 ウィンダムは俺が「王毒」を持っていたことに驚いただけで、その場から動くことはせず、ただ右手を翳しただけだった。そこから超強力な水魔法が放たれる。


 “零の世界アブソリュート・ゼロ


 瞬間―――ウィンダムを溶かし飲み込もうとしていた「王毒」の大波はカチコチに凍り付いてしまった。というか、俺も凍りかけている。炎の魔力を熾してすぐに解凍する。


 「摂氏-1000℃の氷を解くなんてやるねぇ」


 ウィンダムは笑いながら左手を凍った「王毒」に手をあてる。完全に氷と化しているから奴が毒に侵されることはない。その左手から大地と闇の複合魔法が放たれる。


 “尽滅粉塵ダーク・ダスト


 奴の左手から黒い粉みたいなのがいくつも発生して、そこから氷をどんどん侵食していく。漫画やアニメでよく見る、菌か何かが侵食するかのように。凍った「王毒」はあっという間に黒く染まってしまう。

 そして、一瞬で消滅した…!


 「危ない毒だから、消しておいたよ」

 「テメーが発生させた粉塵の方が1000倍危ねーだろ」


 ドン引きしてツッコむ。大地魔法で発生した砂塵に消滅効果がある暗黒魔法を混ぜた殺人兵器魔法だ。あれをくらえば俺ですらヤバいかもな。


 「………って、こっちにも来てんじゃん!」


 隙を見せてしまった俺のところにも消滅させる粉塵が散らばっていた。触れると消されてしまう。俺はその場で超強力な重力を発生させて、粉塵を全て地面に落とした。


 「くらうとヤバかったろうな」


 全く気が抜けない戦いだ、一つの隙が命取りになる……!



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