「ん………?」
深い深い暗闇…地底にて、俺は魔人族ウィンダムと戦っている。
その最中に、藤原の声が聞こえた……気がした。
「どうかしたのかな?」
「何でもねー……よっっ」
気安く尋ねてくるウィンダムに不意打ちの中段蹴りを放つ。しかし笑顔のまま躱される。
続けさまにマッハ速度のジャブを無数に放つ。これも奴は涼しい顔でヒラヒラ落ちる木の葉のように躱す。
しかしジャブは陽動。本命のハイキックを顎目がけて打ち込む。
「はい残念」
「ち……っ」
しかし片腕で防がれて受け流される。しかも片方の手から「魔力弾」を無数に撃つという反撃を許し、後退させられる。
(奴の動きは回避と受け流しに特化してやがる。ただ攻撃力はからっきしだ)
次の手はどうしようかと考えてるところにウィンダムがまた話しかけてくる。
「そうそう。戦いは常に考えて動くのが楽しいものだよ。さあもっと頭を使ってみなよ」
「っせー!余裕こいてんのも今のうちだ」
ウィンダムを睨みつけながら、脳のリミッターを解除する。ギアを上げてやるぜ…!
*
カイドウ王国 王城 下層域 縁佳・クィンvsハンネル
「――!―――!!」
フロア内には先程から二つの剣戟の音が響いている。
一つは洗練された剣筋。流れる水のように斬り結ぶその動作は美しい。
一つはこれも洗練された剣筋。前者と異なるのはその激しさにある。常に攻撃の核となって怒涛の剣撃を浴びせようとしている。
前者の剣はクィン、後者の剣は灰色のギザギザ髪の獣人…ハンネルである。
「おォう、これにもついてこれてるか。てめぇサント王国の兵士だったよな?あの国もいずれ滅ぼせと、ウィンダムさんに言われてたが、てめぇのような奴をここで消しておけば、侵略も楽になれそうだなっ!」
「………!!(そんな、ことを企んで…!)」
クィンはハンネルの言葉に言い返そうにもそれどころではなかった。彼の猛攻撃に対応するのに精一杯だった。
「ハッ、何か言いたそうだな?ああそうか、俺のこの剣撃についていくので必死か。もうこの時点で勝負は見えたようなものだなァ!?」
「く………っ」
“水砲”
意表を突くべくクィンは片手から水魔法による砲撃を繰り出す。しかしわずかに読まれていたハンネルの「瞬足」によってギリギリ躱される。
さらにハンネルはそのまま「瞬足」で四方八方を飛び回ってクィンを攪乱させる。
(またこの動きですか……!私の目では完全に見切ることが……!)
クィンは自身の体に炎の魔力を纏わせて少しでも防御出来るよう構える。
(バカが、そんなんで俺の一太刀を防げるかよ!)
獣人剣術 “神速斬り”
クィンの死角から一直線に迫り、剣を振るおうとするハンネル。
「―――っ!!またか、クソが!!」
しかしその寸前で彼の頭を襲う飛来物を、ハンネルは剣でギリギリ打ち落とす。飛来物の正体は、一本の矢だった。
(また、防がれた…!)
クィンとハンネルがいる場所から200m程離れた地にて、縁佳は狙撃が失敗したことに落胆する。
(ここからだとあの獣人に少し感知されてるみたいだからもっと離れたところから狙撃したいけれど、城の中だからここが限界…)
縁佳は再び矢を構えて、狙撃する。
“
風属性の「属性狙撃」を二連で放つ。「千発千中」による固有技能で誤ってクィンを射ることにはならず、標的であるハンネルの頭部に吸い込まれるように飛来していく二つの矢。
―――――
キキキン、ザシュ 「くそ、掠ったァ!」
これらもギリギリで気付いたハンネルは剣で対応するも、わずかに頬を抉る。「危機感知」を常に発動し続けていることで縁佳の狙撃をどうにか防いでいるハンネルだが、その分神経はかなり尖り、すり減らされていた。
(あの、ガキィ…!戦闘が始まった直後、突然姿を……。さらには気配まで消しやがった!逃げたかと思ったら今みたいな狙撃攻撃が襲ってきやがる!)
また突然襲い掛かる三つの矢を、剣を器用に振り回して致命傷を避ける。肩と腕を掠めた傷に苛立つ。
(さっきから“気配感知”で探してるんだが見つからねェ!あのガキ気配を消してやがるのか…!)
きょろきょろと周りを見回すハンネルだが、その隙を狙ったクィンの剣が襲い掛かる。
魔法剣 “
純度の高い鮮やかな炎を纏った剣がハンネルの首を刎ねようとする。しかし寸前で防がれる。
「く……!」
「チィ!(あのガキを探す余裕はねぇか、この女に首をかられる!)」
何度か斬り結んでからハンネルは後ろへ退がる。
(さっきからずっとこの調子だ。この女を追い込んだタイミングでガキの狙撃が襲う。それで隙を晒したところにこの女が斬りにかかる。この、雑魚どもがァ…!)
怒りで額に血管を浮き上がらせるハンネルは八つ当たりに周囲の壁や床を斬る。