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「魔人族と屍族」2

 「気になることがある。異世界召喚された戦士どもによってテメーは死にかけ、魔王は討たれたって話だが、そいつらは今のテメーを瀕死にさせるくらいに強かったのか?今の俺よりも、はるかに強かったのか?」


 俺の顔を少し見つめて、ザイートが答える。


 「いや、お前程ではなかったが、確かに強かったな。さっきお前が葬った同胞たちを簡単に倒すだけの実力はあった。あの時の俺だったら、とっくにお前に殺されていたさ。

 そうだな…。次はいよいよ、お前らが言うモンストール…屍族が誕生したことについて話すか。百年程前…俺たちが戦争に敗れて地下深くへ逃げて、そこから何が起きたのかを、な。当然そこの王妃にも知らされていない話だろうよ」


 ザイートは咳払いして俺とミーシャを見ながら話し始めた。


 「俺たちが逃げた先は、カイダ、お前も行ったことのある深い深い地下だ。

 ああ、言っておくが、当時のあそこには、あの瘴気は無かったからな?


 あれは、俺たち魔人族が人工的につくった産物だ」


 「え…!?」


 ミーシャが驚きの声を上げるも、ザイートは構うことなく続ける。


 「俺たちが拠点を張った当時、あそこには魔物以外は何も無かった。魔物どもを支配して、そこから十数年間…俺たち生き残りは戦争の傷を癒すことに時を費やした。それ程までにダメージはデカく深かったからな。傷が癒えてからは各々勝手にさせていた。お前ら人族や他の魔族どもに復讐すべく鍛える者、復讐は諦めて地下での隠居生活をする者、何をするでもなくただボーっとしていた者、色々だ」

 「そんな中で俺は、力を求めて研究と実験に漬かった日々を送っていた。その題材は、“圧倒的な力”だ。人族の切り札である異世界の戦士どもを殺すには、普通の鍛錬では奴らを上回ることは到底不可能に思えた俺は、鍛錬とは別の方法で強化できないか模索していた」

 「そしてその答えにたどり着いたのが、地下にあったとある鉱石だった。研究に頓挫し、地下の探索の途中で見つけた漆黒の鉱石だ。俺はそれを“魔石”と名付けた。まぁ適当に付けた名だ」

 「魔石を持ち帰ってその石を解析した結果、魔石にはあらゆる生物を強化させることができる成分が含まれていることが分かった。

 さらに調べてみると、魔石の成分は死体にも効果があるということも分かった」


 死体の単語に俺は眉をピクリと反応させる。魔石の成分は、こっちの世界で言うドーピング薬だろう。それが死体にも効くだと…?この時点で察しがついたのだが、話を最後まで聞くことに。


 「だが魔石の成分で強化するには、その摂取方法に条件があった。魔石そのものを気化しなければ効果が無いようでな。身体に直接取り込んでも、溶かして液状で摂取しても何の変化が見られなかった。石を細かく砕いて加熱して気化させたものを吸い込むことで、魔石の強化成分を完全に摂取できたわけさ。それを明らかにしたのは、今から大体五十年程前だったな。その頃に俺たちは満を持して気化した魔石を取り込んだのだ」


 「だが、全員が強化に成功できたわけではなかった」


 「大きな何かを得ようとするには、リスクが伴うものだ。あの魔石には強化成分があるが、その副作用として身体の細胞が破壊されることが分かった。その痛みを耐えた者が、圧倒的な強化を遂げられる。

 魔石を気化したものを俺は、“瘴気”と名付けた」

 「それは奇跡の力を授けると同時に死のリスクをももたらすものという意を込めてな。

 瘴気を発生させたことでさらに多くの同胞を失う羽目に遭ったが、死のリスクを乗り越えて生き残った俺を含む僅かな魔人族は、一人一人が世界を滅ぼし得る程の力を得ることができた」

 「そこから数年間、この奇跡の力を完全に使いこなせるよう鍛錬と研究の日々を過ごして、準備していた。


 この世界を滅ぼして魔族の世界にするための、な...」


 ザイートは昏い笑みを浮かべて腕をを広げる。世界をこの手で支配することを示すように。


 「そんな、隠された真実が……っ」


 本当に初耳な内容だった様子の王妃は、顔色を悪くさせて動揺していた。


 「それが、モンストールの誕生秘話というわけか…そんなドーピング強化素材があの地底にあったとはな」


 俺の呟きに、ザイートは気が付いたかのように反論する。


 「ああ、そのモンストールのことだがな?俺たち魔人族はモンストールじゃないぞ?」


 「えっ!?」

 「な……!?」


 ミーシャとクィンが驚愕して動揺する。王妃も唖然としたリアクションをとっている。


 「お前たちが今まで戦ってきた同胞たちだが、あいつらの素体は魔物の死骸だ。

 そしてあいつらを屍族に変えたのも、俺たちの仕業だ。

 地底と地上にいる魔物どもを生け捕りもしくは死体にして持ち帰り、そいつらに瘴気を摂取させて強化させた、これが屍族モンストールの正体だ。あいつらは魔人族と違って、死体になった後でも強化が可能で、しかも生前と同じように行動できるという、動死体戦士としても使役できるようになった。

 俺たちはあの同胞たちを、“屍族”と呼んでいる。ああ、俺たち魔人族は、昔と同じ“魔人”で通しているからな。ま、もう昔の魔人族とは大きくかけ離れて規格外の力を持っているからどう呼んだものか分からないがな。ある意味、新種の魔族と言うべきか」


 「………」


 ザイートによるモンストールの真実を聞いて、俺は黙り込む。一方の三人はさらなる隠された真実を知ってひどく動揺していた。

 あいつらは……元は死体だったのだ。一部生きた素体もいたかもしれないが、ほとんどは死んだ魔物が魔石成分を取り込まされて復活して、屍族として活動するようになったのだ。つまり…動死体ど同義だ…!

 それって、同じじゃねーかよ。…!


 俺が全て分かったことに気付いたのか、ザイートは俺を指差してこう告げた。



 「お前も、人族から“屍族”として生まれ変わったんだよ。

 お前は俺たちに似た者、屍族と同類のようなものなんだよ」


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