「まァこれは録画の映像だ。今頃は奴隷小屋であの臭い体を休めているだろォよ。地下だけじゃなく地上での労働をさせている奴らもいる。この国の自慢の美しい緑を保つ為の仕事や作物の生成とかだ。これらの奴隷鬼が全体の7割といったところか」
死んだ目をしながら手と足を機械のように動かして働いている鬼たちの姿を見たルマンドは怒りの涙を流す。
「で…残りの奴らはほぼ全員が女の鬼だ。そいつらには……ククク。
優秀で強い戦士たちの性奴隷をやらせているぜェ」
「―――っ!!」
センが殺意に満ちた目をガンツに向ける。見下した目をしたままガンツは水晶玉の映像を変更させる。そこには何人もの獣人戦士たちが見た目が端正な女性鬼たちを凌辱している光景が映されていた。
目を覆いたくなるような、人の尊厳を踏みにじって汚しきった光景にセンとルマンドは歯をギリギリと噛み軋ませる。
「お前、たちイィ……!!」
「こんなことって……っ!!」
二人の怒りと悔しさと殺意などが込められた視線を向けられてもハハハハハ!とガンツは哄笑で返す。
「同胞たちには良いガス抜きになってるぜェ!連敗を喫した相手に好き勝手やれるんだからなァ!ああそれとさっき紹介した食肉だけどなァ、美味いものもあれば不味いものもあったぜェ。戦士だった奴らのはダメだなあれは。筋っぽくて食いづれェ」
そう言ってまた大笑いするガンツ。その態度は鬼族を完全に否定し、侮辱し、尊厳を汚して奪うものだ。
「分かったか、これが真実だ!テメーらが知りたがっていた生き残りとやらの鬼どもの全てがこれさ!弱っていた状態だった奴らを捕らえるのは容易だったそうだ。昔から鬼族を恨んでいた俺たちにとってこれほどの機会があっただろうか!思う存分虐げさせてもらったぞ!労働や性の奴隷、さらには食糧として殺しもした!
奴隷扱いを強いている同胞たちにどうだったかの感想を聞いてみたが、あいつら全員最高の気分だって答えてくれたぞ!良かったなぁ!?俺たちを悦ばせることに貢献できたのだからな、あいつらはよぉ!
クク、ゲハハハハハハハハハハハァ!!」
国の王とは思えない残虐で下衆な本性を表したガンツ。
センとルマンドが怒りや憎悪といった激情に駆られる中、
「…………………」
アレンだけは先程から無言のままでいた。水晶玉の映像をジッと見つめている。
「…………あ?なんだァ金角鬼のガキ。テメーだけさっきからリアクションが薄いンじゃねーか?他の二人のように悔しそうにしたり怨嗟の文句を言おうとはしねェのかよ?つまんねーなァ、オイ」
少し冷めた表情でアレンを見下すガンツ。センとルマンドも訝しげにアレンの顔を覗いてみると…
(ち、違う!これは……っ)
(あ、アレン……!)
二人はアレンの素顔を目にして、沸騰していた怒りが少し下がった。思わず冷や汗が出るくらいだった。
「なァおい。聞いて―――」
ガンツがアレンの前に立った直後―――
―――ドゴオォン!! 「ごっっっ!?」
ガンツの顔面にアレンの雷が纏った拳が思い切りめり込む。そこからガンツは勢いよく吹っ飛ぶ。部屋の壁をも壊しながらはるか遠くへ吹っ飛んでいった。途中彼の牙が一本ぽとりと落ちる。それをアレンは無言で踏み砕く。
アレンの顔には―――表情というものが存在しなかった。怒り、悲しみ、憎しみといった感情も一切映っていなかった。
否、アレン本人は先程からずっとブチ切れている。極致に達している。深くどす黒く真っ暗な感情は彼女の中に存在している。業火となって突き動かそうとしている。
「「アレン……!」」
「セン、ルマンド」
アレンの顔に貼り付いた表情はまさに…
「全部壊そう。全部滅ぼそう。
全部 殺そう」
感情が一周回ってその一切が無くなった冷たい殺人鬼そのものだった。
しかし彼女が発した言葉には、たくさんの激情が込められていた。強い怒り・殺意・憎悪といったものがぎっしり込められていた。
「ってェ……。この、いきなり何しやがんだ――――」
吹っ飛ばされたガンツが戻ってきてアレンを睨もうとしたが、彼の顔が強張り、動きを思わず止めてしまう。
(何だ……どす黒い殺気は!?そして、この尋常じゃねェ戦気は!?)
しばらく動きを止めてしまっているガンツに、アレンが目を向ける。
「お前を 殺す。私の全てを使って、この世から消してやる」
瞬間―――
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
今まで溜め込んでいたであろうアレン自身の感情を「大咆哮」として発散する。
(ビリビリ…ッ)「クソが……!テメーらも痛めつけて動けなくした後で、あの奴隷どもと同じようにしてやる。それか、ぶち殺す!!」
怒りの表情を浮かべたガンツはワープパネルを出現させて姿を消す。元の場所へ戻ったのだろう。
「私たちも!」
「ええ!アレン!」
センとルマンドも後に続こうとする中、アレンは食肉と化してしまった鬼に目を向けている。
「仇は、絶対に取るから。奴隷になってるみんな…今助けるから。あなたたちの無念や恨み憎しみは全部、私たちが引き受けるから……!!」
アレンの言葉に二人も強く頷く。そしてアレンたちもワープして元の闘技部屋に戻る。
「…!アレン!センとルマンドも!」
そこにはガーデルとギルスの姿もあった。
「後でスーロンたちもここに来るはずだよ……って、大丈夫?すごく怖い顔してるけど…」
「大丈夫。それより二人とも準備はできてる?あいつを殺すよ」
「どうやらそうしなきゃならないくらいのクソ野郎らしいな。いつでも行けるぜ!」
両腕に魔力を纏ったギルスが答えるとガーデルも同意する。
「何体来ようが関係ねェ。全員地獄に堕ちろ…!」
舌なめずりしながら低い声で言うガンツに対し、アレンたち5人の鬼戦士が並び立つ。
「 復讐 してやる 」