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「何をしようとも味方に」

 (バカな…!? “限定進化”すら発動していないあんな小娘に、こんな……っ)


 ゴレッドは内心でひどく動揺していた。かつては格上だった鬼族とはいえ相手は自分よりも小さく華奢な女。さらには自分のようにモンストールの力を取り込んでいない格下の相手のはずだ…と。

 なのに追い詰められているのは誰であろう、ゴレッド本人だ。


 「そんなことが、ありえるかアアアアア!!」


 受け入れがたい現実を払拭するべく、自身を鼓舞するように咆哮し、自身の武器である手甲が装着された拳を高速で連続で放つ。


 獣人格闘術 “ドラムラッシュ”


 「音の打撃」を含んだ拳の連打。外部だけでなく内部にも深刻なダメージを与えることが出来る。


 “雷電鎧エレク・アーマ”付与 “驟雨しゅうう

 シパパパパパパパッ


 対するアレンはゴレッドの動きを全て見切って、片腕と蹴りで全ての拳を弾き、相殺した。


 「ぐ………オ……」


 逆にダメージをくらったのはゴレッドで、自身の両拳が半壊している。


 「災害レベルのモンストールをも超えた我らだぞ!?貴様ら鬼族の時代などとうに終わったはずだ!いったい何なんだ貴様はァ!?」


 半狂乱となったゴレッドは喚きながら「魔力光線」を放つ。

 それも見切っていたアレンは「神速」を使ったわずかな動きで難無く躱して、一気に接近する。


 「コウガと旅してから、私は……私たちは幾度となく災害レベルの敵と戦ってきた。最近はSランクモンストールとも戦い、全部勝利した。

 お前たちはどうしてた?ただモンストールの肉を喰って強くなった気になって、私たちみたいに多くの経験を積まなかったんじゃないの?」


 雷の如き速く激しくパンチと蹴りを打ちつける。全て人体の急所を容赦無く突いてゴレッドの体を壊していく。踵落としが延髄にきまり、ゴレッドは顔を地面に打ち付ける。立ち上がることが出来ず痙攣している。


 「モンストールの力なんて無くとも私たちはもの凄く強くなれている。こんな国の中でぬくぬくしてるお前たちに後れをとるわけがない!」


 ゴレッドの顔面をサッカーボールキックの如く蹴飛ばし空へ打ち上げる。


 「それに、私は鬼族の中でいちばん強い。強い私はお前ら相手に“進化”することなく勝つことだってできる!!」


 本当はルマンドの方が強いかもしれないけど…と心の中で呟きながら、アレンはゴレッドへ跳び上がる。

 ゴレッドは「絶牢」で体を固めて防御態勢をとる。その胴体目がけて、左脚に「雷電鎧」を集中させた状態で、アレンは渾身の胴廻し蹴りを放った。


 “薙撃なげき


 ズバァ……ッ 「ごっふッッッ」


 雷を濃く帯びたアレンの蹴りは斬撃性を帯びていて、ガード状態のゴレッドの胴体を容易に真っ二つにしてみせた。上半身と下半身が別々に自由落下して地に落ち、夥しい血が地面を赤黒く染める。


 「お……の………れぇ………………」

 「脳を完全に破壊しないと死なないんだよね」

 「獣人族、の時代は………すぐそこだ――――」


 グシャ…ッ


 アレンは虫けらを見る目でゴレッドの頭部に踵を落として粉々に潰した。


 「モンストールの力を取り込むなんて………お前らはもう終わってる。人としても、魔族としても」


 冷たく吐き捨てて血を払う。アレンのもとに7人の鬼たちが集まる。彼女たちも幹部たちを全員討伐したところだ。


 「そんな馬鹿な……幹部の戦士たちを4人も……ッ」

 「たった8人で、幹部を4人だと…!?や、ヤバいよぉ」

 「怯んでんじゃねぇ!数はこっちがまだ上だ!あいつらもゴレッドさんたちとの戦いで消耗してる!殺すなら今だ!」


 怖気づく獣人と未だに殺気立っている獣人が半々。その違いは黒い瘴気を纏っているかいないかだ。


 「戦う前に聞かせて。仲間たちはさっき通った場所のどこかにいるの?それともこの先にいるの?」

 「テメーらに教える義理はねぇ。ただまぁ、あいつらにはある程度苦しんでもらったかな」

 「………ルマンド。お願い」

 「うん。そのつもり」


 顔をあげたルマンドの表情は―――


 「な―――っ」

 「ひ―――っ」


 まさに、般若の如くだった。そしてそれが、周囲にいた獣人戦士たちが目にした最期の光景だった。


 “嵐波吹雪ブリザストーム


 「神通力」を含んだ嵐の吹雪は、獣人戦士たちをあっという間に飲み込み―――


 「「「「「―――――――」」」」」


 血の吹雪が空に舞った。



 それから数秒後、アレンたちの周りにいた獣人戦士たちは全員原型をとどめておらず、彼らの肉片と骨片が散らばっていた。


 「行こう。この腐りきった魔族のいちばん強い奴のところに」


 アレンの言葉に全員が頷いた。

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