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「限界を何度も超えて」

 ザイートはこっちの動きにすぐ対応できるよう待ち構えている。このままぼさっとしていられない。頭を働かせて次の行動をどうするか思考する。

 「限定進化」を発動する前に奴を殺す。困難だがこっちの方が攻略難易度はまだ低めだろう。リミッターをさらに解除して、超強力技を叩き込んで即死させる。これでいこう。まずは奴の体力をある程度減らしていったあとに止めを一気に刺す。もし途中で切り札発動する素振りを見せたら、即座に殺しにいく!

 そうと決まれば、早速攻撃に出よう。ザイートに接近して、風の刃を纏った足刀蹴りを繰り出す。対するザイートも「武装硬化」した足刀蹴りで迎え撃つ。

 互いの蹴りがぶつかると、火花が散り、空気が割れるような音が大きく響いた。五度蹴り合い、その度に空間に皹を入れたような感触と、空気を斬ったような感触がして、もの凄い斬撃音や爆音が響いた。

 蹴り合った次は、拳打の合戦だ。「複眼」をもってしても、奴の拳を躱しきることはできなかった。お互いに数発ずつくらって、俺の体の部分のいくつかが消し飛んだ。

 だが、消し飛んだ部分は数秒で元通りになった。以前よりも早く身体の再生が早くなっている。これも強化された「自動高速回復」のお陰だ。

 対するザイートは、体の至る所に拳大の風穴が空いていた。今の俺が本気で殴れば、どんな生物も消し飛ぶ威力だが、奴相手では穴を空ける程度か。まぁそれでもかなりのダメージだと思うが。


 「ようやっと、テメーに結構なダメージを入れることができた……!この調子でテメーを破壊して、死んでもらうぞ」


 休ませる間も無く、ザイートに接近し、至近距離で魔力光線を放つ。それに対するザイートは全身に色のついたモザイクのようなものを纏わせて、そのまま素手で光線を容易く受け止めてかき消してしまった。


 「言い忘れていたが、俺に魔法や魔力光線はほとんど効果が無いと思った方がいいぞ?理由は、ステータスを覗いたお前なら分かるだろ?」


 そう言われて思い出した。奴の固有技能「魔法弱体化鎧マジックアーマー」。あれで今の光線を弱めたのか。まさか、魔力光線にも効果を発揮するとはな。


 「なら、結局はこいつ《素手》で攻める他が無いってか」

 拳を掲げて俺は苦笑いする。問題無い。むしろ得意分野さ。


 「またあの妙なカウンター技を繰り出すつもりか?ならばこちらから殴らない、あるいは魔法で攻めればくらうことはあるまい。あれは厄介だからな」


 俺のカウンター技を厄介認定してくれたお陰で、奴はもう格闘戦に持ち込むつもりがないと分かった。それこそ俺にとって厄介だが、あのオリジナル技が受けの場合のみしか使えないなんて、誰が言ったよ?


 「そっちから来ねーのなら、こっちから攻めるとするよ。カウンター技だけが取り柄だと、思わねーことだな」


 そう言って俺は「連繋稼働」を発動。右足に体重を乗せて踏み込んで、腰→体幹→左肩→左肘→拳へと、溜めた力をパスしていき順に加速させて、旋回。「瞬神速」でザイートの懐に入り、渾身の左ストレートを放つ!


 “絶拳”


 ザイートの腹に拳が入った瞬間ズドォンと爆音が鳴る。手応えはあったが奴の体は破壊出来ていない。


 「ぐ、う……お前が主体の攻撃も、強いのを持ってるそうだな……。けっこう効いたぞ。だが、それで倒れる俺ではないぞ!」


 スパァン!「うおっ!」


 直後、奴の不意打ちの蹴りで、俺の両足が切断される。蹴りといっても、剣と武装化した状態でだ。その場で地に膝をついた俺の顔面を鷲掴みにして、そのまま漆黒の魔力光線をくらわされる。光線が消えた頃には、俺の頭が吹っ飛んでいた。

 そこで終わりではなく、ザイートはさらに追撃にかかる。両手を剣に武装化させて、俺の体をバラバラに切り刻む。そして地に手をついて、大地魔法を発動。真上から大量の岩石が降り注ぎ、俺の体を下敷きにした……。


 「これでさっきみたいに動けまい。しばらく……いや、このまま放置してれば永遠に復活することはないか?詰みだな」


 そう言うザイートは、額から汗を大量に流して息を切らしている。先程から皇雅の大技を何度もくらっているにも関わらず、その体には傷が無い。それは、奴の固有技能「超高速再生」による回復魔法だ。

 瘴気が充満した地下深くの暗闇で遭った時、皇雅の捕食によるダメージを一瞬で治したのも、この技能によるものだ。

 ただし、この技能を発動させるとかなり魔力を消費するのがデメリットだ。


 もっとも、回復魔法に加え、攻撃魔法の連発でザイート自身かなり消耗はしている。普通の人族や魔族ならとっくに干からびてるくらいの魔力を使っているから無理もない。


 (おかしいのは、ゾンビの俺だけなんだからなッ!!)


 進化した今の俺は、バラバラにされても、首無しにされても、肉体の一部さえあればそいつを動かせることが可能になったのだ。どこのバラバラ能力を宿した海賊だっての。

 手、肘、脚、腹、胸。全て別々に力を発揮して、邪魔な岩石を吹き飛ばす。

 周囲の岩が全て弾き飛んでいく様を驚愕に満ちた眼で見ているザイートを視界に捉えた俺(完全再生している)は獰猛な笑みを浮かべる。


 「ゾンビとやらは、ここまでデタラメな不死性と再生能力を兼ね備えているのか…。俺の肉を喰らってさらに滅茶苦茶な存在と化したなぁ、お前は」


 ザイートは苦笑いを浮かべて呆れ混じりに言った。


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