「ふ、ざけるな……!そんなことが……許されるわけが、なかろう……っ」
王としてのプライドか、国王は未だに折れた様子を見せることなく、痛みで顔を歪めながらもザイートを睨みつける。
一方の王子は、あれはダメだな、完全に折れてやがる。恐怖してビクついてやがる。
「殺される……!ち、父上、誰か……助けてくれぇ……!」
「マル、ス…!貴様はそれでもこの国の王子か!?世界の敵であるこやつらにそんな弱い姿を、見せるな……!」
「くくっ、そう言ってやるなよ国王さんよぉ。このガキは俺やザイート様のような、本物の化け物レベルの強さを持った奴を初めて見たってんだから。魔人族についても今日まで知らなかったそうじゃねーか。酷いよなぁ、自分の子供にそんな重要なことを教えてなかったなんて」
「黙れ……!この、国賊が……(ドギャ!)……がへぁ!?」
ザイートが国王の顔面を地面に打ち付けて黙らせる。国王の顔からは血がボタボタ流れ出ている。
「ガキや女房の前で威厳を保つのは大変だよなぁ?本当はお前も恐怖で震えているくせに」
痛みでうずくまっている国王を面白そうに見下してザイートは再び嗤う。
今のこいつらには悪意しかない。国王と王子に痛みと屈辱を与えることが楽しくて仕方がないといった感じだ。悪い趣味してやがる。大西どもをさらに悪くしたような奴らだ。
「く、そ……!誰か、この魔人族どもを討伐しろ……!誰か、いないのか…!?」
血まみれの顔を上げてザイートたちを討ってくれそうな奴を捜し出す国王。ミーシャと王妃を視界に入れると失望した目をしたが、俺とクィンを目にした瞬間わずかに顔を醜く歪める。
「カイダ、コウガか……!貴様に頼むのは、不本意の極みだがやむを得まい……今すぐこの二人を討つのだ!報酬は貴様が望むだけ全てくれてやる!だから我らの為に、動くのだ……!」
この期に及んでまだ俺に対して上から物を言うクズ国王に、俺は怒りよりも呆れの感情が勝った。俺がこいつらの麾下から抜けたことを忘れているとか以前の問題に…
「テメー俺の状況が見えてねーのか?俺もこの魔人族にやられてんだよ。しかも身動きも出来ない」
俺の言葉にクズ国王は歯を軋らせて地面を殴りつける。
「使えぬ、者め……!ならばクィン兵士団副団長!我とマルスだけでもここから助けだしてくれ!せめて逃走くらいは成し遂げられるだろう!?」
今度はクィンに助けを求める。その要求内容も意味が分からないものだった。
「あなた方二人だけを…!?ミーシャ王女とシャルネ王妃はどうされるつもりなんですか?」
「二人は……置いて行け。仕方なかろう……!その二人よりも我とマルスの方が人族にとってまだ有力となる。使える者を生かすのは当然のことであろう……!」
「そんな……自分の妻と子をそうやってあっさり切り捨てるなんて……!」
「「……………」」
クズ国王の言い分にクィンが唖然として、ミーシャと王妃は悲しげに俯いている。つーかそんなこと言ってる場合?
「私には……それは出来ません。逃げることも、この者たちから逃げられる気が……しません」
「おのれぇ!どいつもこいつも……!!」
「あ………ああ…………っ」
クィンの拒否にクズ国王は憤り、王子は情けなく狼狽する。
「ははは!そこの女兵士の言う通りだ!逃がすわけねーだろ。俺から逃げ切れると思うな。
それよりも、国王さんよぉ?お前みたいな奴がよく国王なんかやってんだな?」
その意見には同意する。
「王宮で戦った時もそうだ!こいつ、何食わぬ顔で自分の部下どもの命を贄にして神獣を召喚しやがったんだ!まるで消耗品を当たり前に使うかのようにな!敵ながらなんて奴だと思わされたぜ!」
赤髪魔人の言葉を聞いたミーシャと王妃は衝撃を受けた表情をする。クィンも信じられないといった顔をしている。
「だま、れ…!部下や民が…我の為に犠牲になるのは当然だ!我が死ぬことは、国の死と同義になるのだからな…!あ奴らの命は、使われるべくして使われたに過ぎぬっ」
「そんな……!」
「………………」
ミーシャと王妃は完全にドン引きしてんじゃねーか。魔人族ですらどうかしてるって言うくらいだもんな。俺もうっわ……って思ってるし。
「はっ!その使われるべくして使われた命も結局無駄に終わったよな?俺に無様に負けてこうなってるんだから、はははははは!!」
赤髪魔人はクズ国王を指差して嘲笑いまくる。ザイートも愉快そうにほくそ笑んでいる。
「そんなことは、どうでもいい!!カイダコウガ、その拘束をどうにか解いて我らを窮地から救うのだ!!この状況をどうにか出来るのは貴様くらいしかおらぬだろう!?」
クズ国王は再び俺に偉そうに助けを求める。当然俺の答えは……
「嫌に決まってんだろ、このクズが」
拒否だ!
「な………んだ……と?」
「仮にこの拘束が解けて万全状態だったとしても、誰がテメーなんか助けるかよ。テメーもそこのクソ王子も、全員見殺しにしてやるよ」
体が自由ならここで中指を突き立ててやりたかったが今は不可能だ。
「貴様……我を誰だと………人族にとって我はなくては―――」
「要るわけねーだろテメーなんか。テメーなんかいなくてもこの世界はきっと普通に動くっての。俺はテメーやクソ王子を生かすよりもそこのお姫さんを生かした方が世界にとって有益だって思えるね」
「な………っ」
ミーシャに差した指を、クズ国王はここで初めて絶望した顔をして呆然と見つめる。
「ははは!希望潰えたり、だなぁ?なんて無様な国王だ、人望無さすぎんだろ!?」
「ふ………ではそろそろ国王の処刑をするとしようか」
ザイートが手から黒い剣を形成してクズ国王の足元へ移動する。
「おのれ、おのれおのれおのれ………!!」
ザイートが剣を振り上げるのを目にしたクズ国王は、顔を醜く歪めて壊れた機械のように恨み言を漏らす。
「そんな、お父様……!!」
「っ……!!」
ミーシャと王妃は顔を青ざめさせてその光景を見ている。本当は飛び出したいと思ってるんだろうが、相手が相手なだけあってそれが出来ずにいる。
「滅べ、大国の王よ」
「おのれぇぇえええええええええ―――」
そして、クズ国王ことカドゥラ・ドラグニアは、ザイートの剣によって斬られて、絶命した。
ドラグニア王国が滅んでいく様を、俺たちはただ見てることしか出来なかった。