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「インドラの雷」2

 (縁佳、そろそろだよね?合図がきたら結界を解くからね!)

 (ありがとう美紀ちゃん。そしてクィンさんも小夜ちゃんも堂丸君も。みんなのお陰で私は………)


 縁佳が構えている弓矢からは光輝く黄色の魔力が込められている。特に矢の輝きは凄まじく、矢の先端に雷属性の魔力がバチバチと帯びている。そこには縁佳の全ての魔力をつぎ込んでいる。

 ―――全てをこの一撃にかけにきている。


 (私は、この全力の矢を放つことが出来る!)


 きりきりと弓の弦を絞り、同時に意識を集中する。大地の結界でハンネルの姿は見えずとも、縁佳「鷹の眼」はハンネルの姿をしっかり捉えていた。


 (みんなが必死に稼いでくれた時間、無駄にはしない―――!)

 『美紀ちゃん、お願い』

 『了解、やっちゃいなさい!』


 通信端末で曽根に合図を送り、それを受けた彼女は、結界を解いた。


 それと同時に縁佳は、必殺の一撃を放った。


 “インドラのいかずち




 「くそォ!こんなことしていったい何の―――」


 崩れた結界の中からハンネルが出てきたが、その直後―――


 ―――――ッ


 雷速で飛来した巨大な雷の矢が、ハンネルの心臓を正確無比に射抜いた。

 直後、ハンネルの全身を雷がバリバリと炸裂した。その威力は凄まじく、ハンネルの周囲をも雷が侵食し、地を焦がしつくした。


 「す、凄い!こんな威力の矢が撃てるなんて…!」

 「縁佳の正真正銘の全力の一撃です。Sランクモンストールだって一撃で倒せるんだから!」

 「やっぱ、すげーよな高園は。クラスメイトの中で間違いなくいちばん強いよ」

 「うん……そうだね。本当に、凄い」


 クィンが驚愕する中、曽根たちは誇らしげに縁佳のことを讃える。やがて煙が晴れて、そこには瀕死のハンネルの姿があった。


 「まだ生きてます。止めは私が」


 そう言ってクィンは駆け出してハンネルの首を刎ねる。


 「お……れ、が……こ、ん……な、や……つ……ら、に…………」


 それがハンネルの最期の言葉となり、頭に剣を突き刺されたハンネルは絶命した。


 「これで決着、です…!」


 クィンは明らかに疲弊した様子をみせながらも勝利を宣言する。それを聞いた曽根たちは歓喜の声を上げる。

 しばらくして縁佳もクィンたちと合流し、彼女は皆に褒め讃えられる。


 「やっぱり凄いわ縁佳は!あなたがいれば何とかなるって思える頼もし過ぎる子!」 

 「そんな……私も美紀ちゃんたちが頑張ってくれたお陰で安心して集中してあの一撃を放つことが出来たから、みんなのお陰だよ」

 「今の戦いの最大の功労者だってのに謙虚さを貫くその姿勢、やっぱり高園は素晴らしいぜ…!」

 「……功労者は私じゃなくて、」


 褒めちぎろうとする堂丸に苦笑しながら縁佳はクィンと向き合う。


 「クィンさん、あなたが私たちを引っ張ってくれたお陰で勝利出来ました!それと、私を守ってくれて…狙撃の手助けをしてくれて、ありがとうございます!」

 「………礼を言うのはこちらもです。タカゾノさんの最後の一撃があったからこその勝利です。さすがは、異世界召喚された人族の希望。あなたたちがいてくれて本当に良かった…!」


 クィンの言葉に4人とも照れた反応をする。


 (最後の狙撃、あれはSランクモンストールも簡単に殺せる威力だった。フジワラさんといい、異世界召喚の恩恵というのは恐ろしく強いものなのですね)


 内心でクィンは縁佳たちの強さと才能に頼もしさと同時に恐れすら抱いていた。


 (タカゾノさんが発動した“限定強化”。あれがもしコウガさんにも使えるようになったら、いったいどれほどの…)


 クィンが一人思案する中、縁佳も一人別のことを考えていた。


 (やっぱり私一人じゃ災害レベルの敵をまともに倒すことが出来ない。みんながいてくれたから勝てているだけ。“限定強化”だって最後の一撃を放ったと同時に切れちゃったし、全然維持出来ない。こんなレベルだと美羽先生や甲斐田君と並ぶことはまだ全然無理……)


 そして皇雅のことを考える。


 (甲斐田君は、私が想像しているよりもずっと強くなったんだと思う。あの恐ろしい魔人族を相手に一人で戦ってるくらいだし。彼は、たった一人で災害レベルの敵と戦っている……。

 私が甲斐田君と並んで戦える時は………彼の傍で立てる時は、来るのかな…?)


 無事に勝利出来たことに喜んでいたが、次第にこの先のことに対する不安に駆られるのだった。


 (とにかく今は……この戦いから無事に帰ってくることを祈ることしか出来ない。

 甲斐田君、どうかまたあなたの無事な姿を見せてほしい……!)

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