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「何をしようとも味方に」2

              *


 (アレンたち、幹部戦士とやらも難無く撃破したみたいだな)


 五感を操作して発達させた目を使って、離れたところにいるアレンたちの様子を捉える。全員今までの戦いによる成長の結果をしっかり出せている。今のアレンたちならあんな程度の連中は余裕だろう。

 それにしてもかなり派手な技を使ってたな。奴らに何か言われてカッとなったのか。


 アレンたちの様子を観察しながら、手にしている獣人どもの脳を全て握りつぶす。

 こっちの戦いも大体終わっている。クィンも藤原も高園もやや疲れながらも敵を全て倒していた。彼女たちに頼まれて、途中から俺も参戦して一気に殲滅した。


 「はぁ、はぁ……ありがとう甲斐田君。お陰でここも無事に切り抜けられたよ……っ!?そ、それ……」


 高園は俺に礼を言おうとするも、俺の手を見て顔を青ざめさせる。自分の手を見て納得して、水魔法で綺麗に洗い流す。それでも高園はドン引きしたままだった。


 「助けたつもりはねーけどな。つーかテメー途中から俺の近くで戦いやがったな?俺を上手いこと利用してダメージ負わずに狙撃してたわけだ」

 「り、利用したつもりはなかったよ?でも、近くにいたことは認めるけど……それは決して下心とかあったわけじゃなくて、甲斐田君の戦ってるところをなるべく見ておきたくて……」


 高園の言い訳をシカトして状況確認をする。黒い瘴気を纏った獣人どもは全滅していて、それ以外の獣人どもはほとんど逃げ出している。また襲ってくる可能性があるが、その時はまた返り討ちにすればいい。


 「甲斐田君って、基本的には素手で戦うの?格闘術しか使わないの?」

 「あ?まぁ基本は素手だな。いちばんやり易いし。一掃したいときは魔法攻撃も使うけど」

 「そうなんだ…。あ、あと……甲斐田君は、戦いで初めて人を殺したのはいつだったの?」

 「………俺のことは今はいいだろ。それよりみんなと合流するぞ。さっさと次へ進む」

 「あ、うん…。ごめんね、確かに今はそんな話してる時じゃないよね…」


 高園に関心を向けることなく藤原とクィンがいるところへ行く。


 「縁佳ちゃんを守ってくれてありがとうね」

 「だから別に守りながら戦ってはねーって」

 「そういえばコウガさん、あなたが討伐した獣人は犬種がほとんどのようでしたが、狙ってやったのですか?」

 「よく見てたな?俺犬という動物が死ぬ程嫌いなんだよね。だから積極的に犬どもを優先に殺した」


 藤原の言葉に否定を示し、クィンの質問に簡単に答えてやりながら(答えを聞いたクィンはかなり引いていた)、アレンたちと合流する。彼女たちの周りを見ると、そこはまさに屍山血河しざんけつがと化していた。俺たちが戦った跡の方がまだましだったろう。死体の数が圧倒的に多く、焼き焦げた地面が広がり、黒ずんだ血が散っている。

 その惨状を目にしたクィンたちはおぞましいものを見る目をしていた。高園は口に手を当てて吐き気をこらえていた。


 「アレンさん、鬼の皆さん……ここまでする必要があったのですか…?」

 「あいつら、見た目だけじゃなく中身も腐りきっていた。人の尊厳を踏みにじるようなクズどもだった。これくらいやってもばちは当たらない」

 「そうかもしれませんが、あなたたちまで残虐な行為をしていいわけでは……」

 「仲間たちを侮辱して虐げてるようなクズどもを苦しめて何が悪いの?同じ目に遭わせることの何が間違いなの?」


 アレンに冷たい視線を向けられたクィンは思わず押し黙る。その迫力に誰もが何も言えないでいる。


 「人間と魔族じゃ価値観も倫理観とかも異なる。憎い敵たちにああいうことをすることは魔族には抵抗が無いんだろーよ。鬼族も例に漏れず。説得するだけ無駄だろう」

 「ですがコウガさん……」

 「今回はアレンたちに任せよう。何をするにしても俺は彼女たちの意思を優先する。たとえ外道なことになってもな」


 俺が完全に鬼族の肩を持つことを理解したクィンは、それ以上の反論を諦めて歩を進める。


 「じゃあ…甲斐田君がアレンちゃんを止める時って、どういう場面なのかな?」


 藤原がささやくように俺にそう尋ねてくる。


 「あいつらが……大切なものを忘れて理性も失った、ただの化け物になろうとした時、かな」


 俺は淡々とそう答えたのだった。



 三度にわたる戦闘をくぐり抜けて、いよいよ総本山である要塞のような城の近くまで到達する。藤原の回復魔法で万全状態になったみんなは調子をしっかり取り戻している。


 「アレンたちがさっき戦ったのが“幹部”っていう階級の戦士どもか。カミラから聞いた話だと、獣人戦士にはそのさらに上の階級の“将軍”ってのもいるらしいな。で、その上がいちばん強いボス……今は国王なのかな」

 「うん。私が戦った“幹部”が“序列”5位とも名乗ってた。だから、強い奴らはあと4人はいると思う。さっきの戦いもまだ前哨戦。本番はここから」

 「ああそうだな。次に出てくる連中には、温存は利かねーと思っていい」


 次の戦いへの心得などを話し合っていると、四度目の集団が現れる。ここまで来ると普通の獣人戦士はもう一人もいない。全員モンストールの力を取り込んでおかしくなったただの獣……いやケダモノどもだ。

 しかしさっきと違って特段強い奴は一人もいない。


 「鬼族ダ……!」

 「捕らえよとの命令だ。殺すなよ」

 「“幹部”たちがいないぞ?いったいどうしたんだ?」


 異様な姿をした獣人どもは何か言い合いながらも武器を構えたり魔法攻撃を放つ態勢にはいったりといつでも飛び出せるようにしている。


 「やっぱりあの要塞城に入らないとトップの連中……鬼族の生き残りたちを管理している奴らには会えないか。じゃあさっさとこいつら全滅させて中へ―――」



 「その必要はねェぞ。俺から来てやったからなァ」


 集団の奥から、地を震わせるような低い声が響く。直後、そこから周囲の獣人どもを圧倒する存在感が放たれる。戦気を感知できるアレンたちは人間である俺たちよりも警戒レベルを上げて油断なく構える。その顔には余裕さが消えて微かに汗を滲ませている。


 「お、大きい。それに、凄く強そう……!」


 続いて高園もアレンたちと同じように汗を滲ませて微かに怯えた反応をする。クィンは剣に魔力を纏い、藤原は魔法杖に魔力を溜める。

 やがて獣人戦士たちをかけ分けてひと際デカい獣人が俺たちの前に現れる。


 「ボ、ボス……!!」

 「“ボス”だァ?それはここがまだ里だった頃の呼び名だろうが。今の俺のことは“国王”と呼べと言ってるだろーがァ。まあいい……それよりも、テメーらが侵入者でいいんだよなァ」


 ギラついた目を向けた獣人……見た目が百獣の王で有名なあの動物の見た目をしたそいつは、


 「カイドウ王国へようこそクズども。

 俺がこの国の王。戦士“序列1位”でもある獅子。

 名は、ガンツだ……!!」


 傲慢な態度で、邪悪なオーラを出しながらそう言った。

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