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「3人の将軍」

 場所は変わり、カイドウ王国の地上、カイドウ王国城前――――

 獣人族の戦士たちに囲まれているアレンたちだったが、戦況が大きく変わった。

 クィンがこっそりと信号を送っていたことで、皇雅が移動する直前にサント王国の兵士団が合流したのだ。兵士の数は約300。アレンたちを取り囲んでいる獣人戦士たちの倍以上の数だ。


 「馬鹿な!?人族の兵士団だと!?いつの間にこんなに……っ」

 「どうやら俺たちに感づかれないようにこっそり来たみたいだぞ、ふざけたマネを!」


 逆に取り囲まれることになった獣人戦士たちだが、臆するどころかいきり立っている。降伏勧告など全く通用しないと悟ったクィンは、兵士団長のコザに呼び掛ける。


 「コザさん!作戦していた通り戦います!皆さん、躊躇いは要りません!ここにいる獣人たちはもう人を辞めた化け物も同然です!脳を破壊する以外に彼らを殺す手段はありません!戦争のつもりで戦って下さい!!」


 クィンの声はよく通り、兵士全員の耳に届いた。容姿だけでなく戦闘の実力面での評判も高い彼女の呼び掛けに、彼らは奮起する。


 (士気は十分です。彼らならきっと大丈夫。もうあの時のようにはならないはず!)


 ドラグニア王国での忌まわしく悲惨な出来事を脳裏に焼き付くが払拭する。クィンは仲間たちを信頼することを選んだ。


 「コザさん!お任せしてよろしいでしょうか?」

 「心配は要らん!その仲間たちと共に先へ進め!こいつらは我々が相手する!!」


 コザの叫びの直後に兵士たちも雄たけびを上げる。


 「お願いします!ご武運を!」


 コザに一礼してから、クィンはアレンや美羽と向き合う。


 「ここは兵士団に任せて大丈夫です。先へ進みましょう。

 この国はもう見過ごせないレベルの悪行を積んでいます。私たちで悪を打ち砕きましょう!」

 「ありがとう。一緒に戦うって言ってくれて」


 アレンは嬉しそうに微笑む。


 「………縁佳ちゃん。あなたもこの先へ進む覚悟はある?」


 美羽は心配そうに縁佳に問いかける。


 「………………」

 「甲斐田君が言った通り、あなたに無理は強いさせはしないわ。今までもそうだったけど、ここから先も危険な戦いになると思う。ここから脱出するのなら私が責任をもってそうさせるわ。縁佳ちゃんはどうしたい?」


 美羽は優しい声音で縁佳に問いかける。アレンとクィンも二人の様子に注目している。


 「私も一緒に戦います!先へ進みます!」


 縁佳ははっきりとそう返事した。


 「無理はしてない?」

 「はい。さっきの甲斐田君との会話で何となく分かったんです。甲斐田君がどうしてあんな恐ろしい敵にも立ち向かっていったのかを。

 改めて私は、甲斐田君に勇気づけられたんです。だから、大丈夫です!」


 それを聞いた美羽はうん!と嬉しそうに笑う。


 「あなたを死なせはしないから。私がいる限り、絶対に大丈夫だからね!」

 「美羽先生…!」


 美羽の言葉に縁佳は活気づく。強い信頼関係があるからこその効果だ。


 「あ……兵士の皆さんに、これを!」


 美羽は風魔法で上を飛んでコザのところに降り立つ。そしてそのまま水魔法「聖水」の加護を兵士全員にかけた。


 「これは……!?」

 「変異した獣人たちには私が生成した“聖水”が特効になるんです。あとこれも渡しておきます」


 コザたちに「聖水」と回復薬のストックをいくつか渡す。


 「ありがとうございます!どうかご無事で!」

 「あなた方も、ご武運を!」


 そう言ってから美羽はアレンたちのところへ戻る。彼女たちは既に城へ向かっていた。

 兵士団と獣人戦士たちとの全面戦争が始まり、アレンたちもまた元凶を討つべくいよいよカイドウ王国の城へ入った。


 城の中にも獣人戦士たちが待ち構えていてすぐ戦闘に入る。城の中にいる彼らはモンストールの力を取り込んでいない普通状態がほとんどで、アレンたちが力を見せつけると大半が降伏したり逃げ出したりした。

 ガンツとの戦いを控えていることもあり、戦意を喪失した戦士たちをむやみに深追いすることはせずに上へ目指していく。


 「来たか、侵入者ども」


 下っ端戦士たちの包囲網を突破して上層の階へ進んだアレンたちだが、そこに現れた3人の獣人戦士に行く手を阻まれる。


 「この3人は……っ」

 「うん、強い。それもかなり」

 「地上で戦った“幹部”とかいった連中だよな」


 アレンたちが目にしている3人の獣人戦士からは下の階で戦った下っ端たちを凌駕する存在感と戦気を出している。


 「鬼族よォ、随分調子に乗ってるみたいじゃねーか。王国が成り立って以降ここまでの侵入を許したのは今日が初めてだ」

 「里だった頃も含めるなら、モンストールと魔人族が襲撃してきた日以来か、この失態は」

 「まあ“幹部”の奴らを討ってきたんだ、運だけでここまで来たわけはあるまい?」


 3人とも体も大きく、鬼族の中でいちばん大きいキシリトですら見上げてしまうサイズだ。


 「ガンツはこの上にいるの?」

 「ボス……いや国王様はこのフロアからさらに3階上の部屋にいる。今もお前らを待っているようだ」

 「とはいえ、すんなり先へ行けるとは思わないことだ。というより、お前らが先へ進むことはもうない。ここで全員殺されるか無力化されるからだ」

 「国王様からはてめぇらの生死は問わないと言われているから、殺すけどなァ」


 3人が順番に発言する。全員が猫種という、獣人でいちばん強い種だ。


 「ガンツの前に、お前らを突破しないといけないのね。いったい何者?」


 3人の威圧に臆することなくアレンが問いただす。3人は自信に満ちた笑みを浮かべながらそれぞれ名乗る。


 「“将軍” 豹のジャギー。戦士“序列2位”」

 「同じく“将軍” 虎のロンブス。戦士“序列3位”」

 「同じく“将軍” チーターのハンネル。戦士“序列4位”」


 「将軍」……国王の次に強い階級を示す者。獣人族の主戦力と言われる3人だ。


 「こいつら一人一人が、Sランクの強さを持ってる。“幹部”どものようにいかないのは確実だ」


 キシリトが汗を少し滲ませる。その様子を見た縁佳はここからが死闘の始まりだと予感する。


 「関係無い。みんなでこいつらも正面から破るだけ――」

 「アレン!?」


 アレンが一人飛び出して、ジャギーに攻撃しにかかる。呆気にとられたのは「将軍」たちだけでなく、味方もだった。


 「フッ――」


 ドキャ!! 「げぁ……!?」


 雷の魔力を纏わせた右脚の鋭い足先蹴りがジャギーの鳩尾部分に決まり悶絶させる。


 「(何だこのパワーは!?)ガキ、がぁ!」


 怯んだのは一瞬で、すぐに持ち直したジャギーはアレンの追撃に対応してみせる。しばらく打ち合うが、ジャギーの顔色が徐々に悪くなる。そして先に退いたのはジャギーだった。


 「く………っ」

 「ジャギー?てめぇ程の奴が退いただと?」


 ハンネルがあり得ないと言った表情をする。


 「ぐ……二人とも。あの赤い鬼は要注意だ。この俺だけじゃあ、手に余る強さだ」

 「何だと……!?」


 ジャギーの評価に二人とも驚愕する。一方センたちもアレンの強さに驚いていた。


 「アレン、あなたはもう私たちよりもさらに上の次元に……」

 「みんな。一気に行くよ」


 アレンの言葉に鬼たちは勢いづいた。

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