カイドウ王国の地下深く……地底――ウィンダムの領地にて、俺とウィンダムは殺し合いをしている。
殺し合いとはいっても俺も奴もまだまだ本気じゃない。
いや、俺は本気で打ち込んではいるのだけど。脳のリミッターを2000%程解除した状態での「全力」を出しているところだ。
しかしこの程度の全力では奴を殺すまでには至らない。
“
「身体武装硬化」で両手に鉤爪を武装させて、全ての爪に炎・嵐・雷・水・光・闇といった複数の属性魔力を纏わせる。
「刻まれろ――」
「瞬神速」で加速し、「怪力」も発動させながら、スピード・パワーの両方を備えた爪撃を放ちまくる。
「嫌だよ」
しかしウィンダムはこれも全て「見切って」きやがる。紙一重で悉く躱されてしまい、隙をつくった俺に蹴りを入れる。
「軽いな」
回避の技術が高い反面、力は高くない。蹴りを平然と受けた俺はその足を掴んで引き寄せて、空いている方の手でクローをぶち込む。
「頑丈だね」
しかし爪が奴の顔を裂く直前、奴の手から黒い「魔力光線」が放たれて、俺の腹を穿つ。
「それが、どうした!!」
ザシュッ 「………っ」
「五感遮断」で痛覚を閉じている俺は風穴を空けられようと怯むことなく、奴の両目玉に爪を突き刺そうとする。が、ギリギリで躱されて瞼を抉るだけに終わった。
躱されまくってムカついたから、掴んだままの足を鞭のように振るって地面にたたきつけたが、受け身を取っていたようで衝撃は全くなかった。
「大怪我を負わせたはずなのに、痛みは全くないと見た。しかも、傷がもう塞がってさえいる。しかもそれはザイート様の……」
「ゾンビを舐めんな。風穴空けてもダメージを入れたことにはならねーんだよ」
俺がそう言ってもウィンダムは全く動じていない。それどころか俺に好奇心に満ちた目をますます向けてきやがる。
(不死身だから奴の攻撃をくらっても問題ねーけど、こっちの攻撃も奴に全然くらわせていない……)
上手くいかないことに舌打ちする。
「僕の武術に対する回避や受け流しの技術はザイート様に叩き込まれたことがあってね。そのお陰で近接戦は不得意だけど得意でもあるんだ」
「あっそ。じゃあ……」
今度は魔法攻撃に切り替える。両手から「魔力光線」を緩急つけながら撃ちまくる。対するウィンダムも気味悪い笑みを浮かべたまま同じく「魔力光線」を撃ってくる。
(威力は同程度……だが、)
ウィンダムが放った光線が俺の光線を躱して俺に襲い掛かる。奴の光線の軌道を操る技術が上手い。逆にこっちは全く奴に当てられてねぇ……。
魔力を纏った拳で光線を全て打ち消すが、奴は攻撃の手を緩めなかった。
“
ポ〇モンのれいとうビームみたいな、氷のビームが飛んでくる。これも魔力を込めた拳でぶん殴るが、拳をはじめ体が凍り付いていく。ここままだと全身が凍り付いてしまうので、体内に炎熱の魔力を熾して、自身を燃焼させる。
「へぇ?」
ウィンダムが感心する中、氷を溶かし切ってから炎を消して大火傷を負った俺だがすぐに再生する。
“
ウィンダムの周囲に闇と重力で出来た黒いドームを発生させて閉じ込める。その中はブラックホールと化し、閉じ込められた奴はブラックホールに吸い込まれた後のような末路を辿ることになる。
ギ、ギギギギギギ…………
中で変な音がしている。本来ならそんな音はせずに敵をただ消滅させるはずだが。そう思っていると俺の黒ひつg……じゃなかった、複合魔法が突然破られた。中から少し傷を負っただけのウィンダムが相変わらずニコニコした顔で出てきた。
「強い重力攻撃にはさらに強い重力攻撃を重ねてあげれば、何てことはないんだよ」
「………魔法攻撃も大したダメージは無理、か」
「というより、僕は魔法攻撃戦の方が得意なんだ。僕に魔法攻撃で勝つのは無理じゃないかな」
面白そうにニヤニヤと笑うウィンダムに少しイラッときて、「瞬神速」で駆けて接近し、硬化した拳と蹴りを打ちまくる。
「そして君の格闘攻撃は見切ってみせ――」
余裕で躱そうとしたウィンダムだったが、左拳の正拳突きと右脚の下段蹴りがヒットして吹っ飛んだ。
「………!?」
「テメーの見切った動きを“未来予知”してやったぜ。“こう避けるだろうな”って予測すりゃ当てることだって可能だ」
硬化した拳と脚に光属性の魔力も纏わせてからさらに追撃する。ウィンダムが避けるであろう方向に左アッパーをくらわせて打ち上げ、跳び上がりからの上段蹴りを繰り出して顎を打ち砕いた。
さらにぶん殴ろうとしたが、俺の周囲に黒い霧みたいなのが突如発生したので、後ろへ下がる。直後黒い霧が一斉に鋭利な刃物へと変化した。あそこにいたら体がバラバラになっていた。
「さぁ、ザイートに教えてもらった回避技は俺にはもう通用しねーぞ」
倒れたままのウィンダムに話しかけてみると奴は突然起き上がって、何が可笑しいのかまた笑い出す。