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「反撃の嚆矢」2

 「アレン、分かってるだろ?奴の戦力。今のアレンたちでも、奴には敵わねー。お前らが以前苦戦したGランクモンストールの群れはもちろん、Sランクモンストールよりも強いぞ、奴は。殺したいって気持ちは汲んでやれるが、実力が違い過ぎる。死ににいくのと同じだ」

 「コウガ……」

 「「………」」


 アレンは振り返って俺を見つめる。悔しさを滲ませているのを見るからに、赤髪魔人との格差を理解はしているみたいだ。だからこそ、敵わないと悟ってしまった自分に怒り、悔しがらずにはいられない様子でいる。センとルマンドも同じようだ。


 「残念だけどコウガの言う通り、だね。しかももう一人、目の前にいる男よりもっとヤバいのがいる。私たちを瞬殺できるくらいに強い……」


 センが戦慄しながら事実を呟く。


 「あの強さにもはやランクなど無意味かもしれませんが、あえて評価するなら、あれは幻とされている“Ⅹランク”あるいはそれ以上のランクに値する大災害レベルと言っていいと、思います」

 「Ⅹ、ランク……!」


 話にミーシャが入ってきてそんなことを言う。アレンたちは戦慄した様子で赤髪魔人を見据える。


 「なら、やっぱりここは俺がやるしかないよな」


 完全に再生した体を軽く動かして準備をする。戦いの準備を!

 俺たちを見ていた赤髪魔人は、ニヤリと笑って俺たちの後方……王妃と王子のところへ移動した。


 「あ………っ!?」

 「お前らよりまずは、ドラグニアの王族どもから処分させてもらう」


 その手に魔力を纏わせて、王子に突き付けようとしている。


 「馬鹿が。俺に隙を思い切り見せやがって。テメー程度なら今の俺でも勝てるんだぜ……!!」


 言い終えると同時に、脳のリミッターを限界1000%まで一気に解除する。同時に体の崩壊が起きるが、大丈夫間に合う。奴を殺すだけの時間はある!

 「瞬足」で一瞬で赤髪魔人のところへ移動して、全身の筋肉をフルパワーで動かす。


 (王子は、ダメだな。奴が殺す方が早い。まあ死んでもらって結構な奴だし。

 じゃあなクソ王子)


 赤髪魔人の貫き手が王子の心臓を貫いて、潰した。


 「ご………………あ”……っ……………………」


 マルス・ドラグニアは絶命した。

 そして同時に、隙だらけとなった赤髪魔人に、俺の“捕食”攻撃が見事に決まった!


 ブチィ……!

 「かっ…………あ”っ」


 首を喰い千切られた赤髪魔人は、何をされたのか分からないって顔をしている。やがて首からえげつない量の血が噴き出て、力無く倒れる。


 「バカ、な………魔人族、である……こ、の……俺……が…………」


 血の泡を吹いて苦しんでいるところにさらに追撃をかける。肩の部分も勢いよく喰い千切ってさらに“捕食”する。その一撃を受けた赤髪魔人は死んだ。Ⅹランクとはいってもコイツはその下級クラスってところか。1000%で挑めば余裕で討伐できた。

 そしてリミッターを最大限に解除したツケとして体の完全崩壊が始まったが、それを塗り替えるレベルで別の現象が発生した。

 そう……「レベルアップ」だ!

 全身から赤い瘴気っぽいのが発生して、肌も変色していく。自分が別の種族になっていく感覚だった。

 赤紫がかった線がはしる筋肉質の身体。そんなに見た目は変わっていないが、中身が大きく強く変化したのが分かる。


 (レベルアップのお陰か、体の崩壊が止まった。それどころかさらに強い体へと変貌した?)


 直感で分かる。魔人族の肉を捕食する前の自分よりもさらに強くなっていると…!


 「お前の気配が変わったから急いで戻ったが……なるほど、ランダの肉を喰らって強くなったわけか。しかもあいつを殺してもやがったか…」


 すぐに感づかれたようで、ザイートが戻ってきた。


 「あいつも、魔人族……!」

 「何……この戦気…!?こんな奴が、いたなんて……!」


 ザイートを目にしたアレンたちは戦慄する。奴の戦気を前にして絶望しかけている。


 「私の仲間たちを……増援に来た兵士の方々を、よくも……!」


 クィンが怒りの声をザイートに浴びせるが当の本人は無関心そうにしている。


 「骨の無い連中だったな。ああ全員は殺してないぞ。途中で切り上げたからな」


 無神経な発言にクィンがさらに憤るが、自分では敵わないとすぐに悟ってそれ以上踏み込めないでいる。


 「それでいい。あの化け物の相手は、同じく化け物クラスになった…この俺が相手する」


 クィンの肩を軽く叩いて下がらせる。後ろからかすかに泣き声がしたが振り返らない。


 「さて、ステータスはどうなったかなっと…」


 体をバラバラにされたが奇跡的に無事だったステータスプレートを取り出す。それを見たザイートが声をかけてくる。


 「そのステータスプレート…もとは魔人族の技術によって生み出された物だ。魔力を込めた世界一頑丈な鉱石を素体にしているから、壊れることはない。

 だが、そのプレートは随分安っぽい素材でつくったようだな?お前、自分の種族が屍族だってこと知らなかったのだろ?なら復活してからそのプレートに己の血を流してないだろ?」


 ここでまたザイートが新事実を明かす。プレートを見るとそこには種族が人族、職業がゾンビと、変わらず記されている。

 だが…それが正しくない表記だとすれば、このプレートが俺のステータスを正確に計っていないのだとしたら?

 ザイートが言ったことを思い出して、俺はプレートに自分の血を垂らす。するとプレートが淡く輝き、色々内容が書き換えられていった。すぐに、俺の正しいステータスが、映し出される。



カイダコウガ 17才 屍族 レベル600

職業 片手剣士

体力 1/88800

攻撃 66500(7589000)

防御 53000(6729000)

魔力 50000(6576800)

魔防 51200(6615700)

速さ 78700(9960000)

固有技能 全言語翻訳可能 逆境超強化 五感遮断 自動高速再生 過剰略奪オーバードーズ 制限完全解除  不死レベル3(最大) 瞬神速 身体武装硬化 魔力防障壁 迷彩(+認識阻害、擬態) 複眼 夜目 危機感知 気配感知(+索敵) 早食い 鑑定 見切り 剛撃 炎熱魔法レベルⅩ 嵐魔法レベルⅩ 水魔法レベルⅩ 重力魔法レベルⅩ 大地魔法レベルⅩ 暗黒魔法レベルⅩ 魔力光線全属性使用可 武芸百般 技能具現化 未来予知



 とうとう人族と表記されなくなり、俺は屍族となっていた。レベルもかなり上がり、能力値も固有技能も色々変わった。

 まず「逆境超強化」。超という文字があるだけに、能力値に大きく変化が見られた。

 今までの逆境強化では、能力値が十数倍くらい強化される仕様だったのだが、今では、数百倍も上昇している。今の俺の能力値は七桁台になってしまっている。


 次に「過剰略奪」。その性能も大きく強化されていた。

 従来の「略奪」は、相手の固有技能をその性能のまま奪うものだったが、今のこいつは、奪った技能の性能を強化して書き換えることができる。奪って強くさせる、なんてせこい技能だ。


 さらに「制限完全解除」。今までは1000%までが、リミッター解除の限界値だったが、これでさらに数倍、数十倍へと強化できるようになった。

 強い…まだまだ強くなれる。ここからでもさらに強くできる。

 ザイートの肉も全部喰らえば、もっと強くなれる…!


 「凄い……!コウガ、とても強くなってる」

 「な、何なのコレ……常軌を逸し過ぎてるわこんなの」

 「こんな数値とこんな数の固有技能初めて見たわ…!」


 鬼三人娘がプレートを覗いて驚愕したり引いたりしている。クィンやミーシャはそんな心境じゃなかったそうで、見てはこなかった。


  「よし、これならテメーに食い下がるくらいはできるだろう。途中テメーの肉も喰って、ぶっ飛ばしてからぶっ殺してやる!」


 「面白い……ならその力を俺にぶつけてみろ。そして今度は二度と反撃できぬよう、細切れにした後は瓶詰にしてやろう」


 両者ともに戦う気配を出して殺気をぶつけ合う。二人の対峙を全員が威圧されたのか緊張していた。

 チラとアレンたちを見てからザイートに提案を出す。


 「ちょっと移動させてくれ。テメーの攻撃の余波でみんなを死なせたくない」

 「お前の攻撃の余波で死ぬかもしれないぞ?まあ別に構わないが」


 ザイートは地面を一蹴りでここから消えるように飛び去った。俺も行こうと思ったところにアレンたちから声をかけられる。


 「コウガ、勝ってきて」


 アレンが力強くそう言ってくる。センとルマンドも頷いている。


 「コウガさん、あなたに頼むのは違うのですが……仲間たちの無念を晴らして下さい。そして、無事に戻ってきて下さい!」


 涙の痕がついた目を見せて俺にそう言ってくるクィン。


 「カイダさん、あの魔人族に対抗出来るのはこの世界では恐らくあなたしかいません。どうか、あの魔人の討伐を…。そして、後であなたにお礼をさせて下さい…!」


 国王と王子の死を未だに 引きずっている様子のミーシャ、が弱弱しい声音を振り絞って俺に託しごとをした。


 「今から本気出して戦ってくる」


 俺はみんなの言葉に対してそう短く返して、戦場へ飛び立った。


 この世界のラスボスであろうクソチート魔人のザイートに、再び挑む――!


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