「お父、様………っ」
「あなた………!」
「ひぃ、ひ、いぃい………!!」
ミーシャと王妃は絶望した顔をしてクズ国王の死体を凝視している。王子は恐怖のあまり上から情けない声を、下から尿を漏らしている。
「さて、次は王子といこうか」
ザイートにぎろりと睨まれた王子はとうとう絶叫しながら命乞いをし始める。
「止めろ、止めてくれ…!!お前に服従するから、殺さないでくれ!!」
「俺は人族の奴隷など要らん。魔人族は人族と他の魔族の根絶が目標としている。諦めて死ね」
ザイートに冷たくそう言われた王子は、涙を流しながら俺を見てまた叫ぶ。
「カイダコウガ、頼む何とかしてくれ!!余を助けてくれ!!救助の礼なら後で必ずすると誓う!!」
さっきのクズ国王といい、何で今の俺に助けを求めるのかねぇ?で、答えはもちろん…
「さっきも言ったろ?テメーも見殺しにするってよ。言われた通り、諦めろ」
そう言われた王子は絶望した顔をする。
「そもそもテメー、俺にしたこと忘れたとは言わせねーぞ?実戦訓練の時、負傷して動けなかった俺をモンストールごと地底へ落とさせたのはテメーだっただろ。テメーがあいつらに俺を見捨てることを選ばせたんだ。テメーの命令が俺を殺したのと同義だ」
もっとも、コイツの命令が無くてもあいつらは俺を見捨てたと思うが。
「だから今度はテメーが見捨てられるんだよ。この俺にな」
「そんな………!?頼む、考え直してくれ!!あの時は本当に仕方なかったんだ!きさ……君を救助する余裕などあの時にはなかった!救世団からさらなる犠牲が出る可能性があった、避けられないことだったんだ……!!」
必死に弁明するが、俺は聞く耳持たずだ。
「確か……あんなハズレ者が今後の戦いで活躍するとは思えない。ここで死ぬのも、遠くない未来で死ぬのも同じだ。召喚にいくら時間と努力、魔力を費やしたと思う?身を削る思いでようやく叶った召喚かと思えば、あんな男が混ざっているとは。不要な駒はここで切っておくべきだ……だったっけ?
見捨てる前に俺にそんなこと言ってたよな?」
「それ、は………」
「同じだ。テメーが将来この世界で活躍するとは思えない。今度は俺がそう判断して、切り捨てることにする。じゃあな」
「待って……くれぇえええ!!」
王子はまだ縋るように呼び掛けるが知らん。そんな俺をクィンやミーシャが複雑そうに見てくるがそれも知らん。
「頼む、助けてくれ……ミーシャ、母上……!!」
「マルス……!お願いです、マルスを殺すのはどうか……!!」
王妃が王子のもとへ駆け寄って殺すのを止めるよう懇願する。意味無いと思うのだが。
「ん……?」
その時、魔人族どもが別の方向に顔を向ける。その方角からはいくつもの人の気配がする。
あれは……全員武装しているな。ドラグニアの兵士がまだあんなに残ってたのか?いやあれは……
「もしかして、サント王国兵士団からの増援!?」
クィンが声を上げる。やっぱりそうか。そういえば増援が今日中にここに来るって言ってたな。ただ……タイミングは良いとは言えないな。
「クィン……あいつらを戦わせても、こいつらには無意味だと思うぞ。きっと死体の数が増えるだけだ」
「そ、れは…………くっ」
俺の言葉にクィンが反論しかけるが止める。俺が正しいとすぐに分かったのだろう。
「分かってるじゃないか。だが少々うるさいな。少し相手してやるか」
「なっ!?止めて下さい!!」
「敵に頼みごとか?笑わせてくれる」
クィンに蔑みの視線を向けてから、ザイートはここへ向かってくるサントの兵士たちのところへ向かった。
「皆さん、ダメです!!逃げてえええええええ!!」
クィンの叫びも空しく、ザイートと兵士軍は接触してしまい、戦いが始まった。それを見たクィンは膝を地につかせて愕然とする。
「なら、俺が処刑の続きでもしようか」
残った赤髪魔人が、手に魔力を溜めて王子と王妃に近づく。王子は何か喚いて足掻き、王妃はそんな王子を庇うように抱いて震えている。あんな奴でも母親である以上は身を挺して守ろうとするんだな。
「お母様、お兄様……!どう、すれば…………っ」
ミーシャは二人の危機を前にしてもどうすることができず、泣いてパニックを起こしかけている。
赤髪魔人が二人に照準を定めたその時…
「!何で来たのかは分からないけど、良いタイミングだ…!」
「気配感知」で気付いた。数は三人。そしてうち一人が加速してこちらに急接近して、
鬼族拳闘術『
「が……!?」
赤髪魔人の側頭部を、雷を纏ったつま先蹴りが正確無比に射抜いた!
ドキュウウゥンという音とともに、赤髪魔人はもの凄いスピードで真横へ吹っ飛んだ。
「よく来てくれた。」
赤髪魔人を蹴り飛ばした乱入者に、俺は友好的に話しかける。
「うん、助けにきたよコウガ。今度は私が助ける番!!」
俺の仲間………アレンが、来てくれた。俺のところへ来るなり俺を縛っている雷の縄を切ってくれる。「限定進化」を発動している彼女だから簡単に解いてくれた。その一連の流れを、ミーシャは驚愕したまま見つめていた。
「コウガ………こんな酷い状態にされて、かわいそう。というより、凄く凄く強いコウガがこんなにやられてるなんて……」
「ああ、かつてないもの凄いヤバい強敵が現れた。さっきは負けちまったが、次は………どうにかする」
正直さっきまでは心が折れかけていた。ザイートという異次元の化け物に圧倒されて拘束されて再生も出来なくなって、もう詰んだと思ってた。
けど今は……アレンのお陰で、このヤバい状況をひっくり返す可能性を見出した。
やってやろうじゃねーか。もう一度あのチート魔人に挑んで、一泡吹かせてやる!!
「くっそが……!魔人族であるこの俺を蹴り飛ばしやがるとは……!」
赤髪魔人が戻ってくると同時に俺の体の再生もほぼ完了する。体の再生現象を初めて目にしたミーシャが目を見開いてちょっと引いているがどうでもいい。
しかし、赤髪魔人を目にしたアレンの様子が一変する。
「あいつ、は………!?」
アレンの目には驚愕だけでなく……憎悪に満ちた炎が灯って見える。次第に形相も憎い敵を対面したのと同じものとなった。
「知ってる奴なのか?」
「鬼族の里の……仇!人型のモンストール…!!」
その言葉を聞いて思い出す。アレンは過去にモンストールどもに里を滅ぼされ、家族も殺されたという話を。
(そうか……鬼族の里を滅ぼしたのは、魔人族だったのか)
奴の姿を見てあんな反応をしてるってことはそうなのだろう。ただアレンは魔人族のことを知らないらしい。奴をモンストールだと思っている。
「アレン、奴がお前の復讐相手なのか?あとあいつはモンストールじゃない、魔人族っていう昔いた魔族らしい」
俺の問いにアレンは答えない。余裕がなくなっているっぽいな。
「魔人族なのあれ…!?滅んだはずのあの最悪な奴がまだ存在していたなんて……!」
「けど……五年前に襲ってきたあの化け物とは、違っているような……」
代わりに今来たさらなる助っ人、センとルマンドが答える。ここに来たのはアレンとこの二人だけのようだ。
「あいつが里を滅ぼしたかどうかなんてどっちでもいい!いずれにしろあの時の仇の関係者に決まってる!絶対に、殺す!!」
あんなに感情をあらわにするアレンは初めて見る。彼女の言葉を聞き取った赤髪魔人は訝しげにする。
「里を滅ぼした?俺が?人違いだろ。いや待て、あいつらは…鬼族?しかも金角鬼までいやがる!?まあいいか、全員殺してしまえば良いだけだ」
「やってみろ……!!」
挑発に乗ったアレンは闘気と殺気を発して戦闘態勢に入る。センとルマンドもやる気だ。
けど……今のアレンたちじゃ、奴には勝てねー。