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神堕とし
谷樹 理
異世界ファンタジーダークファンタジー
2024年10月23日
公開日
61,379文字
連載中
巨大な樹は神なのか?

第1話

 最近、近くに人々の街と言える集落が出来ていた。

 彼らは、どこからやって来たのか。

 技術レベルは、二度目の大洪水の直前の者を継承しているようにおもわれる

が、かなり劣化している。

 たまに私の回りで遊ぶ子供たちの姿人種はさまざまで、どこかの閉鎖的な集

団他達からの生還者とは思えない。

 多分、漂流民の集まりだろう。

 年齢も様々で、いつもその場の道具を使い、教えられたばかりの技術で新し

い遊びを造りだしている。

 そのうち、私が使われるとは思ってはいない。初めて私を見たときの彼らの

顔は忘れてはいない。

 驚異的なものをみる憧憬と、畏怖。

 その時から、彼らは私の元に集まりだしたのだ。守り 神として、扱かうよ

うに。

 私は百九十七本の腕をもち、脚は三百四十三本ある。指は千を超える。

 太陽の子を求めつづけた結果、いつしか身体が巨大化していったのだ。

 長く続いた大洪水の間も水中から手足を伸ばし続け、水面の波間を抜け出

し、鳥たちを飼っていた。

 やがて水が引き、大地が現れて暫くたった頃にも、その鳥たちは、今も私の

子孫の周りに季節ごとにやって来る。

 私が、そうするように命じたのだ。

 根を生やしている地面は、柔らかく、子孫達も大量に生息しているので、薄

暗く、最初、人間がその大人よりも子供のほうが先に集まって来るとは思って

もみなかった。

 というよりも、いまだ街を大きくするのに自前の物資を使っている人間の大

人たちは 、こちらに近づきもしない。

 私の知ったことではない以上、問題はないが。

 「よし今日は、かくれんぼだ」

 年長のエスパニック風の子が、7人ほどあつまった大小の子供たちに言っ

た。

 いつものように、私を全員で暫く眺めた後、円陣状になってからの声だっ

た。

 彼らは頷く数人と返事もせずにすぐに、走りだすなど返事はさまざまだった

が、あっという間に消えてしまったのは、確かだった。

 それに正直、驚きを隠せなかった。彼らの行動範囲内にも根は張ってあるの

だ。

 なのに、まったく姿が確認できなくなった。

 ただのかくれんぼではないのはないのか?

 子孫たちも同じらしく、戸惑いの揺れを見せている。

 皆、必死に子供たちの居場所を探していた。

  だが、どこにも姿を感じることができないでいる。

 子孫たちに冷静さを失わないよう、伝えたが実際、憤りかけているものもい

た。

 何とか落ち着かせて子供たちを探し出すように伝える。子供たちの心配をし

ているのではない。私達の心配をしているのだ。

 3時間が経つのがわかった。

 我慢の限界のものも出て来た。私は威厳をもってなさめさとした。

 だが、夕方にまでなると、私の伝達を聴こうとしないものが現れだした。そ

れでも彼らは耐え忍んでいてくれている。それでも無風なのに葉音の擦れる貧

乏ゆすりともいえる音が響く。

 すでに森は暗闇に包まれ太陽も沈むと、夜行性の大小の動物たちと身体を持

たぬのもの達が私たちの元で動き出していた。

 うすぼんやりとした明 りの飛沫を森の中に灯りだした。木々の蠢きととも

に、それは山の中の空間に一種、不気味な幻想じみた光景を浮かび上がらせ

る。

 精霊達―姿を持たぬものだ。

 子供らはどこにいったのか。

 不穏な精霊達の仕業か、訊いてみるが、彼らは嘲笑するだけだった。

 ならば、もう構う事はないかもしれない。

 私は森にそう伝達しようとした。

 その時、一人の人間の気配がした。

 ゆったりとした確かな足取りは、子供のものではない。

 光に照らしだされた格好は、茶色の裾の長いフード付の上掛けに白いインナ

ー、ストンとしたボトムを履いて、足元はサンダルだった。

 「驚かせてすいませんねぇ。ただ、子供たちに危害を加えるのだけはやめて

もらえませんか?」

 カンテラを持ち、団扇で細い首と鎖骨の浮き出た胸元を扇ぎながら―なら

ば、上掛けを脱げばいいものを―無警戒に現れて言ったのは若いアジア系とみ

られる、やや長めの黒髪を後ろで縛った青年といった歳の男だった。

 端正な顔に呑気そうな表情を浮かべているのが性格そのままといった印象だ

った。

 彼は私を含め、山の森全体に言っているようだった。

 実際、大した声量でもないのに、隅々まで意思は伝わっていた。

 奇妙なまでに説得力のあるものだったせいで、荒ぶりかけたものも、一瞬で

冷静になった。

 何ということか。

 私が威厳を持ち出して押さえていたものが、軽く手をひねるようにころりと

態度を替えたのだ。

 「何者か?」

 私は代理を出した。青年に問わねばならない。本来の姿のままでは不便だか

らだ。

 「どうもはじめまして、ユウトといい、この島に間借りしている者の一人で

す。貴方は森の主ですね。随分可愛らしい格好をした者ですねぇ」

 代理は耳と黒髪の長い小柄でやや子供ぽく、華奢な体付きの少女だ。褐色の

肌を肩をだし、黒革の衣装から素足を晒させた、ダークエルフ。

 青年に対しての警戒心半分、安心感半分といった選択の結果だった。

 とはいうものの青年は危険物は持っている気配はない。敢えて言えば、脳内

デバイスが複雑なまでに高度に改造されているところか。私でもそこの内部解

析は不可能だった。

 「姿で判断するのか? 甘いな。私はここの主ぞ」

 私は自身の枝の上で青年を見下ろしながら、わざと不快気に舌打ちした。姿

の選択の意図は上手く行ったらしい。

 森の存在は、すべからく彼に意識を集中させて、様子を見ていた。

 「いやぁ、正直に人間として褒めただけです」

 カンテラの明りで顔を浮かび上がらせている彼は微笑んだ。

 「最近ウチの子らがお世話になっているようで、お礼を申し上げます」

 「迷惑だ。ここは神域と心得ろ、人間」

 「たしかに。いつも、ここには入るな、神隠しにあうぞと言っているんです

がねぇ。やんちゃっこはいるもんでして」

 ユウトはのらりくらりと答える。

 その態度に不快がるものたちもいる。

 「しかし、改めて入ってみると、良い風情ですねぇ。数人集めて酒でもやり

たい所ですな、この神域というところは」

 多少、図に乗らせたか、面倒な事を言い出す。

 本来この森に人間は入れたくないのだ。

 ここは、私の場所だ。子供達はしばらく特別に黙認してやっているにすぎな

い特例だ。

 「勝手な事をほざくな、人間。ここは我らのものだ」

 勝手に子孫のもの達が、ダークエルフの意識に侵入し、不快さを本物にして

いる。

 「まー、そのときは、お神酒も用意しますから勘弁してください。ところで

お名前は?」

 「黙れ、ここに人間は入れん!」

 私の代理は完全に森の代理と化して、怒鳴った。

 「これは失礼。私は子供達を探しに来たのですが、心当たりはありません

か?」

 「しらんなぁ。もう、誰かに食われたのかもしれんぞ」

 「お名前は?」

 「そんなものはない。私はここの主だ」

 「じゃあ、名前を付けて差し上げましょう」

 ユウトの態度はすでに慇懃さがなくなっていた。

 我らとて誇りがある。この青年の態度と名前を付けるという勝手な縛りの言

葉に、ダークエルフは激怒した。

 「多少、痛い目に合わないと、私がどのようなものかわからないようだな、

人間……」

 彼女は完全に私の制御から離れた。

 まあいいだろう。好きにすればいい。人間が数人消えたとなると、ここに近

づく者もいなくなるだろう。

 例えば、こんな呑気で無礼な相手の亜種ともいえる好奇心の塊や、私たちを

道具に使おうとする、分を弁えない者たちだ。

 「子供らがいなくなったという事ですでに痛い目にあってますよ」

 「知らんと言っていようがっ! いね、人間っ!」

 「多少、痛い目にあっても、そのつもりはありませんよ」

 ユウトが挑発してくる。

 ならば、痛い目に合ってもらおうか。遠慮する必要は全くない。

 私は森のモノ達に、好きにするように伝達した。

 とたんに森の葉がざわめき、精霊たちに憑依した私の子孫たちが、今度は1

2人の大人のダークエルフの姿をとり、青年を囲んだ。

 彼らは長い髪をざんばらにして、顔は不気味に両口の端を釣り上げた部分だ

けで全体は見えず、猫背で、長い鉈を手にしてぶらりと下げていた。

 「あー、敵意があるわけじゃないんですが」

 ユウトは今更になって言う。

 もう遅い。

 森の意思は、彼の言う多少の痛い目どころか、すでに殺す事に決めていた。

 そんな中、青年は苦笑にも似た、 困惑の表情を浮かべていた。

 なんだ、この男の余裕ぶりは。

 ダークエルフが斧と見まごうほどの獲物で、一斉に彼に襲い掛かった。

 ユウトは見た目に寄らない軽快な動きで一撃、二撃をかわしたが、背後に打

撃を受けると、よろけて前のめりになり、カンテラを落とすと、さらに背中に

もう一振り喰らったところで、地面に倒れた。

 どうやら外衣は、相当頑丈な繊維でできているらしく、あれだけの重量の鉈

の撃ち込みを喰らっても、表面に痕が残っているだけだった。

 倒れたカンテラの火が消え、精霊たちが放つ光のかなで、ぼやけた姿だが、

それでも青年は気絶したであろうことがわかった。

 ダークエルフたちは、数人残り、あとは木の上に昇り、様子を眺めていた。

 すると、ユウトはやはり意識があったのか、不気味な口のなかで含んだよう

な、嗤い声を響かせた。

 「クッ、クックック……。よくやってくれる……」

 だが、よくよく聞いてみると彼の辺りでその声がしただけで、本人から出て

いる訳ではなかった。

 気が付いたのか、ユウトはゆっくりと立ち上がった。

 声は効き違いか? いや、私がそんなミスをするわけがない。

 近くのダークエルフたちは、再び身構えた。

 「これは、黙っている訳にはいかないなかぁ」

 青年は、挑発的で思惑気な視線で辺りを見渡した。

 「人間よ、もうあきらめて、街に帰るが言い。これ以上、ここにいるなら命

の保証はしない」

 私は言った。

 「ふふん、主とか言ってる植物がよー、粋がってんじゃねぇぞコラっ!」

 その声は、確実に青年の口からのものではなく、その近くからのものだっ

た。

 私には認識できないデバイスを使っているのだろうか。

 だとしたら、油断できない。

 早々に退去させるか、いっそ亡き者にしたほうがいいだろう。神隠しの森と

しては。

 「調子ブッこいてるなら、山ごと燃やしてやるぜっ?」

 ユウト本人は、相変わらずの呑気な顔をしていた。

 「随分と生意気な口を利くな。少しは無礼と思わんのか? それならそれ

で、こちらも容赦せぬぞ?」

 ダークエルフが言った。

 「それは、嫌ですねぇ」

 今度は確実に青年の声だった。

 「なので、先に失礼させていただきますよ?」

 外衣の内側に団扇を持った手をいれたかと思うと、抜き出したとき、団扇は

トリガー だけの機器に変わっていた。

 そして、何の遠慮もなく腕も伸ばさないうちに引き金を絞る。

 地が僅かに揺れた。

 確かに衝撃だったが、どうやら空から来るものだった

 ゆれたのは、私の子孫の方だった。

 そして、その理由が私にもわかった。

 街の方角から、ジェット噴射で飛来するものがあった。

 すぐに数十発の巡航ミサイルだとわかった。

 森中がざわめき、山が唸った。

 ミサイルは、我々の土地の至る所に小型の爆弾をばらまいた。

 焼夷弾らしきものが、爆発して木々をあっという間に業火の中に巻きこまれ

た。

 その地響きと爆風がしっかりと根を張っている私をも震わせる。

 「次は、あんたの番にしようか?」

 「わかりましたか? 幾ら神木とはい え、私は私の身が可愛いのですよ」

 ユウトと青年の脇からの言葉が連なった。

 「貴様、この私を脅してただで済むと思ったか……?」

 代理のダークエルフ少女は、怒りの形相で言った。

 実際、私は憤っていた。

 「元はといえば、貴様等が私の神域に侵入してきったんだぞ……っ?」

 声に憎しみが籠もる。

 だが、青年は涼しい顔だった。

 私を見下しているのか? この私を!

 「手癖が悪かったので、先にちょっとけん制させて貰っただけです。ただ、

言いたいのは私達は、あなた方の領域に入ったことはありません」

 「なんだと?」

 子供達が侵入して遊んでいたではないか。

 なにを言い出しているのだ、この男は。

 「私は、堕天師(だてんし) 。創造物(システム)の憑き物(レプリカント)を

堕とす者です。ここに、数体、憑き物(レプリカント)が現れたようなので、や

ってきたのです。決して貴方の敵ではありません。私の身が危ないなら別です

が」

 「わかったかこの、ぼんくら楠の木野郎っ!」

 二重の声を使う青年が言う。

 憑き物(レプリカント)だと? 私が認識できなかった? 精霊たちも騙され

た? 

 いや、まさか。だが人間の堕天師は油断ができない。なにより、神が造った

創造物(レプリカント)だ。神の相似だ。アダム・カダモンの子孫なのだ。

 「確証は?」

 ダークエルフの少女で訊いた。

 「貴方が、行方を追えなかった事です」

 この青年は、そこまで見透かしているのか……。

 「おまえならできる と?」

 「できます。その代わり貴方に一つ、頼むことが必要になってきます」

 「協力などできんぞ」

 私は己の無力を晒すようなことを言った。

 「ならば、協力できるようにするだけです。お願いが一つあるだけですよ。

あとは私がどうにかします」

 「強情はるんじゃねぇぞ、自分の立場をちゃんと考えろよっ?」

 一体、もう一人の声は何なのだ? いちいち私を不快にさせる。

 「その減らず口はどうにかならんのか? 実に気分がわるいだ」

 「すいません。デバイスがちょっと、アレなものでして」

 ユウトは悪びれる様子はない。危機感もないのか、この男は。

 途端に彼の頭が弾かれたように、横に曲がった。苦笑し、反対側をトリガー

を持った手で、軽くさする。

 「痛いな ぁ。アレなものはアレだろう?」

 小さく呟く。

 煩かった声が聞こえなくなった。

 トリガーといえば、焼夷弾のはずなのに、もう火は沈火している。

 それを理由に森で痛みを訴えたものはいなかった。

 どうなっている?

 なんということだ。1000年以上生きた私でさえ、現状認識ができていな

い。

 「……内容を聞くだけ聞いてやろう」

 私はダークエルフを通じて、言った。

 ナタをもった戦闘要員達は、すでに距離をとって様子を見させている。

 というより、担当の子孫がミサイルのピンポイント攻撃に本気で恐れを抱い

ていた。

 あのトリガーからの攻撃は、時限爆弾を抱えられているのに近い。

 「なに、簡単です」

 青年はさも、事易しいかの ように言った。

 「貴方に名前を付けさせて貰います。それだけです」

 それだけも何もある訳がない。情報ネットワークの鍵をよこせと言っている

様なものだ。

 「我々は、ここで暫く街を造り、居座らせていただきます。そのために、森

の鎮護もさせていただきたく、許可を願うしだいなのです」

 「鬱陶しいなぁ、もったいぶってないで早くさせろよなぁ」

 「好きにせい……」

 私はこの青年に、やや興味を持ちはじめたというのが、正直なところだ。

 危機にあっても調子を崩さない、首尾一貫した意志と主張。ただの貧弱な人

間の青年かと思いきや、いざとなったときの驚きの恫喝行為。それもわたし達

には直接被害の無いやり方で、効果的 に脅してくる。

 この私にそんな態度を取ろうとは、面白そうな奴ではないか。

 ユウトは、一礼して謝意をのべた。

 そして、トリガーを持たないもう片方の手で、再び団扇を取り出して扇ぎな

がら、暫く考えたようにして口を開く。

 「では、貴方の名前はアカシアにしましょう。そして、そこの可愛いダーク

エルフの女の子は、カアーナです」

 とたん、私は代理人との直接の同位状態から、はずされ少女の姿の別の生き

物になる。 同時に私に人間の複雑で猥雑なネットワークが入り込む。そこで

は、私は巨大な意志をもった情報体の一つに過ぎなくなる。

 私を越えるものが居ないのは満足してもいいことだが、釈然としない。それ

を、ユウトと街の人間が察知する。

 「ありがとうご ざいました」

 青年は微笑んで一礼をした。

 「それで、憑き物(レプリカント)というモノは?」

 私の声が直接、ユウトに伝わる。

 青年は思案ありげに団扇を扇いでいる。

 私には、わかった。

 森の中の木に、異質のモノが数本あるのが。

 それは、情報体の中でも、渦を巻くような黒点として認識できた。

 「それですか。おかげで、残りの逃亡先が見つけられました」

 微笑んだ青年は言った。

 「しかし……」

 彼は続ける。

 「彼らはそんなに性質が悪い訳ではないので、これで良しとしましょう。失

礼しました、アカシア様。我々の鎮護神として、これから見守っていただける

ことを願っています」

 一礼するとユウトは身を翻して、精霊たちが薄い光りを浮かび上がらせる森

の中、私の本体から帰って行こうとした。

 だが、百メートルも行かないところで、彼は足をとめた。

 「んー……」

 何か呟いたらしい。

 「カアーナ、居ますでしょ?」

 辺りに向かって声を響かせる。大した大声ではない。軽く呼びかけたと言っ

たところだ。

 「何か用か?」

 カアーナはすぐに返事をした。警戒といったモノがなく、彼の背後の木の上

で見下ろしていた。

 青年は認識していないが私には分かる。

 カアーナは戸惑っていた。

 唐突に私から分離させられ、恨む気持ちと、誕生させられ新しい世界を見せ

られた者としてのユウトに対する好奇心。

 ユウトは彼女を見上げると、苦笑したような顔を見せた。

 「道に迷いま した。案内お願いしますか?」

 呑気な男だと私は思った。

 「私を放り出すからだ、馬鹿者め……」

 カアーナは木から飛び降り、腐葉土の上にブーツで立つと、冷笑を浮かべて

みせた。

 「いやあ、あの方を堕とすのに、必要な手続きだったもので。放りだすっ

て、森には仲間がいるでしょう?」

 「なに他人事丸出しでいってるんだ。あんた無害そうなナリして、実は凄く

冷淡なんだな」

 かすかにユウトの口角がつり上がったのがわかった。

 「いきなり堕とされて、受け入れてもらえる仲間も何もないだろう」

 もう一人の人格が言った。

 カアーナは複雑な感情になった。

 「まあ、暫くウチの街にいきますか。後で 、この森を守る役目を頼もうか

と思っていたところです」

 「そんな役目……。私はまだアカシアの記憶しかもたない無力な存在でしか

ない。産まれたばかりだからな」

 彼女は自ら弱みを晒した。

 「だから、しばらく街に住んでみればいいと思いますよ?」

 「住むところは、用意してくれるんだろうな? 私はおまえたちの子供を神

隠しにあわせた本人だぞ?」

 ユウトは意外そうな表情になった。

 「おいっ、まさか何も考え無しかっ?」

 カアーナは沸いた怒りを抑え込むようにした口調で言う。

 「考えてなかったです。取りあえず、暫くウチにでも寝泊 まりしておいて

ください」

 「知らない男の家にいきなり泊まれるかっ!」

 「ホテルに泊まらせるほど、お金持ってないんですよ」

 「堕天師業してるんだろう? 今回の仕事で金はいるだろうっ?」

 「いや、今回のはほぼボランティアというか……」

 ユウトは、少し困った顔をした。

 「なんだよ? ボランティアでこんな危険なことしたのか?」

 危険といえば危険だった。実際、記憶ではこの男を始末しようとする子孫た

ちを押さえるのに必死だったのだ。

 「まあ、詳しくは街に行けばわかりますよ」

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