アレン・セン・ルマンドは全速力で上へ進んだ。モンストールの力を取り込んだ下っ端戦士たちは下層に集中していたため、上階にいる獣人戦士は全員通常状態だった。力の差をすぐに察した獣人戦士たちはアレンたちの行く手を阻むことをしなかったお陰で彼女たちはすんなり上へと進めている。
途中派手な様相をした部屋にたどり着き、中へ入ったが誰もいなかった。ガンツ個人の部屋だったようだ。
上へ上へと進むうちに最上階へたどりつき、闘技場らしき場所へと入る。
「よォ。思ったより早い到着だったな」
アレンたちの目の先には大きな椅子で肘をついて待ち構えているガンツの姿があった。傲慢に満ちた態度に苛立ちを感じながらも、アレンは警戒しながら問いかける。
「まずは、捕らえている仲間たちと会わせて。みんなを解放しろ」
「随分と上からだなァ?テメーらは獣人族の国王様の前にいるんだぞ?」
アレンたちは無言でガンツを睨みつける。どの視線も怒りや殺意が込められたものだ。
「チッ、まあいい。確かにここまで来れたらテメーらがご執心の仲間とやらのことを教えるって話だったなァ。いいぜ、連れてやるよ。あいつらがいるところに」
そう言うとガンツが椅子から立ち上がり、それを持ち上げて無造作に投げ飛ばす。椅子があった床に魔力が込められた手を翳すと床から透明色の円状の放射線が噴き出る。いわゆるワープパネルというものだ。そのスペースはガンツが入っても余裕があるくらいだ。
「こいつに乗ればここから地下へ一瞬でワープすることができる。ついてこい」
そう言ってからガンツはワープパネルに乗って姿を消した。アレンたちは顔を見合わせて頷き合い、同じくパネルに乗る。
するとアレンたちの目に映った光景はさっきまでの闘技部屋ではなく、薄暗くて少し寒い空間だった。ガンツが言った通り、地下へワープしたのだ。
「ここに……いるの?」
「ああ、
ガンツは含み笑いをして答える。その態度にアレンたちは嫌な予感をよぎらせる。
ガンツの後に続いて地下を進んでいく。やがて一つの部屋にたどり着く。
「―――っ。寒い……っ」
中へ入るとさらに気温が下がる。部屋の中には冷凍庫らしき物がいくつも設置されている。
(何かを保存している…?)
ルマンドはそう思案しながら辺りを見回す。ガンツは冷凍庫を一つずつ開放して中にあるものを取り出していく。冷気と血が混じった獣のような臭いがしてアレンたちは顔をしかめる。
「水魔法を応用させて冷凍保存ができる置物だ。ここに食肉をいくつも保存することができるんだこれがなァ」
「…………そんなことより、鬼たちは、生き残りの仲間たちはどこなの?この部屋にいるとは思えないんだけど」
「あァ?何言ってやがる。連れてきてやったじゃねーかよ。
ガンツの歪んだ笑みとともに発された言葉に、アレンは数瞬呼吸を止めてしまった。部屋を見回して最後にガンツが取り出した赤い肉の塊を見る。
「―――――――」
アレン・セン・ルマンド全員が肉塊を目にしたまま固まってしまう。
「ま…さ……か………っ」
センが恐る恐るガンツの顔を見ると、彼は邪悪に満ちた笑みを浮かべながら残酷な答えを告げた。
「鬼どもならここにいるぜ、ちゃんと。ただし、生きている状態でとは言ってなかったけどなァ!」
ゲラゲラと喧しい笑い声をあげながらガンツは手に持っている肉を見せびらかす。
「同胞たちが捕らえてきた鬼どもの半分近くはこうして食肉として加工してやった。こいつらはなァ、最後まで俺たちに反抗的な態度を取り続けた。だからこうして殺して俺たちの食料としてやったんだ!」
呆然とするアレンと口を押えて吐き気をこらえるセンとルマンド。ガンツのお喋りはまだ続く。
「もちろん今も生きている鬼どもはいるぜェ。この地下ではこの空間を広げさせる土地開拓や金になる鉱物の採掘労働なんかをやらせている。最近までは非戦士の同胞どもにやらせていたが、今は労働奴隷と化した鬼どもにやらせている。
その様子を見せてやるぜ」
そう言って水晶玉を取り出しそこに魔力をあてると光り出して大きな映像を映し出す。
そこに映っていたのはガンツが紹介した通りの労働をさせられている鬼たちの姿があった。男女問わず働かされていて、その身はぼろぼろの服しか着させられておらず肌も傷だらけだ。さらには鬼たちの目には生気がまるで感じられなかった。心がすり減らされている証拠だ。