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「自分自身の為」

 「ケッ!ならそのクソガキはお前さんにやるよ!俺はさっき言った通り、テメーら鬼どもを最上階の部屋で待つとしようか。じゃあな、逃げずに来いよ!!」


 そう言い残してガンツは姿を消した。ワープするアイテムを使ったらしい。残る主な敵は、魔人族ウィンダムだけとなった。奴はさっきから俺に好奇的な目を向け続けている。


 「………まあ。こっちとしても、テメーの相手が務まるのは、俺しかいねーだろうな。

 俺以外の誰かだと、確実に殺される」


 俺の言葉に誰もが口を挟まない。あまりにも正論過ぎるからだ。


 「魔人族の相手は、まだ俺にしか務まらない」

 「コウガ……その魔人は………っ」

 「ああ。以前戦った奴よりも強い。

 それも、無茶苦茶な」


 俺の返答に誰もが緊張し、顔を強張らせる。特に高園は俺を、それからウィンダムを交互に見て顔を真っ青にする。


 「甲斐田君、その人……すごく危険。私は魔族じゃないから戦気?は感じられないけど、これだけは分かる…。

 あの時、初めての実戦訓練の時と同じ…すごく危なくて、死ぬかもしれないってことを……っ」


 彼女の弓を持つ手が恐怖で震えている。高園にとって初めての魔人族との遭遇。奴の規格外の存在感や邪悪なオーラ、何よりもヤバいのは誰でも伝わってくるその「強さ」。それら全てを感じさせられた彼女の戦意はもはや消沈してしまったと言っていい。


 「だめ……甲斐田君が凄く強くなってるのは分かってるけど、その人と一人で戦うのは……っ」


 なのに、戦う意志が折れているくせに、俺が単独で戦うのを止めようとする。


 「止めようとする気持ちは分からんでもない。俺だってびっくりしてんだ」


 高園が俺に詰め寄って袖をつかむ。藤原もクィンも止めようとはしない。


 「逃げてもいいはずだよ?また…あの時みたいに、甲斐田君だけいなくなるかもしれないって思うから!世界の為に戦わなくて良いから、今だけはここから―――」


 ばしんと、高園の手を払う。彼女は呆然と俺の顔を見つめる。


 「まだ勘違いしてんのか?俺はな、こんな世界の為に戦おうとはしてねーんだよ。とっくの昔からずっとな。

 俺が戦うのは―――」


 高園から離れて、ウィンダムと対面する。


 「―――俺が認める仲間たちの為。何よりも、自分自身の為だ!俺の目的の障害となり得る奴が現れるのなら、立ち塞がってくるのなら、この力でぶっ潰すだけだ!たとえ自身の存在を危険に晒してもな!!あの魔人野郎も例外じゃねぇ!!」


 ウィンダムは愉快そうに俺の言葉を聞き、その顔を不気味な笑みでさらに歪める。その余裕に満ちた目を睨み返してやる。


 「高園。テメーは自由だ。国王さんが出した調査任務はもう達成している。ここから先の戦いを避けてここから脱出してサントへ帰るも、アレンや藤原たちと共にこの先の戦いに参加するのも、全部テメーが決めろ。

 俺は…俺の為に、この魔人族をぶっ殺す!」


 高園はしばらく黙ったままでいる。背中に彼女の視線がずっと向けられているのを感じる。やがて意を決した様子が伝わってくる。半分振り返ると彼女はまだ不安が残った目で俺をまっすぐ見つめていた。


 「甲斐田君。今度は絶対に戻ってきて!」


 その言葉にはどこか重みが感じられた。俺は彼女に小さく頷いて応えるだけにした。


 「甲斐田君。また君ばかりに任せきりになってしまってごめんなさい。力がもっとあれば、私も一緒に戦いに行こうとしてたのに……」

 「あれは無理だ。俺みたいな経験をしない限りはあんな相手を務めることはできねー。気にするな。俺の意思で戦うって決めてっから」

 「私も縁佳ちゃんと同じ気持ちよ。絶対にまた私たちにその元気な顔を見せに戻ってきてね…!」

 「ん」


 短く返事して歩を進める。今度はクィンと目が合った。


 「コウガさん…………どうか、お願いします…!をこのまま野放しにしてしまうと、サント王国の危機に繋がるでしょう。どうか、私たちを助けて下さい!頼るばかりで、ごめんなさい…っ」


 悔しそうに懇願するクィンに小さく笑ってしまう。


 「別に頼ってばかりでも良くね。マジでどうしようもない状況なんだし、これって。とりあえず、周りにいるこの獣どもをどうするか考えたら?」

 「ありがとうございます……!それなら問題ありません。


 クィンがそう言うと同時に、何か大勢の気配がこちらに来るのを感じる。遠くを見ると、サントの兵士団がここに来ているところだった。


 「なるほど、既に来させてたのか」

 「私たちは大丈夫ですから、コウガさんは自分の戦いにだけ集中して下さい!」

 「そのつもりだ。健闘を祈る」


 さらに歩を進める。アレンたちがいる。みんなサムズアップをしたり強く頷いてくる。


 「存分に戦え。あのライオン野郎はお前たちできっちりケリをつけてこい」

 「うん。コウガも、勝ってきて」


 アレンと拳を合わせて互いに健闘を祈る。そして一足先に進んでいるウィンダムのところに行く。


 「挨拶は済んだみたいだね。友達がいっぱいいて楽しそうだね、カイダコウガ君」

 「俺の名前知ってたのか。というか、最初から俺のこと知ってるように見えるな?」

 「君のことは少し前から上の方から教えてもらってたんだ。分裂体のザイート様を退けた人族の少年と聞かされた僕は………君のことがずっと気になってたんだ!」


 相変わらず狂気すら感じるその目が気持ち悪い。現代世界だったら絶対に関わりたくない。職質とか絶対くらうタイプだ。


 「なぁ。俺たちがここでガチで戦ったら、みんなをも巻き込んで大変になりそうだから、場所を変えねーか?」

 「僕はどこでもいいけど、君がそうしたいと言うのならそうしようか。じゃあそうだねぇ……“下”へ行こうか」


 そう提案した直後、ウィンダムは突然どこかへ飛び去っていく。しかし姿はしっかり視認することができ、ドス黒い魔力を纏った奴が急降下していくのが見えた。


 「下……なるほど、地底か」


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